【学校レポ】導入1000校以上。サプリが改革する高校の学び

2017/3/28
高校生の学力アップや受験対策のツールとして広まった「スタディサプリ」は、生徒が個人で利用するほか、高校のカリキュラムの一環として導入されるケースが拡大。教室の内外で生徒の学習をサポートする新しい「学びの形」として、すでに全国1000以上の高校で利用されている。そのなかでも特色ある2校のスタディサプリ活用事例をリポートする。

【CASE1】講義のピンポイント活用で東大受験者が倍増

千葉県八千代市の豊かな自然の中にある八千代松陰学園は、15万平方メートルを超える広大なキャンパスに中高あわせて2800人もの生徒を有する大規模校だ。1978年に、アマチュアスポーツの普及に努めた教育者・山口久太氏によって設立されて以来、生徒の持ち味を生かす教育を貫いている。
「創立からの理念は『命がけの教育をすること』」と語るのは、創立2年目から同校で教諭を務め、現在5代目校長と理事長を兼任する竹川威氏だ。教員の熱意ある指導のもと、高校駅伝出場を果たした陸上競技部をはじめ、部活動が盛ん。その一方で、国公立・難関私立大などへの合格実績も多数あり、文字通り「文武両道」を実現している。
「生徒には命がけの教育を」と語る竹川威校長
同校の特徴のひとつに、生徒の習熟度にあわせ、教科ごとにクラスをかえる「レッスンルーム制」がある。学力にあわせて、最大9段階のクラスが用意され、生徒ひとりひとりが自分の学力に適した授業を受けられる仕組みとなっている。
定期試験ごとにクラス替えが行われるシビアな環境ではあるが、生徒のモチベーションを上げる効果がある。同時に、教師の指導力の向上にもつながっているという。
竹川校長は、「学校において何かを変えることは非常に難しい。しかし、変えない惰性より、変える勇気を選ぶ」として、2016年からは「改革プロジェクト」を開始。その一環として、学校全体のICT化に着手した。
現在はGoogle for Education で校務管理を行い、2017年からは中学・高校1年の全生徒にChrome Bookの導入を予定している。
利便性という観点からすでに予備校のサテライト授業を取り入れていた八千代松陰学園が、新たに「スタディサプリ」の導入に踏み切ったのは2016年のことだ。
「スタディサプリは、従来のサテライトシステムよりコストを抑えられる上、場所・時間を問わず学習できます。そして、ピンポイントで生徒の習熟度にあわせた学習ができることが大きかった」と、プロジェクトメンバーの金子智之教頭は話す。

運動部の生徒の「すきま時間」をフル活用

金子教頭がスタディサプリ導入を検討したきっかけは、ある生徒の成績の「伸び」を目の当たりにしたことだった。
「経済的に塾に通えなかった生徒がスタディサプリを活用し、早稲田大学への合格を果たしました。そこでスタディサプリについて調べたところ、『入門』や『ハイレベル』、『文法』『読解』といったレベルや項目に分かれていて、非常にわかりやすかった。
自分のレベルに合った講義のみを集中的に学習することで、塾で漠然と90分間一律の講義を受けるよりも、高い効果が得られると感じました」(金子教頭)
「場所・時間を問わず学習できるのが最大のメリット」と語る金子智之教頭
部活動の盛んな同校では、時間的に塾に通えない生徒も多い。「忙しい生徒でも、すきま時間に勉強がしやすいツールや環境を整えてあげたい」という思いから、朝7時から19時までコンピュータ室をスタディサプリの自習用に開放している。
昨年は、毎朝7時にコンピュータ室を開けると同時に運動部の生徒が入室し、限られた時間の中で熱心にスタディサプリを使って学習していたという。
「これまで運動部の生徒や保護者から要望の多かった『学習時間を確保してほしい』という声が、スタディサプリを導入したことでほとんどなくなりました。校内だけでなく、自宅でもスマートフォンやPCで学習できるので、全体的な利用時間も大変増え、実際に学力向上にも結び付いています」(ICT担当井上勝教頭)
文武両道をモットーとする八千代松陰高校では、陸上競技部、サッカー部等の活躍もめざましい
2016年度は、生徒の自主的な学習での利用以外にも、授業の予習や復習、発展学習などにも活用した。井上教頭は、情報の授業でスタディサプリの講座を予習として指定した。
「世界的なプレゼン講師であるガー・レイノルズ氏の講義もあったので、プレゼンテーションの授業の前に見ておくように伝えました。細かく講義が区切られているので、毎回の授業に合った講義を絞り込めます」(井上教頭)

デジタルとアナログの長所を取り込んだハイブリッド指導

八千代松陰学園でのスタディサプリ活用は、大学受験の成果にも結び付いている。これまで毎年2〜3人だった東大受験生が、2016年度は現役で9人に増加したのだ。全員が数百時間以上スタディサプリを利用しているヘビーユーザーだったことからも、その効果がうかがえる。
「理系の数学で落とせない確率や微積、ベクトルといった必須要素を、スタディサプリで東大進学校と同等のレベルまで強化することができました」と、金子教頭は話す。
井上勝教頭は、授業の教材としてスタディサプリの動画を用いることもあるという
こうしてICTによる改革が進む一方、同校は創立からの教育理念を忘れず、生徒の創造力を養っていこうとしている。
「ICTは便利だが、教師はそれだけに頼ってはいけない。たとえば、どんなにデジタル化が進んでも授業では『手書き』の要素を残すなどして、生徒の創造力、持ち味を育んでいきたいと考えています」(竹川校長)
最新のICTを導入しながらも、アナログな手法で創造力を育む。スポーツと勉学を兼ね備えた文武両道の理念と同様、デジタルとアナログの長所を取り込んだハイブリッドの指導こそが、今後求められていく教育の形なのかもしれない。

