WBCで見えた米国との差。侍J小久保監督の成長と限界(前編)

2017/3/29
2017年3月に開催された第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、「世界一奪還」を掲げた侍ジャパンは準決勝敗退に終わった。この結果をどう受け止め、今後の成長につなげていくべきか。2月の宮崎合宿から東京ラウンドまでを取材したスポーツジャーナリストの氏原英明とNewsPicks編集部の中島大輔が、侍ジャパンの課題について語り合った。

重かった米国戦の1点

中島 今回のWBCでのベスト4という結果について、どう評価していますか。
氏原 ベスト4は悪くはないと思います。ただ目標は世界一だったので、そこを達成できなかったことに物足りなさが残りました。
中島 同感です。準決勝は1点差で敗れましたが、アメリカとの差を感じました。
氏原 侍ジャパンは2次ラウンドまでと、準決勝の戦い方を変えたと思います。
僕は1月の代表メンバー発表会見のときに、小久保裕紀監督に「このメンバーはスモールベースボールをするのではなく、打ち勝つ野球をするようにしか見えない」と質問すると、小久保監督は「打ち勝つことはできないと思う」と言いました。でも、僕はそういうメンバーには見えなかったんですよね。
アメリカラウンドで対戦する可能性があったドミニカ共和国、アメリカ、プエルトリコ、ベネズエラの4カ国に日本が勝てるとしたら、アメリカ戦でやったような、とにかく点をとられない戦い方。打線は長打を期待するのではなく、スモールベースボールで少ないチャンスで1点をとりにいく野球をするべきだと思います。
でも、そういう試合運びができるメンバーではないように見えました。
中島 オールスターのような選び方で、いい選手を上から集めたような印象です。メンバーから「こういう小久保野球をするぞ」という色は見えなかったですよね。
氏原 結果的に言うと日本ラウンドで大勝するメンバーであって、優勝するメンバーではなかった、ということですよね。
中島 わかりやすいのが、準決勝アメリカ戦の初回の菊池涼介の送りバントです。オランダ戦でも0対0で迎えた2回無死2塁で坂本勇人に送りバントをさせました。東京ラウンドではオランダ戦だけアメリカラウンドのような戦い方(=スモールベースボール)をして、イスラエル、キューバには横綱相撲のような戦い方をしました。
アメリカ戦はどういう野球をするのだろうと見ていましたが、初回から雨が降っていたこともあるでしょうけど菊池に送りバントをさせて、やはりスモールベースボールをするんだと感じました。
その戦い方はいいと思います。日本のストロングポイントである投手力を生かし、ロースコアの展開に持ち込む、と。でも確かに、「じゃあ、そのメンバー?」という疑問が残りました。
氏原 菊池の送りバントはいいんですけど、8回、山田哲人に送りバントをさせる采配は違うと思います。代打の内川聖一がヒットで出て、ここで反撃するという場面で山田に送らせて菊池で勝負するのは「逆だろ?」という話じゃないですか。少なくとも内川に田中広輔を代走で使っていたわけだから、盗塁は無理としてもエンドランとか。山田という2年連続トリプルスリーをした選手でチャンスを拡大して、菊池で何か面白いことをする。そして3、4番を迎える。
あそこで1点をとりにいくのは悪いことではないですけど、「送りバントをやらせるのがなんで山田なの?」と思いました。そういう野球をしたいのなら、1番バッターは山田ではないはずなんです。田中か、そういうタイプであるべきなんです。
そう考えると、メンバーとやりたい野球の構成がずれている。だから日本ラウンドでは大勝できるけど、アメリカでスモールベースボールをやりたいときにそういうメンバー構成になっていないから、ああやって僅差で負けたと思います。

