掲載サイト数を80分の1に
数週間前、米大手銀行JPモルガン・チェースは、毎月約40万のウェブサイトに広告を表示していた。自動ツールを使ってインターネット上で消費者に訴求しようとする大手企業にとって、目玉が飛び出すほどの広告数が当たり前になってしまった。
しかし、偽のニュースサイトや不快なユーチューブの動画横に広告が表示されるなか、「事前に承認した約5000のウェブサイトのみに広告を表示するようにした」とJPモルガンの最高マーケティング責任者、クリスティン・レムカウは話す。
すると驚くべきことに、表示に応じた広告のインプレッション単価も、認知度も変わらなかった。
こうした事実は、広告の自動技術(数百万に及ぶサイトに広告を自動で表示する)を広告主側が疑いつつあることを示している。
近年、広告主は個々のサイトの広告を購入するのをやめ、利用者の閲覧習慣に基づいて安価な広告の利用を増やしてきた。これはプログラマティック広告と呼ばれる。
例えばベビーフードのガーバーの広告を、地方の母親のブログに表示するなどだ。
しかし、インターネット広告のリスクが明らかになるにつれ、一部の広告主は、自社の広告が数十万の未知のサイトに表示されることの価値について疑問を抱いている。
数百万回の表示が実際に売上高の増加につながるのだろうかと考えるようになった。
レムカウはこう述べている。「(広告の制限を始めてから)まだ数日しか経っていない。だが、広告の効果を示す指標が悪化している様子はみられない」
ヘイトスピーチの隣に表示
レムカウはまた、通信大手ベライゾンなど大手企業の広告が意図せずにヘイトスピーチやテロを推進する動画の横に表示されたという報道を受け、ユーチューブの広告も取りやめたと付け加えた。
JPモルガンは4月10日の週までに、ユーチューブの広告を「人がチェックした」1000のユーチューブ・チャンネルだけに制限する予定だ。
インターネット広告の最大の利点は、低価格で広範囲に、またニッチサイトで人々に訴求することである。
広告取引所であるインデックス・エクスチェンジによると、伝統的なメディア企業上位50社が所有する広告は、毎日販売されている数兆の広告インプレッションの5%以下。グーグルの表示ネットワークだけで、200万以上のウェブサイトが含まれている。
ネット広告の分析会社のオープンスレートによると、ユーチューブには広告が資金源となっているチャンネルが300万以上ある。平均10万ドルの広告キャンペーンが7000以上のチャンネルで展開されているという。
広告テクノロジー会社アンダートーンの共同創業者、エリック・フランチは、JPモルガンにならって広告を制限する企業が増えれば、いわゆるインターネットのロングテール(ニッチ商品の品ぞろえを増やし、売り上げ全体を増やす)を構成する小規模サイトの運営者や、証券取引所をまねたシステムを通して数兆の広告インプレッションをブランドから消費者に届ける広告テクノロジー企業に打撃となると指摘する。
フランチは、「自社のプラットフォームを通したすべての広告について一定の手数料を徴収している企業の場合、広告量が突然95%減少してしまったら、見通しがかなり暗くなるのは間違いない。これらの企業の多くは、その一部は株式を公開しているが、1日または1秒に提供している広告数を評価基準にしている。広告主が姿勢を変えれば、かなり興味深いことになるだろう。そうなれば、これらの企業はどのような評価基準を報告することになるだろうか」と語る。
人力でサイトを確認
JPモルガンは3月、傘下のチェースの資産運用部門の広告が「ヒラリー・フォア・プリズン(ヒラリーを投獄せよ)」というサイト横に表示されたと本紙が伝えたのを受け、サイトを事前に承認する「ホワイトリスティング」を検討し始めた。
このサイトには、俳優のイライジャ・ウッドが、「ハリウッドを牛耳る悪魔のようなリベラルの倒錯者についての身の毛もよだつ真実」について明らかにしたという見出しがつけられ、ページの真ん中にはけばけばしい画像が表示されていた。
レムカウによると、最近30日間にJPモルガンの広告が表示された40万のウェブサイトのうち、有益だったのは3%に相当する1万2000サイトにすぎなかった。
研修生が手でこれらのアドレスすべてをクリックして、広告を表示したいようなサイトであることを確認したところ、約7000はそうしたサイトではなかったため、結局サイト数は5000に削減された。
レムカウは、業界の一部から、消費者への「訴求と効率性」において不利になると警告を受けたものの、この変更の実施は予想より容易だったと語る。
JPモルガンはすでに昨年、グーグルとアップネクサスと協力して、自行のプログラマティック広告を監視することを決めていた。チェースがすでに表示広告についてホワイトリスティングをしていたため、これをユーチューブにも拡大する決定は難しくなかったという。
レムカウは「ユーチューブ事件の前から、われわれはプログラマティック広告について調べていた。問題は、ほかにもホワイトリスティングをすべき広告があるかどうかだ」と述べ、こう付け加えた。
「いずれ、人が逐一確認することになるだろう」
(執筆:Sapna Maheshwari記者、翻訳:飯田雅美、写真:TARIK KIZILKAYA /istock.com)
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