[東京 24日 ロイター] - スポーツのライブ中継で日本に上陸したDAZN(ダ・ゾーン)が順調に加入者数を伸ばしている。起爆剤となったのはNTTドコモ<9437.T>との提携で、加入者は30万件を突破したもようだ。

しかし、主要コンテンツであるJリーグ中継には10年間に2100億円の放映権料を支払う契約になっており、資金負担は重い。加入者数は伸びているとはいえ、投資を回収できるレベルには程遠く、ビジネスの先行きにはなお難路が待ち構えている。

<ドコモ30万件超に>

DAZNは世界規模でスポーツ映像コンテンツの制作や配信を行っている英パフォーム・グループによるスポーツのライブ中継サービスで、日本やドイツ、オーストリアなどでサービスを提供している。

日本では昨年8月にサービスを開始。サッカーのJリーグやブンデスリーガ、野球、バレーボールなど年間6000以上の試合を配信することで、幅広いスポーツファンの獲得を目指している。

サービス開始直後にはJリーグ開幕戦の一部試合で視聴できないトラブルが発生したが、関係者によると、先週時点の加入者数はドコモ向けサービスだけで30万件を突破しており、今のところビジネスは拡大基調にある。

加入者数が伸びている最大の要因は、ドコモユーザー向けに設けた低料金のコースの効果だ。DAZNを直接契約した場合の正規の月額利用料は1750円。これがドコモユーザーの場合はドコモ経由で契約すれば月980円となるため、正規料金での契約を躊躇(ちゅうちょ)していたスポーツファンがいっきに流れ込んだ。

Jリーグ中継から撤退したスカパーのJリーグ関連の加入者が「20万件程度だった」(関係者)ことを踏まえると、Jリーグの村井満チェアマンが狙ったJリーグの試合を観られる人を増やす「すそ野拡大」という意味では、無難な滑り出しと言えそうだ。

DAZNのジェームズ・ラシュトン最高経営責任者(CEO)は17日、ロイターの電話インタビューで、30万件という数字について「正確ではない」としながらも、「大体それくらい(in the ball park)」であることを認め、「われわれはドコモの数字には非常に満足している」と語った。

<DAZNからドコモへ>

だが、DAZNにとってドコモとの提携は諸刃の剣でもある。関係者によると、DAZNに正規料金を支払っていたドコモユーザーがDAZNを解約して、ドコモ向けサービス乗り換えているという。同サービスはDAZNとドコモが収入をシェアする形になっており、DAZNの取り分は980円よりもさらに少なくなる。

関係者によると、DAZNとドコモのレベニューシェアは、加入者数を3段階程度に分け、加入者数に応じてドコモの取り分が増える契約になっている。ドコモに加入者獲得のインセンティブをつけた格好だ。だが、これは加入者の増加ほどDAZNの収入が増えないことを意味する。

Jリーグと契約した10年間で2100億円という放映権料は、1年平均では210億円の支払いとなる。DAZNがこれに見合う収入を上げるためには、正規料金の1750円で最低100万人の加入者が必要だ。

だが、正規料金からドコモユーザー向けの低料金サービスに加入者が流れていることを考えると、採算が取れる加入者数は100万人では足りず、さらに多くのファンを取り込まなければならない。

関係者によると、JリーグとDAZNとの契約は、最初の3年間は年160億円を支払い、その後増えていく取り決めになっているという。ラシュトンCEOは「取引が長くなるほど、支払額は高くなる」契約であることは認めたが、詳細については言及を避けた。

加入者の伸びが鈍化すれば、支払い負担が重くなるというリスクがある。

<DAZNは強気崩さず>

ラシュトンCEOは電話インタビューで「料金と機能などの面で差別化してプレミアムなスポーツ動画を提供し続ければ、われわれはWOWOWやJCOM、JSPORTS、スカパーなどの有料放送と同等の加入者数を持つプラットフォームになることができるだろう」と自信を示した。

同CEOは日本には1000万人のJリーグ・ファンがおり、このうち100─110万人がスタジアムに足を運んでいると指摘。残りの潜在顧客層に対しても「魅力的なサービス提供できると確信している」と述べ、「中長期的には非常に自信がある」と語った。

だが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルが昨年10月に公表した「スポーツマーケティング基礎調査」によると、2016年のスポーツ関連のインターネット有料配信の市場規模(推計)は伸びているとはいえ、111億円にとどまっている。過去1年間にスポーツ関連のネット有料配信に支出した人の割合も全体のわずか1.7%(有効回答数2000人)だ。

Jリーグの村井チェアマンは2日、視聴トラブルを受けたDAZN会見後に記者団に対して「10年スパンの投資モデルなので、短期的な事象(トラブル)によって変質するものではない」と述べ、契約履行に対する懸念の払しょくを狙ったが、スポーツ映像配信をめぐってはソフトバンクも「スポナビライブ」で攻勢をかけており、競争は激しくなっている。

業界関係者からは「市場が広がっている手応えを感じている」との声も聞かれるが、スポーツ映像のネット配信はまだ立ち上がったばかりで、正確な市場規模はまだ見えない。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の白藤薫氏は、今後も市場の伸びが期待できるとしながらも、「囲ってばかりで露出が少なくなるとスポーツの人気はなくなる。一部をタダにしてでも裾野を広げておかないと、有料で払う人はどんどん少なくなるので、そのあたりは考える必要がある」と語った。

DAZNの手探りの市場開拓は当分続きそうだ。

(志田義寧、サム・ナッセイ、ティム・ケリー)