【CASE2】進路多様校がログイン率全国一に

公立高校で2016年から「スタディサプリ」を活用し、めざましい効果をあげている学校がある。それが神奈川県にある県立茅ヶ崎西浜高校だ。
2007年から神奈川県の「ICT利活用教育重点校」に選定され、他校に先駆けて情報系の科目をカリキュラムに取り入れてきた。今年で創立37年を迎える同校は、校舎の窓から海を望める魅力的な環境にある。
1学年400人と生徒数は多く、大学や専門学校、就職と、多様な進路を目指す生徒がクラスに混在する。
「クラス内の学力の幅が広いため、どの理解度にあわせて授業を行うのかがこれまでの大きな課題でした」と、茅ヶ崎西浜高校で国語科を担当する平山康弘先生は話す。
平山康弘先生は、担当外の数学を自分もスタディサプリで学ぶことで、その「わかりやすさ」を感じたという
そこで、高校1年生を対象に、学力底上げツールとして「スタディサプリ」を導入した。生徒の幅広い学力層をカバーできる講義の豊富さが決め手となった。
「大学受験を目指す生徒には、センター試験などの受験対策用講義を、高校までの学習でつまずいている生徒には、小学校の四則計算を“学び直し”させることができる。それらがひとつのサービスでできるのが魅力です」と、平山先生。
年に2回実施するスタディサプリの「到達度テスト」では、生徒一人ひとりの苦手分野を特定し、学力向上のために何を学べばよいのか、学び直しを促すことができる。

「勉強嫌い」の生徒が「わかると楽しい」を知る仕組み

「ほんのちょっとのつまずきから勉強を諦めていた生徒たちにも、やれば必ずできるし、勉強してわかると楽しいということを知ってほしかった」と語るのは、保健体育を担当し、サッカー部の顧問を務める志澤崇先生だ。
スタディサプリをいかに使っていくか、「ミーティングは4時間に及ぶこともある」と語る志澤崇先生
勉強が好きではない、勉強をする習慣のない生徒たちに、いかに勉強の楽しさを教え、継続させていくかがポイントだった。そこで、「スタディサプリ」に用意されている確認テストとあわせて、担任がオリジナルの補習プリントを作成し、茅ヶ崎西浜独自のカリキュラムを組んだ。
毎週1つの講義を指定して、生徒に視聴を促した。1週間後に確認テストが実施され、合格点を取れなかった生徒には補習プリントが渡される。補習プリントは、課題講義を再度見て、感想などを書く仕組みになっている。
このプリントを提出しない場合は、単語の書き取りといった追加の補習があるので、多くの生徒がスタディサプリを見ることを選ぶ。なかば強制的なやり方だが、学習習慣がない生徒に「自学」を浸透させるために必要なステップだという結論になった。
一方で、課題を終えた生徒には「修了証」が渡される。「修了証をもらって、意外に喜んでいる生徒も多いんです。達成感が得られるのでしょう」と平山先生。教師陣は、今のカリキュラムに手応えを感じている。
生徒に渡している修了証。次のやる気につなげるためにも、達成感を得させるしかけが重要だ

「スタディサプリ」に期待する入学希望者が増加

導入当時は「毎週講義を見るのはつらい」と言っていた生徒も、次第にカリキュラムに慣れ、スタディサプリを利用することが日常になっていった。
夏休みを挟んだあたりから、視聴時間が飛躍的に伸び、秋にはスタディサプリ導入校でログイン件数1位に達した(学年別の集計分)。
数学を担当する富田真聡先生は、「これまで数学で赤点をとっていた生徒が、8時間講義を視聴した結果、クラストップの点数をとった事例もありました」と驚きの成果を語る。
「生徒一人ひとりの『わからないこと』がわかるから、的確に指導できます」と富田真聡先生
生徒の態度にも、入学時と比べて落ち着きが感じられるという。これまでは「どうせわからない」と授業を諦めていた生徒たちが、真剣に授業を聞くようになったからだ。
「以前はテスト中も寝ていたような生徒が、『先生、わかったよ!』と喜ぶ姿には感動しました」(志澤先生)
導入の効果は在校生だけでなく、新入生にも広がっている。茅ヶ崎西浜高校の入学希望者が例年より増加したのだ。その理由は、2017年から新高校1年生にも「スタディサプリ」か導入されることにあった。
「入学希望者の多くがすでにスタディサプリを知っていて、『スタディサプリで勉強したい』と言っているのです」と情報科を担当する鎌田高徳先生は話す。
鎌田高徳先生は「スタディサプリ 進路」の進化によって、生徒の進路選択の幅が広がることを願っている
「学習習慣をつける」という当初の目的は、1年の試みで確実に良い方向へ向かっている。「進路多様校」としては、春からはじまる「スタディサプリ 進路」にも期待がある。
「生徒一人ひとりの進路指導と、その進路を実現するための学習指導とが一元化されたものが、やっと出てきたなと思っています。スタディサプリが教育のポータルサイトとして機能してくれるようになれば、教育現場にとっても生徒にとっても非常に大きなプラスになります」(鎌田先生)
今後の目標は、この知見をもとに、どうやって生徒のアウトプットを高めていくかということだ。教師と生徒が一丸となった茅ヶ崎西浜高校の挑戦は、これからも続いていく。
(編集:大高志帆 構成:相川いずみ 撮影:加藤ゆき)