【牧野×若山】若手人材に求めるのはチャレンジ精神と覚悟

2017/3/28
UTグループは前身となる会社が1995年創業、ワークスアプリケーションズは1996年創業と、ほぼ同じころに創業し、それぞれ人材派遣業界、IT業界の常識に風穴を開けてきた点が共通する。UTグループ社長若山陽一氏、ワークスアプリケーションズCEO牧野正幸氏、2人の起業家に、経営方針、採用についての考え方を聞いた。
感覚的経営と戦略的経営
──お二人は旧知の仲とか。
若山 牧野さんとは、創業経営者、その中でも上場企業経営者だけの集まりがありまして、それがきっかけでお付き合いさせていただいています。 
牧野 最初に会ったのは2004年くらいかな。もう13年も前か。
若山 当時30代前半だった私はメンバーの中で最年少でした。
牧野 マネジメントの手法とか、経営者ならではの話だけじゃなくて、人生の話とか親友でないとしないような話もするんですよ。
星のや東京 お茶の間ラウンジにて盃を交わし旧知を温める。牧野氏(右)は滋賀県の天然酵母を使った酒、若山氏(左)は三重県のにごり酒を
── お二人の起業の動機は何だったのでしょうか。
牧野 僕の場合は、社会への義憤から作ったんですよ。業界の体質をはじめ、当時のIT業界はいろいろおかしいことがあって、このままだと日本企業の国際競争力が低下していってしまうなと。
若山 僕は最初から経営者になりたかった。厳しかった父の影響もあり、誰かに指示されるよりも主体的に働きたいと思っていたので。ただ、人材派遣のサービスを提供していくプロセスの中で、自分が社長としてやりたいことも変質してきました。
創業した20年前、人材派遣で上場企業は1社もありませんでした。派遣業界は人が集まるところだから、会社を開かれたものにしていくべきなんじゃないか、そうした問題意識があったからこそ、人材派遣業界で初めて株式を上場しました。
人材業界の常識からは外れてでも、労働者のためにもっといい環境を提供していきたい、そんな思いが企業経営のモチベーションになってきたのは事実ですね。
牧野 若ちゃんはいつも戦略的だよね。目標があったらそれに対してどのアプローチが一番いいのかということを、感覚よりも戦略的に考える。数少ない、尊敬できる経営者の1人です。
僕はIT業界にいるので論理的だと思われがちだけど、本当は感覚的。右脳的に経営するんですよ。若ちゃんに「それが目的なら、こうすればいいじゃないですか」とよく言われましたよ(笑)。
若山 牧野さんの経営はアーティスティックな雰囲気がありますよね。僕の場合は結論が先。その結論に対して、今何をすべきか、戦略的に考える。ここは牧野さんとの決定的な違いかもしれませんね。
UTグループ 代表取締役社長 兼 CEO 若山陽一氏
経営に句読点を打ちながら前進する
──経営へのモチベーションは、起業時と今とでは変わりましたか?
