【新卒採用】次世代IT人材がリクルートに入社する意味はあるか

2017/3/20
リクルートが優秀な“新卒IT人材”の採用を精力的に行っている。背景にあるのが、「テクノロジーカンパニー」への移行という大きな戦略だ。優秀な新卒IT人材にとって、リクルートは入社する価値がある企業なのか? 新卒でリクルートグループに入社し、後に最年少役員となった須藤憲司氏と、少し遅れて異業種からリクルートに中途入社し、現在はグループ役員を務めている塩見直輔氏。異なる道を歩みながら、リクルートで一時キャリアを交差させた同い年の2人に話を聞いた。

それでも本質は「人間中心主義」の会社

──「テクノロジーカンパニー」への移行を進めているリクルートは、この10数年間でどう変化したか。新卒入社で最年少役員まで務めた須藤さんと、中途入社で現グループ役員の塩見さん。異なる視点から見えたものを教えてください
須藤:私は2003年に新卒で入社して、2013年に退職しているんですが、入社時点ではまだグループ全体のサービス展開に占めるインターネット事業の割合は小さなものでした。それが、退職する10年後にはかなりの割合にまで増加していた印象です。売り上げ構成が変わったということは、つまり人材の配置や体制を含めて大きく変わったということ。劇的な変化でした。
塩見:僕が隣の席で働いていた頃は、須藤さんは社内で“ネット人材”と言われていましたよね。
須藤:そうですね。でも、新卒入社時には紙の事業に携わっていたんです。
塩見:僕は2007年にインターネットメディアをやりたくて、紙の出版社からリクルートに中途入社しました。当時はHTMLやCSSがわかって、javaがちょっと書けるというだけで「ネットに詳しいんだね」なんて言われましたが、今は様変わりしています。
その頃、新卒でIT企業を経験してから中途入社でリクルートに入った人がたくさんいましたが、彼らが今はグループ各社でマネジャーや役員をやっている。新卒もIT人材の採用に力を入れてきたため、この10年でリクルートの中身がガラッと変わった印象があります。
須藤:ただ、「テクノロジーカンパニー」への転換を謳っていても、リクルートは本質的に変わっていないと思うんですよ。端的にいえば、テクノロジーに対するアプローチが、やはり“リクルート的”なんですね。
世の中には、テクノロジーそのものを追求するIT企業もありますが、リクルートはそうじゃない。その技術がどうユーザーの役に立つか、クライアントのためになるのか、と考える。あくまで方法論としてテクノロジーを捉えている。つまり人間中心主義なんですよ。そこがリクルートの魅力だし、本質的には変わっていないと思います。
塩見:そうですね。ITスキルは必須リテラシー、という位置づけです。昔からリクルートは、起業家マインドを持ったやる気のある人たちが、ちょっと先の価値を生み出そうとしてきました。今はITを知らないと一歩先には行けない。そのために、リテラシーをアップデートしよう、というのが「テクノロジーカンパニー」を標榜する意味だと思います。

