【波頭亮×吉村慎吾】オープンイノベーションは「是か非か」

2017/3/27
戦略系コンサルタントのパイオニアである波頭亮氏、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)で世界最年少マネジャーに就いた後独立した吉村慎吾氏。ともに経営コンサルタントとして企業の成長支援に携わり続ける2人は、今の日本の閉塞感を憂えている。イノベーション欠乏症に陥った日本に足りないものは何か。対談でひもとく。
手堅い短期の利益だけを狙うな
吉村:波頭さんは今の日本企業をどのように見ていますか。
波頭:一言でいうと、保守的すぎると感じます。日本のGDP(国内総生産)は1995年に約502兆円、2015年に約499兆円とこの20年もの間、まったく成長していません。それにもかかわらず、内部留保はこの間どんどん積み上がって約235兆円も増えています。新しいことにチャレンジすることを恐れて、お金を貯め込み、使えずにいるわけです。
極端に言えば、この20年、大手を中心に日本企業の経営者は、コストカットと効率化ばかり進めてきました。利益は出せてお金は貯まったかもしれませんが、成長に向けての手を打つことを後回しにしてしまった。
その結果、新たな事業ドメインを開拓し新たな価値を生むことができない萎縮した経営になってしまっている。
「日本からはイノベーションが生まれにくい」という言葉を耳にしますが、こういう状況では生まれるわけがありません。
イノベーションとはチャレンジがあってこそ生まれるものです。新しいテクノロジーが生まれてそれまではできなかったことができるようになるケースもあれば、斬新なアイデアによって新しいビジネスモデルが生まれる場合もあります。
人々の行動様式を変えるイノベーションは、トライすれば確実に成功するという設計主義的なマネジメントでは生まれません。
むしろ失敗に終わるケースの方が圧倒的に多い。それでもチャレンジし続けることが必要です。日本企業は、企業の長期的発展のためにはリスクを取ってチャレンジし続けなければならないという意識が弱すぎると感じています。
吉村:私はイノベーションを「社会の課題を解決すること」と定義していて、実現するために必要なことは「執念」だと思っています。波頭さんの言う「チャレンジし続けること」と同義かもしれません。
エジソンは「ニューヨークの街を夜でも昼間のように明るくしたい」という思いから白熱電球の必要性を感じ、4000種類ものフィラメントを試したそうです。信念に基づいた執念があったからこそ、後世に残るイノベーションが生まれたのだと思います。
波頭:日本の例で言えば、東レは独自の炭素繊維を生み出すために、50年間も研究・開発を続けていました。ほかの企業が続々と撤退する中、50年も我慢しながら投資をし続けた。これもイノベーションの執念ですね。
やや乱暴な言い方をすれば、日本企業には今こそこういうチャレンジへの執念を持ってほしい。効率化とコストダウンだけで短期の利益を着実に絞り出すだけの経営ではなく、将来の発展のために思い切ったチャレンジ、すなわち不確実性の中での思い切った投資をするべきだと考えています。
もちろん将来の発展のためとはいえ、不確実性の中での大胆な投資はリスクも大きい。今期、来期の利益だって大事でないわけではない。
しかし、手堅く短期の利益を効率化・コストダウンだけで計上しようとする経営では、将来の収益は可能性が低下していくばかりです。当面の利益の確保と将来の発展のための思い切ったチャレンジを両立させることこそ、難しいけれど経営者の仕事の本分です。
オープンイノベーションは“まゆつば”か
吉村:イノベーションを生む一つの手法として、大企業は「オープンイノベーション」に積極的ですが、波頭さんはこの取り組みをどう感じていますか。
波頭:全否定はしませんが、世間で喧伝されているほどにはうまくいくものではない。逆に言うと、オープンイノベーションという一つの手段よりも、イノベーションを起こすカギは別のところにあると考えています。
いじわるな言い方をすれば、イノベーションを真剣に追求する努力を続けられない人が走る「逃げ道」のように感じます。「コラボレーションして新しい価値を生みましょう」と表向きには言いながら、何となく皆で“アリバイ作り”をしているような状態になってしまっている例をよく見ます。
とくに企業同士が組んでいる場合は、利害関係の異なる複数の人間が集まることによって、リーダーを決めにくく、責任の所在もあいまい。また利害関係の調整にも各社の思惑は入ってきて、結局、大半のオープンイノベーションの活動は「もたれ合い」の共同空間になってしまうのです。
イノベーションは計算ができないから、極端に言えば利益を二の次、三の次に置いて突き進んでいかなければならない側面もある。究極的には、営利を追求すべき企業が、利益を度外視して取り組まなければならないイノベーションは、1社だけでも大きな覚悟と意思決定が必要なのに、複数社集まってそれをやるのは至難の業です。
吉村:確かに、大企業の経営幹部と話をしていると、波頭さんの指摘を痛感します。企業の成長を支援するコンサルティングを行っている中で、オープンイノベーションの取り組み方について相談を受けますが、大企業の方々は自社にどのような利益をもたらすか、相手のリソースにどの程度の価値があるのかを気にされる方が多い。
私はこの大企業の意識に社会的課題を感じました。オープンイノベーションの仕組み自体は有効的だと感じていて、足りない要素を認め、他者の力を活用する方法はイノベーション創出の近道になると思っています。
問題は取り組む姿勢。波頭さんの言うように、自社のメリットばかりに目を向けて安易な方法で協業しようとするその姿勢に課題を感じたのです。なので、波頭さんが否定的な(笑)「オープンイノベーションにイノベーションを起こす」ことにチャレンジしようと決めて、ある取り組みを本格化させようとしている最中です。
