学生に100万円渡す「とんでもないインターン」の真意

2017/3/23
成長企業はインターンシップ制度を有効活用して、優秀な人材の早期発見や企業ブランディングの向上に役立てている。一方、学生にとっても就職前に実務を学べる場として有益で、インターン制度への応募は活発だ。2017年、1つのインターンが話題になった。なんと、100万円を使ってリアルなビジネス体験ができるのだ。その「ミリオン」を企画したUTグループの小野雅人執行役員と、組織人事や人材育成の専門家であるリンクアンドモチベーションの麻野耕司さんの話から、インターン設計の極意を考える。
100万円を使ったインターンはあまりにも“リアル” 
麻野:御社のインターンシップ「ミリオン」が“とんでもない”とお聞きしました。そもそもインターン自体が初めての試みだそうですね。
小野:今期からの導入です。新卒採用はエンジニア派遣で働く方を中心に行っていたのですが、2018年卒から「プロ経営者コース」という特別採用枠を設けました。
これは名前の通り、入社後3年間で経営者として育成して、4年目から執行役員にするという特殊なコース。学生の適性を見極めるためにアイデアをひねり出したインターンが「ミリオン」です。
内容はいたってシンプルで、5〜6人の学生1チームにつき100万円の資金を渡します。その資金を使って、7日間で実際にビジネスをしてもらうんです。
麻野:その“実際に100万円を渡す”というのがすごいんですよ。私も相当な数のインターンを見てきましたが、優勝した1チームに賞金が出るケースはあっても、学生さんに実際にお金を渡してビジネスをしてもらうケースは初めてです。2月に実施されたという第1回の結果が気になります。
小野:弊社の理念は「はたらく力で、イキイキをつくる。」。それを広義に捉えて、「人がイキイキするためのビジネス」を作るという条件で、5人1組で3チームに参加してもらいました。
結果は……見事全チームが100万円を増やせませんでした(苦笑)。そもそも、最初はどう使っていいかもわからなかったようです。
麻野:そうでしょうね。企業で業務に携わるのではない疑似体験型のインターンの多くは、「新規事業立案」が軸です。自分で何かを生み出したい、世の中を変えたいという思いを持つ学生は多いですから。
ただそれは、あくまでも“会議室のなかの新規事業”であって、リアルではない。提案するだけか、実際にやるかという部分は、大きな違いですよ。
小野:「ミリオン」では、ビジネスプランの策定に1週間かけて、次の1週間で実際に事業を行います。条件の中に「ネットで完結しない」ということも盛り込みました。リアルは必須で、それにプラスしてネットを使うならOK。
学生で会社を経営している人もいますが、アプリ開発などネットで完結していて、人を介さないものが多いのです。私たちUTグループは人材派遣業ですから、そこにはこだわりました。
2月というタイミングを生かし、ひなあられの販売をビジネスにしたチーム。
麻野:UTグループの経営者候補なら、ユーザーの顔を見てビジネスをせよ、ということですね。
「仕事の現場を経験させないとインターンとは呼べない」なんて意見もありますが、1週間働いたところで、学生にはお茶くみやコピー取りくらいの簡単な仕事しか任されないことも多いんですよ。
それで仕事の本当の面白さや厳しさが学生に伝えられるかは疑問です。どんな仕事でも、面白さを感じられるまでには半年から1年、時には5年から10年かかりますからね。
そういった意味で「ミリオン」は、実際にお金をもらって、外に出て、お客様に会って。短期間ながら、新規事業の面白さや厳しさが凝縮された形で詰まっていると思います。
「集める」「見極める」「口説く」の3ステップ
小野:正直に言うと、「学生を引きつけたい」というのがすべてのスタートなんです。UTグループには、企業としての認知度が低い、人材派遣業にネガティブな印象を持つ学生が多いという課題があります。