若山 ものづくり分野の派遣事業で実現したいことはいくつか出てきているので、そのために働いているという感覚が強いですね。
30代は、ビジネスに対する向き合い方が「数字をいかに追いかけるか」だった気がします。与えられた数字をどうやって最短で最大化していくかという「算数」的な経営。46歳の今、僕が変わったなと思うのは、経営には「国語」の要素が大事だと思うようになったことです。
例えば社員の感情、会社の事業としての社会的価値、それからそもそも自分は何のために 事業しているのか。自分の中の納得を一つずつ「国語」に置き換えて自問自答し、句読点を一つひとつ打たないと前に進めない自分がいます。
数字主体の「算数」だけだと自分の中でストーリーができ上がっていかない。それは30代ではなかった感覚です。
牧野 僕の場合は変わっていないですね。日本向けからグローバル向けに変えたところはあるけれど、顧客に対して生産効率をいかに上げてもらうか、という基本は同じです。
社員に対しても、成長できるフィールドをどれだけ提供できるかをずっと目標にしていました。それをコミットできる組織を作らなければならない。この2つは当初から追い求めていたことです。
若ちゃんが言う、算数的な経営は全く意識していない。対外的には売り上げ目標を出しますが、「10年後に売上高をいくらにするぞ!」とやったことは、一度もないんですよ。
頭の中にあるのは売り上げではなく「人材と開発のためにいくら使えるか」ということばかり。優秀な人材を採用したい、研究開発費を使いたい、この2つしか考えていないわけです。そこに費用をかけるためには、これくらい売り上げがないと成り立たない、という逆算です。
若ちゃんの言葉を借りると、句読点を打つタイミングでは利益も出さなければならない。でも、利益は最後にドーンと出てくるものだと思うんですよ。今はイノベーションの時代なので、初めから利益が予想できるようなことは起きないと思う。
ワークスアプリケーションズ CEO 牧野正幸氏
雇用を最大化することが使命
──事業目標を意識してきたという若山さんと、利益の予想は難しいという牧野さんは、一見、対照的です。
若山 非常にレベルの高い話だけど、牧野さんの意見も理解できます。要は、利益とは結果であるし、また食料のようなもので、たくさん食べたい、効率よく食べたいと思っていてもその通りに行くとは限らない。
僕は人が生きている目的というのは、自分の才能を使い切ることだと定義付けています。経営で必要なことは人の可能性を広げる行為だと思っていまして、携わる人々の可能性をいかに高めることができるのかが、僕の事業だと思っているんです。
UTグループが中期目標を立てているのは、具体的な数値目標は、達成したい姿に含まれているからです。「算数」で見ても「国語」で見ても矛盾がないようなイメージを作っています。
牧野 うちも中期的な計画は作ります。中期目標というのは、こうなるでしょうと見えるから作る、読める数字。これだけ使うつもりだからこれだけ売り上げなければならない。ある程度準備も終わっている、という数字です。
でも、読める数字ではない「10年後」まで、数字で引っ張ることには無理がある。
若山 牧野さんと僕では、ずいぶん違うことを言っているようですが、意味するところは同じだと思います。
UTグループの目的は「仕事創発価値」、つまり仕事を作り、雇用者の総数を増やすことです。人件費と利益の総和が企業の価値になると思っています。
牧野 企業価値ってそうだよね。
若山 分解していくと、全てのコストは人件費と原材料になります。その総和に、企業としていかに価値を足していけるかが、その企業の存在意義でしょう。当社の場合は、雇用を最大化することが使命だと思っています。
企業の価値は「人しかない」
──人材については、どのように考えていらっしゃいますか。
牧野 「企業は人」。これはどの経営者でも必ず言うことです。当社の場合は企業の価値は「人しかない」、と思っているんです。
採用の専門部隊であるリクルーティンググループだけで50、60人の規模で、日本では最大級ではないでしょうか。その上でインターンシップ制度を設けて、約1カ月間のインターン期間はエース級の社員が何人も、かかりきりになるわけです。採用にこれだけ力を入れているのは、当社にはイノベーションを起こせるとびきり優秀な人材が不可欠だからです。
若山 中途採用はどうしても経験を求めますが、共感をベースとした新卒採用は、会社の基礎を作るのに大切だと思っています。
弊社も今年からインターンシップを導入しました。実際に100万円を渡して1週間、実際に事業を起こしてもらうものです。優秀な学生が参加してくれているようで、楽しみです。