大企業を呼び覚ます
波頭:大企業の意識改革に貢献する支援を、オープンイノベーションを通じて手がけている、ということですか。
吉村:そうしたいと思っています。日本は、優秀な人ほど大企業に勤める傾向がありますよね。しかし、波頭さんのご指摘通り、今の大企業は保守的でチャレンジできるチャンスが少ない。そうなると、何が起きるか。優秀で挑戦したいと思っていた人たちは、知らぬ間にチャレンジ精神が薄れて惰性で仕事するように変わってしまう。
組織が優秀な人を飼い殺している。サバンナで生き生きとしていたライオンを檻の中に閉じ込めて、ネコにしてしまったようなものです。
波頭:確かに、大企業がライオンをネコに変えてしまうというのは、ある意味同感です。大企業は多重構造で成り立っているから、仕方がない部分はありますが、組織が挑戦心を摘んでしまうことがあるのは否めない。
吉村:若手でみると、ある調査の結果では日本の20代はクリエーティビティや冒険心が世界の国々に比べてはるかに弱いというデータもあります。
波頭:見ましたよ。このチャートにはがくぜんとしました。このマインドを変えなければ日本は今後長期にわたって危機的状況に陥るだろうと心配になってしまいます。
吉村:大企業には、資金や人的リソース、ブランド、信頼力などスタートアップよりも優れた部分がたくさんある。だとしたら、大企業で挑戦できる環境が整えば、もっと新しい価値を生み出せると思ったのです。起業したりスタートアップに就職したりしなければ、挑戦できないなんておかしい。
私は大企業の方々にスタートアップの野心に触れてもらって、本来持っていたライオンの心を蘇らせてほしい。
お互いに挑戦する心を持ち、「社会の課題を解決するためにやる」という意識を共有することができれば、オープンイノベーションを実のある取り組みに変えられる。オープンイノベーションの本来のメリットである、強みを共有し、弱みを補完できる連携体制が組めると思ったのです。
日本の経済全体を活性化させるためには、元気なスタートアップとGDP全体の大半を支えている大手企業の復活、その組み合わせが必要だと思っています。
波頭:大企業のトップは「やんちゃなヤツが出てきてほしい」や「大胆なアイデアがほしい」と言います。ただ、そのトップの声は、多重構造を経ていく中でかき消されてしまう。
この20年、経営幹部や各事業の責任を負ってきた人たちはコストカットしか経験がないから、つまり、新しい事業にチャレンジしてイノベーションを実現した成功体験がないので仕方がない面もありますが、ここを変えないと負の渦から抜け出せないと私も感じています。
その意味で、大企業の意識改革を進めるという活動は、事業面だけでなく組織風土面でも意義が大きいですね。
本来のイノベーション魂が宿る「塾」
吉村:私たちは「ニッポンイノベーター塾」と銘打って、異業種連合により新事業を創出するオープンイノベーションプロジェクトを始めています。
高い志を持って社会起業家を目指す個人と、多くのリソースを持つ大企業の次世代リーダーが本気の異業種連合チームを組み、6カ月間、平日夜と週末ベースで活動し、社会課題の解決を目指す事業アイデアの構想と検証を繰り返します。
その後、Final Demo Dayで優秀な成果を上げたチームは、我々ワークハピネスから最大500万円の出資金を得て起業します。異業種連合型で実際に起業するというプログラムは、世界でも例がありません。
起業した新会社は、創業支援のプロによるメンタリング、テクニカルサポート、人的ネットワークサポート等を受けながら、通常のスタートアップと同様にM&AやIPOなどの出口戦略を取りながら事業成長を目指します。
社会起業家を目指す個人は、世界中の社会課題に取り組むイノベーターとしての成長を目指し、大企業の次世代リーダーたちは、新会社への出向という形で創業メンバーとなり、修羅場・土壇場・正念場の体験を通じて、経営者としての真の素養を磨いていきます。
ニッポンイノベーター塾では、平日の夜と週末を中心に大企業とスタートアップがつながり、6カ月間議論しアイデアをかたちにするという(写真提供:ワークハピネス)
さきほど、波頭さんがおっしゃったような利害関係の問題を解消しながら、同じ目標に向かって挑戦する土壌を私たちが整備して、両者が社会課題を解決するための礎を私たちが作っていきます。
すでにパナソニックやホンダ、クラブツーリズムといった大企業が参加し効果を実感してくれていて、パナソニックではこのプロジェクトを通じて新会社設立に向けて動き出しています。
結果的にコラボレーションした新会社が生まれる場合もあれば、そうでない場合もあります。ただ、もしそうでない場合でも、6カ月間で本気の起業を目指した濃密な体験をしますので、大企業における起業家人材育成という観点でも十分に価値を提供できていると思っています。パナソニックの経営陣からは、「これは社員が覚醒するプログラムだ」という非常に高い評価をもらっています。
波頭:「優秀なライオン」を無理に押さえつければ、所属企業を辞めて出ていかれるかもしれず、企業はライオンが働きやすいように、制度やルールを変えたり、さらには文化や風土まで変わってくる可能性もありますね。
ニッポンイノベーター塾は、単なる「協業プロジェクトによって新規事業のアイデアを探索する」という枠では収まりきらない、大きな可能性を秘めた取り組みなのですね。
失敗を恐れずに、社会課題の解決にがむしゃらにチャレンジする人材が次々に登場し、そうした人材を尊重する企業がどんどん出てくることが、これからの日本経済、日本社会を活性化させる最大のテーマだと考えています。
その意味でニッポンイノベーター塾は単なる一つのベンチャービジネスというよりも、社会課題の解決の先駆となる社会ミッションでもあるわけですね。頑張ってください。
(文:杉山忠義、写真:森カズシゲ、編集:木村剛士)