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私は、一般外科(消化器、呼吸器、乳腺、小児)・救急を経験したのち、心臓外科の道に進みました。現在勤める病院で心臓外科を始めましたので、私は単一施設で、もっと言えばたった一人の師匠(上司)から心臓外科手術を教わり、現在に至ります。ですから、私の手術手技は部分的にではなくその99%が師匠の手術のコピーです。
天野先生が天皇陛下の手術で執刀された冠動脈バイパス手術を例にとって言えば、冠動脈という2mm程度の血管に別の血管(グラフト)を縫い付けるわけですが、縫う順番、方向、針の角度から身体の向きに至るまでほぼ完璧に同じです。だから、自分が執刀しているときに助手を務める上司からのアドバイスは、そのニュアンスの細部の含みに至るまで瞬時に理解出来ているつもりです。100%と言っていないのは、「ここだけ先生(=上司)と僕は違いますよね!」と、無数にある手術手技の中でほんのわずかな違いをお互いに指摘出来るほどだからです。
この冠動脈バイパス手術の手技を競い合うコンテストが学会主催で行われているのですが(もちろん、ブタ心臓を用いた手術シュミレーションです)、私は3年前にその大会で優勝することができました。現在勤める病院も、失礼ながら上司も、心臓外科の世界では特別目立つ存在なわけではありませんが、この大会で自分の手技が認められたことは、そのまま上司の手技が認められたことであり本当に心から嬉しかったです。
私は現在も、積極的にオリジナリティを出そうなどとは思っていません。それは目的ではないからです。しかしながら、良い手術結果を生むために、手術がより研ぎ澄まされたものになるのであれば、そのときは少しのずれが生じてくるのを認めてもよいだけの経験を得てきたのかなと、最近ようやく、そう思えるようになってきました。
これは手術に限らず、いかなるテクニックにも通じることですよね。
今の時代は、映像保存が簡単に出来るようになり、外科医のlearning curveも物凄く急峻になっています。それだけ若い人の追い上げが厳しいわけで、我々ベテランもボーッとしてられません。
まだまだ頑張ります。
「人が何かに習熟して一流になるのにかかる時間」は累積1万時間が必要だと言われています。もし睡眠(6時間)以外をトレーニングにあてるとしたら、555日で一流にはなれる。
どんな分野でも、下積み時代は誰よりも早く「累積1万時間」を超えて一人前になる意識を持てると良いのかもしれない。
また、経験曲線効果と言われますが、特定の課題について経験を蓄積すると、より効率的・生産的にその課題をこなせるようになる。
圧倒的な学習と経験を継続することで超人の域に入る。
超一流になるためには、誰もが途中で投げ出してしまうことを、継続して実践することが大切。
今日も頑張ろう!
引用
爪切りにせよ、皿洗いにせよ、リンゴの皮むきにせよ、「手術の上達に役立つ」という意識で取り組めば、どんなことも格好のトレーニングになるのです。
そうなるといつしか本当に別人のように生まれ変わることができます。そんな最高の自分になるというプロセス自体が楽しく充実感を生むので自己実現とは至福の道です。更にその最高の自分が人様のお役に立てるものであれば喜びと感謝の連鎖という対人調和のサイクルも回るのでより楽しいプロセスとなります。
教えてもらえば楽だが、安易に得たものは、身につかないことが多い。その時はできたとしても、再現性が低い。
天野さんがおっしゃっていることは、まさに真髄。
「瞬間、瞬間の場面を頭に焼き付けました。そして記憶を再生して、自分で同じように、何度も繰り返しやってみる」
真剣に観察して、自分でやってみて、高みを目指す。そうやって得たものこそ、再現性がある。つまり、自分のものとして身につく。効率重視では極められないということ。