ゼロから「まち」ができるということ

2017/3/24
2011年3月、原発事故で福島県12市町村の人々が自宅を追われた。2016年11月の時点でも、約8万5000人が避難中だった。しかし2017年の春、4町村で避難指示が解除され、この数字が大きく動く見込みだ。この変化を前に、福島では何が起きているのだろうか。一般社団法人RCFの藤沢烈代表理事に話を聞いた。
藤沢烈(ふじさわ・れつ)
一般社団法人RCF代表理事。一橋大学卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、東日本大震災後、震災復興のための調査団体としてRCFを設立。復興事業の立案・関係者調整を担う「復興・社会事業コーディネーター」として、30の政府機関・自治体、10の大手企業とプロジェクトを推進。著作に『社会のために働く』(講談社)、共著に『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する』(春秋社)
ゼロからまちが生まれる未来志向の場所
──福島県の浜通りを国際研究産業都市にする動きがありますね。
藤沢「福島イノベーション・コースト構想」に基づき、国が2016年度は143.4億円、2017年度は97.6億円の予算をかけて、ロボット、エネルギー、環境・リサイクル、農林水産業などの分野で44のプロジェクトを推進しています。
原発で成立していた過去には戻れない地域ですから、産業基盤を再構築する必要があります。人が戻ってくるので、まちづくりに取り組む人材も求められています。僕は、この2年ほど、福島で企業の誘致や求人、新規創業などを支援してきました。
──これからの福島は、どうなっていくと思いますか。
もともとの住民に廃炉関係者や移住者が加わり、ゼロからのまちづくりが始まります。人口減少の日本にあっては異例の状況なので、そこに可能性を感じる未来志向の人が集まる場所になるでしょうね。
この「未来」には、発展性を含んだ未来の他に、「これからの日本」の縮図という意味もあります。6年も経つと避難先の職場や学校を離れにくい人が増え、帰還住民の多くは高齢者なのです。究極の人材不足と高齢化から始まる福島の歩みは、未来の他の地域のモデルになり得ます。
ただ、新設の「小高産業技術高校」に来春から500人の高校生が通うようになる南相馬市の小高(おだか)区などは、むしろ全国平均よりも若々しい活気ある地域になっていくかもしれませんね。
──これからの福島で期待できる産業には、どんなものがありますか。
ひとつは、ハイテク農業です。今の福島には投資しやすい環境が整っているため、成長産業ではないと見られていた分野にも光が当たるのです※。室内で温度や湿度を高度に管理したり、ドローンを使って人手をかけずに肥料をまいたりする未来型農業は、全国各地で応用可能でしょう。
水産業では、原発事故の影響で本格操業ができない間に、図らずも魚が増えて、資源保護型漁業のヒントを示しました。被災を機に、課題を抱えていた一次産業が生まれ変わる可能性が見えてきたわけです。これまで欠けていたマーケティングやマネジメントの視点を積極的に取り入れる動きもあるので、都会のリーダーにとっても参入のチャンスと言えそうです。
実際、若い有能な方々が何人も福島で活躍しています。ここ1、2年はリーダー同士のつながりも生まれ、彼らに感化されて起業する若者も出てきています。
※福島には「ふくしま産業復興企業立地補助金」「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」という3種類の企業立地補助金が用意されている。
住む人、戻りたい人がいる限り
──新年度から、富岡町、浪江町、飯舘村、川俣町でも帰還が始まります。
被災12市町村のうち大熊町と双葉町を除く10市町村で、避難指示が解除されます。長い時間を経て、ひとつの大きな区切りを迎えたと言えます。
すぐに帰るつもりで着の身着のままで逃げた方々も、避難が長引くにつれ、帰還を諦めかけていました。ですから、本当に戻れるとなった今、「やっと」と思う方と「もう?」と心配する方と両方います。ただ、苦渋しつつも各自治体の議会が決断した以上、帰還が進んでいくのでしょう。
春の帰還に向けて、半年ほど前から元住民の準備宿泊※が始まっています。多くは、戻る意志の強い高齢の方々です。まだ数百人規模ですが、そこで生活を営む人がいる以上、衣食住はもちろん、銀行や床屋やガソリンスタンドなど、あらゆる種類のサービスが求められます。数年のうちに一気に人口が数千人までふくらむ見込みの地域もあるので、起業の促進が必要なのです。
※避難指示解除後の生活再開準備を目的に、特例的に避難指示下の自宅等に宿泊できる仕組み
南相馬視察ツアーのひとこま。現地の起業家のプレゼンに聞き入る参加者たち(写真提供:RCF)
「福島」から未来のビジネスを考える
──福島の創業者ネットワーク「フロンティアベンチャーコミュニティ(FVC)」が2月に発足しましたね。
福島浜通り地区のキーパーソンを中心に人をつなげ、同エリアでの創業を加速させる取り組みです。東京でのキックオフには学生から50代まで多彩な面々が100人ほど集まってくれましたが、若干、懐疑的な意見もありました。
一方、富岡町の発足イベントでは、関東出身の若い女性がコミュニティスナックの立ち上げを宣言するなど、元気な意見が目立ちました。この福島の明るい雰囲気が、県外の人に知られていないのは惜しいですね。FVCでは、現地視察ツアーなどを通して交流の輪を広げ、このギャップを少しずつ埋めていく考えです。
福島県富岡町イベントのようす(写真:RCF)
──どんな起業家に期待していますか。
福島での起業は、多少とがった感性の人に向いているのでは。面白い例として、川内村に工場を持つコドモエナジー(本社:大阪市)があります。同社は、タイの大手コーヒーチェーン「カフェ・アメィゾン」と提携し、自社が開発した蓄光素材「ルナウェア」のPRも兼ねた日本1号店を川内村に出店しました。店長含め5人の従業員を地元で雇い、年中無休で営業中です。福島への世界的な注目をうまく生かしたと言えるでしょうね。