1000億円規模のビジネスをしたいか

──お二人は採用面接にも携わられていました。10数年前と現在で、新卒社員に求めるものも変化していったんでしょうか?
須藤:私が関わっていたのは最終面接ですが、学生たちの「この3つだけを見よう」と決めていることがありました。一つは「好奇心が強いかどうか」。これは後天的に教えられない。二つ目は「コミュニケーション能力」。これがないとリクルートで活躍するのは難しいと思っていたから。そして三つ目が「タフネス」です。
当時、採用で競合していたのは、最初の頃は総合商社やコンサルティング会社が多かったかな。それがだんだんと、肉食系のネット企業になっていった、という印象があります。
塩見:僕もまさに今、最終面接に関わっていますが、つまるところ“採用したい学生”は今も昔も、どの企業も変わらないと思います。簡単にいえば、地頭が良くて、コミュニケーション能力が高くて、起業家精神に溢れている若者。要するに社長をやらせたい人材です。
採用したいと思う学生は、今はやっぱりベンチャー企業と比較している人が多いですね。優秀な人材は起業する。ベンチャーと競合した場合、当社から伝えることはシンプルです。「100億円、1000億円規模のビジネスを目指すんだったら、リクルートもいいかもよ」と。
数億円のビジネスをしたい、てっとり早くお金を稼いでアーリーリタイヤメントしたいなら、個人で起業しほうがいい。実際、相談されたら素直にそう言います。
でも、でっかい船に乗って、日本や世界を大きく動かしたいというのであれば、リクルートという選択肢はアリだと思います。
須藤:ただ、今はリクルートも大企業ですから。「何かをしたい」という思いがあるとき、それを上層部に通すための説明コストも大きい。本当に若くて優秀な人間が入ったとき、生かすことができるかな、とは思います。会社がどれくらい歩み寄れるか。面倒な説明コストを、今の若い人は耐えられないんじゃないか、と。
塩見:須藤さんがリクルートを辞めた頃って、言ったことがだいたい通らなかったですか?
須藤:通ってましたね。
塩見:あの頃はネットビジネスを経験したことのある人が社内に少なかったので、何でもやってみないとわからなかった。だから、アイデアが通りやすかったんです。おかげで、めちゃめちゃ失敗しましたけど(笑)。
一方で、ビジネスサイドに関しては今も昔も本当に厳しいですね。営業戦略や事業戦略などは50年分のノウハウが積み重なっているので、びっくりするほど細かく詰められる。
須藤:たしかに。僕も相当に鍛えられましたから。
塩見:説明コストでくじけるのは、多くの場合はビジネスサイドで、技術サイドは外の環境変化が速い分、まだまだやってみないとわからない。ならやってみよう、という空気は変わらずあると思います。僕も決裁者側になる機会も増えましたが、「やってみないとわからないですよね」には言い返せませんから。

新卒にとって「最高にハックしがいのある会社」

──IT視点から見た場合に、リクルートの魅力とはどんな部分でしょうか?
塩見:制度や風土をちゃんと理解すると、会社全体が個の力に賭けていることがわかります。5年に一度か、3年に一度かわかりませんが、次のリクルートの柱となるものを創り出してくれるスーパーマンを生み出すために、いろんな仕組みがある。
ボトムアップで物事が決まっていくことも、年次に関係なく任用することも、スーパーマン候補に大きな仕事をさせるための仕組みなんです。
ITの領域は、イケてる人材がイケてない人材の何倍もパフォーマンスしちゃうという特徴があります。個の力が増幅されてスーパーマンが出やすい。次の柱が、AIから出てくるのか、どこから出てくるのかわかりませんが、組織全体がそういう仕組みになっているのは、イケてる人材にとってはおいしい環境じゃないかなと思います。
須藤:個人的には、人にしても、顧客にしても、資金にしても、データにしても、リクルートというのは、ビジネスの世界に飛び込む若者にとって極めて「ハックしがいのある会社」だと思いますね。それこそ、自分の力でリクルートを変えることができたら、社会全体を変えられるかもしれない。
あと、リクルートって面白いくらい人を踊らせるのがうまいんですよ。何かに挑戦しようとすると、そのための環境も、乗り越えるべき壁も用意してくれる。それに踊らされて夢中になっているうちに、ものすごく成長してしまっている。
もし私がいま22歳の学生だったら、やっぱりもう一回リクルートに新卒入社すると思います。いろんなITの会社も見てきましたが、やっぱりリクルートは“人材の質”の高さがすごい。この人と仕事をしたら面白い、という人材の密度が圧倒的に高いんですよ。
いま新卒の人たちは、ベンチャーに行くのもいいけど、一度リクルートで勉強する価値は大いにあると思います。まずは「1000億円の事業」とはどういうものか、直接体感してみるといい。それがいかに大変なことか、わかるから(笑)。
塩見:IT人材でいうと、スキルとされる多くのことって、本音を言えば「入社してから学んでも遅くない」と思うんです。本質はそこじゃないと僕は思っていて。
いまの子どもって、YouTubeに動画を上げたり、音声検索でググってたりしますよね。遊ぶように、息をするようにITに触れている。一方で、IT業界で働く大人の中には、例えば「リセマラ」も知らない人が多かったり。
その時代の空気みたいなものは、遊びや日々の日常の中にこそある気がします。昔はITって端っこでしたが、今は時代の真ん中。そういう空気をまとった、時代の中心で生きている人間の話はよく聞いてくれる会社だと思いますね。世の中の少し先を行きたい会社なので、そういう先導役を欲していると思います。
(取材・文:上阪 徹、編集:呉 琢磨、撮影:岡村大輔)