準決勝を想定していなかった

中島 小久保監督は理想主義者だと思います。相手を考えなければ、アメリカ戦の打順が侍ジャパンとして理想的ですよね。それだけにオランダ戦の「1番・田中」に驚きました。小久保監督はこういう手を打てる人なんだ、と。
今回のWBCで、理想主義者の小久保監督が現実に折り合いをつけながらいろんな手を打っていったのはすごく評価できると思います。
氏原 そうですね。
中島 そうしたなかで迎えたアメリカ戦は「理想の打順で戦うのか」というのと、こんなに打てないんだと悲しくなりました。中田翔が「メジャーリーガーはものすごい」という話をしていましたが、1点差以上の差を感じさせられましたね。勝つにはロースコアに持ち込むしかなくて、その試合運びは良かったんですけど。
氏原 僕は最初のメンバー発表の時点では不満だったんですけど、小久保監督はこのメンバーのなかでそういう野球をうまくやっていたと思うんですね。オランダ戦の「1番・田中」は、あのメンバーのなかでできるスモールベースボールをやろうとしたからです。接戦を勝つにはこういう野球だ、という手を打てる監督ではあったと思います。でも、準決勝のように本当の勝負を勝つためには、西川遥輝(日本ハム)がほしかったな、と。
中島 大会前の強化試合のころ、WBCのどこまでのラウンドを想定して戦っているのかと疑問に感じていました。明らかに日本・韓国ラウンドとアメリカ・メキシコのラウンドのレベルが違っているのは、首脳陣もわかっていたはずです。「準決勝くらいの相手を想定して強化試合に臨んでいる部分はあるのか」と稲葉篤紀コーチに聞いたら、そういうことはないような返答でした。そこがずっと引っかかっていたんですね。
ドミニカ共和国は2次ラウンド最後のアメリカ戦で2対0の2回無死2、3塁から1点でもとれていたら、結果は変わったと思います。実力的にドミニカ、プエルトリコ、アメリカは日本より上でしたね。
氏原 そうですね。オランダのメジャーリーガーたちは実力が違ったので、千賀滉大クラスじゃないと抑えられません。あとのピッチャーは1イニングずつしか抑えられない。それが試合に出ていたと思います。
準決勝、決勝を想定してチームづくりをしてこなかったことが敗因ということですよね、二人の結論としては。

疑問の残った投手起用

中島 総括として、小久保監督と首脳陣の評価をしましょう。
氏原 正直、見直したところはありますよね。
中島 そうですね。小久保監督が宮崎合宿の2日目に「クリーンアップは基本、坂本、筒香(嘉智)、中田で動かさない」と言ったことで、僕はすごく不安になりました。本当にそう思って言っているのか、もしくは選手を叱咤する意味で言っているのか。結果的に、かたくなにやり方を変えない監督ではなくて良かったです。選手もうまくモチベートしましたね。
ただピッチャー問題というか、ピッチングコーチの権藤(博)さん問題が……。
今回のWBCでは不可解な投手交代が何度か見られた。その起用法について、小久保監督(右から2人目)は権藤コーチ(右から3人目)にすべて任せていたという
氏原 権藤さんとの関係性がよくなかったですね。合宿中に藤浪晋太郎がブルペンで投げた日、権藤さんに話しかけにいったんですよ。「藤浪は第2先発という位置付けですか」と聞いたら、怒ったんです。「第2先発なんて失礼なことを言うな。これだけのメンバーがそろっているのに、第1も第2もあるか」と。
第2先発っていう言葉は僕がつくったわけではなく、侍ジャパンがつくったんです。小久保監督が記者会見でも言っていた言葉を否定するところに、この二人はちゃんと話をしているのかなと不安に思いました。監督の意図に、コーチが納得していないじゃん、と。ちゃんと連携とれているのかなという違和感のまま本大会に行ってしまったのでは、と感じましたね。
中島 今回はすべての投手起用を権藤さんが決めていたようですね。小久保監督は「すべてを権藤さんに任せています」と言っていて、それは聞こえのいい言葉ですけど、最後に決断し、責任を持つのは監督です。実際、不可解な起用がいくつかありました。
イスラエル線では8点リードの最終回にクローザーの牧田和久を登板させたり、オランダ戦で1点リードの9回に則本昂大を投げさせたり、もっと言えば藤浪は果たして招集する必要があったのか(スポーツナビに参照記事。初戦のキューバ戦2次ラウンドのオランダ戦イスラエル戦)。
コーチに任せるのはいいんですけど、責任をとるのは監督です。そこを小久保監督が背負っているようには見えませんでした。それが評価できないポイントです。
氏原 あれだけバッティングに関してはうまく連携がとれていたのに。オランダ戦では、それがゆえの打順の組み替えだったと思います。そこは投手との決定的な違いですよね。投手の起用から、それを感じませんでした。
中島 権藤さんは78歳と小久保監督より30歳以上も年上で、しかも監督として横浜を優勝させたというキャリアを持つ人です。小久保監督が投手起用について何か言えるような関係性ではなかったのかもしれません。
氏原 そこは周りも、権藤さんに対して言ってあげなくてはいけなかった気がします。上の人が引かなければいけないと思いますね。監督は小久保さんなので。
中島 普通の組織はそうなっているんですけどね。
氏原 日本ハムでは、栗山英樹監督は「基本的に投手起用は吉井(理人)コーチに任せている」と言うんですね。でも、監督としてわがままを言う。「こいつを出したいんだ」と言って、起用して、その後をコーチがマネジメントしてくれる。「俺より詳しいコーチがたくさんいるから、任せている」というのがありながら、決断は思うようにやっているよ、と。すごくいいじゃないですか。
そういう関係性が侍ジャパンにはありませんでした。
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
*後編「侍ジャパンは本気で『世界一』を目指す気があったのか」は3月30日(木)に掲載します。