牧野 新卒採用は毎年ゼロから始めなければなりません。ですからインターンシッププログラムでは継続性が重要で、手を抜いてはいけない。
さらに中途採用マーケットでも優位に働く。お客様の中にも当社のインターンシップ経験者は結構いて、海外で出会った投資家が経験者だったということもあります。
「プロ経営者」志願者求む
若山 今回UTグループでは、「プロ経営者コース」という、3年で執行役員になっていただくコースで未来の経営者も募ります。(*インターンシップ、プロ経営者コースについて、詳細はこちら
ビジネス自体に投資できるステージに入っていますし、事業自体をインキュベーションしていかなければなりません。
働く機会はまだまだ整備されているとは言えず、そこがUTグループにとってのビジネスチャンス。雇用を創出する基盤を使って事業をどんどん成長させていく人材が必要です。かなり限定的な人材となりますが、優秀な人にはチャレンジングなポジションでしょう。
牧野 すごくいいじゃないですか。こういう採用方針が増えることで学生は油断できなくなる。そういう学生が増えれば即戦力になる。
即戦力というのは「もう一歩踏み込んで物事に対する解決策を考える」力です。専門知識は半年くらいしっかり勉強すれば身につきます。でも仕事に必要なのは、とにかく自分で考えるという力です。日本の詰め込み型、受け身型の教育システムは簡単には変わらないと思いますが、まず変わるのは企業の側。
UTグループの「プロ経営者コース」は、そういう企業姿勢を示せますね。
若山 プロ経営者コースは初年度の年俸600万円、執行役員に昇進したら年俸2000万円になると言っています。しかし金額だけが独り歩きすると、プログラムが無意味になる可能性が高い。
事業家としてどうやって「こと」をなしたいのか。そこに注意しながら採用を進めていきます。それなりのことを考えて申し込んできている、そこに可能性を感じます。
採用でも、「こういう人材が欲しい」という目的があってこその戦略的なプログラム設計です。
「やめる」選択肢はない
──最後に、失敗の乗り越え方を伺いたいのですが。
牧野 失敗は山ほどある。「ほぼこれで間違いない」と思ってやってみて間違うこともある。それが5%くらい。社員に謝ったこともありますよ。全社員朝礼のとき「去年のあの判断は間違っていた。あれは失敗だった」と。でも、失敗したらすぐに修正します。
ワークスアプリケーションズは、「失敗を許容する文化」が浸透している会社です。チャレンジして失敗することは、むしろ評価される。失敗したからといって評価が下がることもない。
失敗しても立ち直れるし、逆に成功しても継続性はなく、チャレンジし続けなければ評価はされない。挑戦する姿勢そのものや、そのプロセスを最重要視する文化が根付いているんです。
若山 牧野さんが同じ言葉で話されたので驚きました。当社も失敗を許容する文化ですね。成功の継続性がないことも失敗の許容度を高めていることには今気がつきました。
先日、勤続10年以上の幹部社員の食事会で「この10年20年で、感情が一番上にも下にも振れたときはいつだったか」というテーマで順番に話してもらう機会がありました。
初めは「上場したときの気持ちは忘れません」「リーマン・ショックのときは求人数が激減し、事業が崩れ去っていくのを見てつらかった」という話だったのが、どういうわけか「あのときは会社を辞めようと思った」という話に変わっていって。僕は感動する場面を作ろうと思って話を振ったのに(笑い)。
その場面が印象的で、後で気がつきました。僕は一度も経営自体をやめようと思わなかった。ピンチのときに踏ん張れたのは「やめる」選択肢がなかったからだと。
偉そうな言い方をすると、それは覚悟ということです。逃げ場をなくすと問題を解決するしかなくなります。やめられないなら、自分が合わせるしかない。それがピンチのときの乗り切り力なのではないかと思っています。
だから僕は次のキャリアを考えている人は採用しません。最後の会社だと思って仕事しないと踏ん張りがきかないと思っているからです。どう覚悟を持つか、それによって失敗のリカバリーは違うはずです。
牧野 若ちゃんは、メンタルがめっちゃ強いですよ。こんな強い人間見たことないです。「苦しい」みたいなことは言わないし、戦略的に先を見据えて着々と手を打っているんです。だから選択肢がないのではなくて、どんな問題が起きても、こたえていないんだと思いますよ(笑い)。
若山  僕はどちらかと言うとピンチのときの方が、自分の考えがクリアになるんです。新卒でも中途でも、とにかく、どんな状況からも逃げ出さず、覚悟をもって仕事に臨める人に来てほしいですね。
(編集:久川桃子 構成:阿部祐子 撮影:岡村大輔)