そこで、インターンにエッジを立てて、ブランディングを含めて面白いことがしたいと思いました。また、プロ経営者コースという特別なコースにつながるインターンなので、ある程度大胆に資金を投入して、ビジネス感覚のある学生を見極めたいという狙いもあります。
麻野:見極めのポイントはどこですか?
小野:ポイントは3つ。1つめは「リーダーシップ」。26歳で経営者になると、ほとんどの部下が年上なので、リーダーシップは重要です。2つめは「やりきる力」。学生のビジネスプランの作成は、言い方は悪いですが、結構ゆるゆるなんです(苦笑)。
麻野:それはそうでしょう(笑)。絶対に事業計画どおりにはいかないでしょうね。
小野:でも、それをどう立て直すかによって、本人にやりきる力があるかどうかがわかるんです。
3つめは、最後まで自分たちが立てたビジョンと方針から離れずにやれるかどうか。当社は人材派遣会社ですが、「非正規労働者の働き方改革をしたい」という大きなビジョンがある。そのビジョンに共感してくれるかどうかが、経営者の採用基準として最もウェイトが大きい部分です。
入社後いろいろな局面があっても、大きなビジョンへの共感があれば、踏ん張れると考えています。
麻野:利益を上げることに偏らず、大きな信念に沿って、リーダーシップを持って動ける人材を求めているということですね。
経営は、お金や人などのリソースを集めて「考えて」「決めて」「配って」「使って」というプロセスの繰り返しです。このなかで最もリーダーシップが問われるのは「決める」という場面。
「商品企画」でも「新規事業開発」でも、提案だけなら誰も損をしないので、ほかのインターンはこのステップが軽くなります。でも、実際に100万円を使うとなれば、ものすごい葛藤が生まれますよね。
私は常々「51%のメリットと49%のデメリットがあるときに決断するのがリーダーの仕事だ」と言っています。80%のメリットと20%のデメリットで悩む人はいないので、それを「決断」とは呼ばないんですよ。「ミリオン」は、そういうギリギリの決断の場面が必ず出てきそうですね。
トレンドの「グラノーラ」を販売したチーム。寒空の下、健闘した。
小野:何度もありましたよ。それによって頭角を現す学生もいましたが、逆にリーダーシップを発揮しすぎて、ほかのメンバーとの軋轢(あつれき)からリタイアする学生もいて。ビジネスそのものがなかなかスタートできなかったチームもありました。
麻野:それは机上で話しているだけではあり得ない事態ですね。素晴らしいと思います。
小野:リーダー格ではない学生が1人離脱して、それに責任を感じたリーダー格の学生が離脱して。説得して1人戻ってきたり……とドラマがありました。
ただ、プログラムの最後のプレゼンでは、紆余曲折あったチームが一番まとまりがあったんです。ギスギスしていたのに、いつの間にかニックネームで呼び合う仲になっていたりして。大きな壁に当たって、仲間意識も芽生えたんでしょうね。成長を感じました。
麻野:インターンを成功させるためには「集める」「見極める」「口説く」の3つのステップが重要だと言われています。ミリオンは、人気のある新規事業系のインターンで、さらにリアルなビジネスが体験できるから、「集める」はクリア。学生には真のリーダーシップが問われるから、「見極める」についてもOK。
最後の「口説く」という部分に関しては、学生が「インターン楽しかったー」で終わってしまえば、会社にとってのメリットはまったくない。だからこそ、会社のことを知ってもらう、会社に魅力づけをするといった工夫が必要なんですが、「人がイキイキするためのビジネス」というテーマによって、それも盛り込まれている。
学生たちも成長を実感できれば、理想的だと思います。
「人事」で企業の本気度や一貫性が丸見えに
小野:リンクアンドモチベーションは自社のインターンも有名ですし、他社のインターンのサポートもされていますが、メンターにするのはどういう社員がいいんでしょうか。
私はメンターとして1つのチームと行動を共にしましたが、愛着がわいてきて、選考目線が抜けてしまいました。彼らがいろいろ失敗しながら、悩み、壁を突破していこうとする様を間近で見ていたら、全員採用したくなってきて(苦笑)。