福島は当時、海外からも非常に心配され、たくさんのボランティアに来てもらいましたが、多くの人にとって福島は今も被災直後のイメージのままだと思います。実際、大きく変わるのはこれからなのですが、元気になった姿を世界に示すことも恩返しのひとつ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、世界中の方に福島の元気な姿を見ていただきたいですね。
福島には、苦難を超えて明るい未来を描く民間の人々がいます。彼らに対して自分には何ができるのか、また、原発中心だった地域が今後どのように生まれ変わるのか。まずは現地を見て、一緒に考えてほしい。そして、起業家の皆さんにはぜひ、チャレンジの場としての福島を再発見してほしいです。
福島ビジネスをけん引するキーパーソン
南相馬市小高区出身の和田氏は元プログラマー。東京のIT企業の役員就任を機に、2005年にUターン。小高で被災し避難生活を経て、2014年ごろ、再び妻と幼い子どもたちと帰郷を決意。小高の生活基盤をつくることを自らの仕事にしようと「小高ワーカーズベース」を起業した。
避難指示解除準備区域※だった頃から小高に通い、JR小高駅近くに事務所を兼ねたコワーキングスペースを開設。現在はパートを含め8人の従業員と、帰還住民の暮らしを支えるビジネスを次々と起こしている。
同社が南相馬市の委託を受けて運営している仮設スーパーマーケット「東町エンガワ商店」は、高齢の住民たちの毎日を支えている。また、2015年に開業したガラス工房「HARIOランプワークファクトリー小高」では、女性が活躍している。職人の研修費などを募るクラウドファンディング(ふくしま復興・創生ファンド)には、10日間で52人から計122万円が集まった。
和田氏は「ここでのビジネスは非合理に見えるかもしれないが、ステレオタイプの価値観では選ばれない地域だからこそ、行き詰まり感のある日本社会にブレークスルーを起こせる可能性が高い」と語り、「現代日本に突如生まれた唯一で最後のフロンティア」となった故郷で、移住者用のシェアハウス開設など、次の一手を探っている。
小高ワーカーズベース 南相馬市小高区東町1-37 http://owb.jp/company/
※空間線量率から推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実とされるエリアだが、基本的に日中しか立ち入れない
食品の宅配事業を営んできた髙島氏は、東日本大震災後すぐ、有志と「東(ひがし)の食の会」を発足。放射性物質への不安に消費者が揺れる中、東日本の農家や畜産農家、漁師の情報を発信してきた。「おいしい食品をつくって事業を支えてくれている生産者に今こそ恩返しをしたい。だが自社だけでは小さな存在なので、グループを作って皆で一緒に恩返ししようと思った」と動機を語る。髙島氏はこの活動に事業で培ったノウハウを生かしてはいるが、企業としてではなく個人として参加している。
「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」の委員でもある髙島氏は、福島の食について「食べる気の無い方に『安全ですよ』と伝えるより、応援したいという方にしっかり届けるほうが有効。応援したくても応援の仕方が分からない方が少なくないので」と語る。「東の食の会」では、福島産の米で革新的な甘酒「Cozy Beauty」を開発するなど、伝統を尊重しつつ新たな発想で福島の食のブランド化に挑戦している。
6年目の今年、「復興を超えた長期的な創造のステージ」に入った同会では、岩手・宮城の水産業リーダー集団「フィッシャーマンズ・リーグ」が香港とバンコクで商談ツアーを決行。世界に打って出た。4月には、これまでに東北のリーダーと全国のビジネスリーダーの間で形成されてきたコミュニティの維持と発展を図るため「東北リーダーズ・カンファレンス」を初開催する。
一般社団法人「東の食の会」 https://www.higashi-no-shoku-no-kai.jp/
福島市にある従業員15人の「エンルートM's(エムズ)」は、産業用ドローンの全国販売とソリューション提供会社として、2016年に創業(母体のMTS&プランニングは1983年設立)。産業用モーターなどを製造する有限会社ワインデング福島(南相馬市)と協力して、メイドイン福島の害獣対策用ドローンと無人車両の開発を進めている。「福島イノベーション・コースト構想」実用化開発補助金に採択されたプロジェクトだ。
全国のシカ、イノシシを含む害獣被害は年間200億円以上。特に福島県の原発被災地では、狩猟による捕獲圧が低下した上に、避難で耕作放棄地が増え、野生鳥獣が生息域を拡大。帰還住民の生活を脅かす存在になっている。2017年3月末に避難指示が解除される浪江町では、全町民が避難していた6年の間にイノシシが急増。農地や民家にまで侵入してくる状況で、「住宅エリアから追い出すには相当な努力が必要だ」(辺見氏)。
辺見氏は、ドローンと無人地上車両を使って、空と陸からイノシシを威嚇する技術を考案。イノシシが怖がるようなドローンの飛び方、LEDフラッシュの発光、匂いや音などを工夫しつつ、改良を重ねている。辺見氏は「測量やインフラ点検、農業用の扱い全機種で、初年度の2016年度は400機を販売した。補助金を除いた売上高は約5億円。3年後には30数億円以上、5~6年後には50億円超を目指す。将来的には高専卒の学生などを、ドローン開発の技術者として地元から採用したい」と抱負を述べた。
エンルートM's https://enroutems.co.jp/
(取材:瀬戸内千代 編集:久川桃子 藤沢氏ポートレート撮影:稲垣純也)
「福島の今」を広く国内外にお伝えするため、関係機関の協力の下、昨年度から、福島の広報動画を作成・公開しております。この度、最新版動画『福島の今2017春』が完成しました。