SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、少子化に加えて教育アプリの登場などで変化を続ける学習塾市場の動向をみる。
4月から進級、進学を迎え、学習塾の利用を検討している人も多いのではないだろうか。先月のSPEEDA総研では、教育費全般を扱ったが、今回は教育費の中でも学習塾に焦点を当てて考えてみたい。

少子化でも受講生は増加

少子化が続く中、当然学生人口も減少しているが、学習塾受講生の数は増加基調となっている。生徒数、売上ともに2006~2016年比で1割程度増加したことになる。

高額な教育費を負担できる家庭は一部

よく知られている通り、教育費は青天井になりやすく、私立学校に通えば総額2千万円ともいわれる。さらに学校外での補習、受験対策などで学習塾に通えば相当な金額になる。
家計調査によれば、教育費を一定程度支出できるのは世帯年収450万円程度からであり、これは概ね半数の世帯が該当する。
さらに学校外の補習費を多く支出しているのは600万円程度からとなる。教育費の支出に占める割合をみると、年収が上昇するほど高水準となっており、逆に低所得世帯は教育にコストを割けない実態がうかがえる。
さらに年齢別の所得分布をみてみると、30~50代で年収500万円以上の約1,700万世帯が学習塾に一定の金額を支払える顧客層となる。40代ともなれば750~1,000万円の世帯も増えるため、高額なコースを選択できる家庭も多くなる。少子化の中で売上を伸ばすには、こうした家庭をターゲットに単価を上げる施策が戦略の一つとして挙げられる。
では学習塾の市場についてもう少し細かくみてみよう。

集団指導が中心

学習塾市場の売上構成比をみると、集団指導が6割超となっている。
さらに生徒数と平均授業料(売上/在籍生徒数)の分布をみると、生徒数では小・中学校の集団指導が3/4を占める。
個別指導の生徒数は少ないものの、集団指導に比べて1.5倍近い授業料のため、一定の存在感を示している。

大手各社は立ち位置で差別化

次に業界大手のポジションをみる。
各社ともグループに多様な業態を抱えるが、中核事業としては集団指導のものが多い。さらに集団指導では、早稲田アカデミーは小学校、市進は中学校、ナガセ(東進ハイスクール)は高校など得意分野に特性がある。
また、個別指導型も2000年代より急速に増加、存在感を見せている。特に明光義塾はフランチャイズ方式で個別指導でも低価格を実現、急速にシェアを広げた。
上場大手塾の生徒数の推移をみると、明光義塾は2000年時点と比較して2倍以上と、その躍進ぶりが顕著である。その他の大手も増加基調にはあるが、明光義塾と比較すると見劣り感は否めない。

一部では単価低下も

しかし、明光義塾も気になる点がないわけではない。2015年度は生徒数の減少とコストアップにより減収減益となった。単価も2014年度に低下している。
単価低下は明光義塾だけの問題ではない可能性もある。大手の生徒一人当たり売上高(売上高/生徒数)では、栄光ゼミナールや東京個別指導学院では単価上昇が見られるが、市進は景気が悪化した2000年代後半より低下が続く。
単価低下の問題は統計からも垣間見える。
2012年と2014年で比較すると、集団指導型では1,000~2,000円/hの構成比が上昇している。1時間1,000円未満は個人経営塾等と考えられるため、大手学習塾では低価格帯の需要が増加している可能性がある。
個人指導型ではさらに低価格帯の増加が顕著だ。5,000円以上の割合が縮小し、2012年ではほとんどなかった1,000円未満のサービス利用がみえる。
統計の特性上誤差の範囲ともとれるが、スタディサプリなどの教育アプリの登場、低額の家庭教師サービスであるトライグループ(家庭教師のトライ)の躍進なども考えると、こうした低価格サービスにつられて大手学習塾の単価が低下することもありうる。

教育費でも費用対効果の視点が必要

低価格サービスの登場に大手は苦戦を強いられているかもしれないが、新たなサービスには低所得世帯でも利用できるという大きな意義がある。図でいえばこれまで学習塾の対象外であった年収500万円未満の世帯も利用できるため、日本全体にとってはプラスの要素が多いといえるだろう。
また、親の観点からすると、選択肢が増えるのはよいことではあるが、子供の将来がかかっているだけにどこまでかけるべきかを悩む人もいるかもしれない。
教育費を考える上でひとつの視点になるのが費用対効果である。価値観の醸成や友人関係など金銭に換算できないものはここではおいて考える。
大卒と高卒の賃金格差を時系列で示した。大学全入時代といわれていても、大学等進学率は男性で52%(2016年度学校基本調査)であり、30代以上となれば収入格差は確実に発生する。しかもその差は近年上昇傾向にあるようだ。現状では生涯賃金という意味で数千万円の開きが発生するため、統計的にいえば教育投資は回収できそうである。
とはいえ、今後年功序列型賃金が緩和される可能性は高く、また大卒内部での賃金格差はこれより小さいであろうことを考えると、やみくもにコストをかけるのは難しい。

まとめ

NewsPicksのニュースにも登場する通り、教育分野はICT活用が期待されており、教育アプリなどもまだ増えると思われる。大手の学習塾は今後さらに厳しい状況となり、多少のサービス追加では単価上昇は見込みにくい。
保育・幼児教育、社会人教育などの対象人口の拡大や、海外進出、業界再編などが考えられるほか、学校授業の補完や進学校への受験対策に留まらず、例えばプログラミングなど生徒の能力自体を伸ばすサービス展開もありうる。受験対策は合格という目的達成の手段に過ぎないが、能力を伸ばすことができればそれ自体が価値を生む。
また低価格サービスには、人材育成の点で大きな寄与が見込まれる。同時に、大学の奨学金制度や大学教育内容についても、改善を進めていく必要がある。
教育は経済発展にとって最も重要な要素であるが、その現場はまだ改善点が多い。最近では民間の教育ツールを学校側が取り入れることもあるようだが、民間ビジネスと教育機関が両輪となって教育界が進展していくことを期待したい。