小野さんがメンターを務めたチーム。京都で外国人観光客を対象に記念撮影ビジネスをした。
麻野:気持ちはわかりますよ。学生の人気を高めるためにも、メンターから直接フィードバックが得られる、成長実感を得られる仕掛けは重要です。
自社の場合は、6人1グループにメンター1人で、インターン中つきっきりでアドバイスします。「アニキ」的な存在として、学生とかなり親しくなるケースも多いですね。
サポートさせていただく企業には、「こういう人を採用したい」というお手本になるような社員をメンターにするようアドバイスしています。メンターに共感した学生は入社する確率も高くなりますから。また、優秀な社員と思いを共有できている学生なら、入社後のマッチングにも期待できます。
小野:経営者を育てるのだから、と役員をメンターにしたのですが、試行錯誤の段階なので心配していたんです。
麻野:正しい選択だと思います。そういう意味では、「人が大事」と話す企業でも、結局優秀な社員を人事や採用に配置せず、営業にばかりかためていた場合、「『人が大事』は表面的な発言だな」と感じることもある。どういう人を採用担当にしているか、メンターにしているかで、その会社の人材に対する本気度がわかります。
ところで、派遣社員から執行役員になった小野さんを筆頭に、UTグループには他に類を見ない「たたき上げ」の人がたくさんいると思います。「ミリオン」を経験して入社したエリートコースからポンと来る人と、うまくブレンドはできそうなんですか。
小野:もともと上下が激しく入れ替わる社風なので、あまり問題はなさそうです。弊社では管理職以上はすべて1年の任期制で、やりたい人がやりたい部署に手を挙げるエントリー制度を採用しています。だから、今年の部下が来年の上司というのが普通の状況なんです。
もちろん、その状況になじめず辞めてしまう人間もいます。私自身、最初はどうなることかと思いましたしね(苦笑)。
プロ経営者コースの人たちも4年目には執行役員になりますが、5年目からは通常のエントリー制度に合流して、通常の人事の枠組みのなかでやってもらいます。
麻野:そうか。5年目はまた、どうなるかわからないわけですね。
小野:そうですね。理論上、エントリー制度では入社2年後から役員になれるので、「普通に入社したほうがプロ経営者コースより早い」と考える学生が来てくれたら、それも面白いと思っています。
麻野:人事制度から採用、インターンまで、一貫して社員の挑戦を支えようという御社の姿勢が見えてきますね。メリットだけでなく、デメリットもきちんと把握した上で、挑戦を選んでいる。ほかの会社が上っ面だけまねしようとしたら、大けがをしそうです。
小野:「挑戦と成長」というカルチャーがUTを支える軸。労働市場の大きな改革に挑むためには、自分が成長し、会社も成長させていかなくてはならない。やはり、ビジョンに共感する人間が会社を支えているんです。
麻野:ミリオンはこれからどんどん人気が出てくるでしょうから、ぜひ続けてください。私も参加したいくらいですよ。
■Million(ミリオン)のここがスゴイ!

✔実際に100万円を運用してビジネスを実践し、収益化まで行うので、他のどんなインターンよりも実践的です。

✔年商440億円、従業員数11,000名の上場企業の経営陣がメンターとなります。事業計画や資金運用などについての的確なフィードバックがもらえます。

✔同世代の優秀な学生と出会う機会が得られます。チームとして活動しますので、深いつながりを得ることもできます。

✔100万円という責任を負い、自分と本気で向き合う経験は、ただの就労体験にとどまらず、自身の人生を考える上で大変貴重な機会となります。

✔事業で得られた収益は、全額報奨金としてお渡しいたします。

✔評価の高かった方には、3年間で上場企業の執行役員を目指す、「プロ経営者コース」の最終面接パスを付与します。
(編集:大高志帆 構成:唐仁原俊博 撮影:加藤ゆき)