沖縄は本当に「貧しい」のか(前編):「格差の島」

2017/3/10
この数年、基地問題を中心に沖縄取材を続けてきているなかで、「沖縄は本当に貧しいのだろうか」という疑問が、いつも脳裏を去来していた。
私が沖縄に滞在しているのは、いつも生活者としてではなく、取材者としてなので、もちろん正確に、沖縄の経済的な現実を感じ取れているかどうか、そこまでの自信はない。ただ、沖縄が「貧しい」という実感は、正直あまりなかった。
本土との距離、小さな域内市場、激しい沖縄戦を経験したダメージなど、種々の要因から、沖縄の経済基盤の構築が他県に比べて大きく遅れていることは間違いない。
ただ、これも日本のなかで相対的に捉えたら、という話であり、道路は隅々まで整備され、みんな車を持っていて、気候もよい。食べ物もおいしい。沖縄に行くたびに「ここに住んでみたい」とのんきに考えてしまう。
「沖縄は貧しい」が議論の出発点
しかし、昨今の沖縄をめぐる多くの政治的論議は、基地問題を中心に「沖縄は貧しい」ということを出発点に、すべてが組み立てられていると言っても過言ではない。
「基地があるから貧しい」「基地がなければもっと貧しくなる」「貧しいから補助金が必要だ」などなど、立場は違えど、「貧しい」という前提が常に入り込んでくる。もちろんここで使っている「貧しい」というのは、いわゆる絶対的な「貧困」などではなく、経済的にみて立ち遅れている、という意味ではある。
もちろん、沖縄自身も直接的に「貧しい」という言葉は、あまり表立って使ってこなかった。プライドもあり、意識的に避けてきた、と言ってもいいだろう。ところが「貧困」に関する議論が、表舞台にいきなり登場し、県民を大きく驚かせたのが2015年春のことだった。
それは「子どもの貧困」という概念だった。
沖縄における子どもの貧困率は全国平均の倍近い29.9%に達する、というデータが発表されたのだ。沖縄の子ども(0-17歳)はおよそ30万人いるので、10万人の子どもが貧困状態にある、という計算になる。日本全体の平均で「子どもの貧困」の割合は16.3%なので、沖縄はその倍近い、かなりの高率ということになる。
具体的な算出方法は、家庭から離れて児童養護施設などに入っている子どもの数や、生活保護を受けている家庭で暮らす子どもの数、就学援助の対象児童数、「相対的貧困状態の家庭」で暮らす子どもの数などをすべて合計したものだ。
「子供の貧困3割」で大騒ぎに
2015年3月に沖縄県が「初の調査」として、県民の子どものおよそ3割が「貧困」にあたるという調査結果を公表したので、大きな騒ぎとなった。
当時、県政を担当していた地元紙の記者は「とにかく3割という数字へのショックが、読者の間では大きかった。そういう数字をつきつけられて、感覚的に貧困家庭は多いかもしれないと思っていたけれど、やっぱり本当なんだと。あるいは、予想よりずっと多い、というふうに受け止められたのだと思います」と語る。
安倍政権で沖縄担当の特命大臣になった自民党の参議院議員・島尻安伊子氏(当時)が、内閣府の予算に沖縄の子どもの貧困対策を盛り込むように活発に動いた。沖縄県を率いる翁長雄志知事と島尻氏は対立関係にあるが、ここでは「共闘」した。
島尻氏は自分の選挙の目玉にしようとしただろうし、翁長知事としては、新しい沖縄振興策の理由の1つとしてこの「子どもの貧困」を前面に出したいという思いがあったのだと推測される。2022年までが期限で、沖縄に大幅な財政的優遇を認める改正沖縄振興特別措置法を継続させるかどうかなどがすでに水面下では検討されている。
県民運動になった対策
早速、沖縄県は2016年に「県子どもの貧困対策計画」を策定し、「県民運動」と位置付ける取り組みが本格的にスタートした。
そのなかで重視されたのは、食事なども家族と一緒に取れず、十分な栄養を摂取できない子どもへの対応策だった。給食費の未納も多い。そこで地域の公民館などで子どもたちに食事を食べてもらう機会を増やす取り組みが始まった。
沖縄・宜野湾市の我如古区公民館では、週に数回ほど、夕方になると、近隣の子どもたちが集まって地元のボランティアや自治会の人たちが準備する食事をしている。
「ここの子どもたちのなかには、複雑な家庭の子もいます。こうやって食事を一緒に取ることで、子どもたちが安定した食生活を送れるとともに、地域でしっかり見守れるようになればいいと考えています」
我如古区自治会の担当者はこう語った。
我如古区の公民館で食事する地域の子どもたち
子どもの貧困があるとすれば、大人の社会の貧困もあることになる。
確かに沖縄の経済指標はどれをみても厳しい。失業率も離婚率もDVの相談件数や10代の出産割合も、いずれも全国ワースト1である。中学の不登校や高校の中途退学率も極めて高い。
ほかに貧困にかかわると考えられている社会指標のなかで、NHK受信料の未払い率やファストフードの利用率日本一、男性の肥満率日本一などなど、ライフスタイルも含めて「生活の質」が決して高くはないことがうかがえる。
また、貧困と相関関係にある貯蓄率は最下位、負債保有率はトップ。だから、住宅を買いたくても沖縄の人はローンが組みにくいとされる。レンタルビデオ普及率も高い。酒酔い運転の検挙率も高く、人口当たりの殺人事件の発生率も全国一だ。
厳しい沖縄の経済指標
ただ、『沖縄の不都合な真実』(新潮新書)の著書がある評論家の篠原章さんによれば、可処分所得で確かに沖縄県は最下位になるが、所得階層は多層化しており、中間層以上の所得は本土並み、あるいはそれ以上かもしれない、という。
篠原さんは「こまかく実情をみていくと、貧困は特定の階層に集中しており、沖縄には大きな格差があるのではないか」と指摘する。
確かに、県民雇用者報酬では、ほかの数値では沖縄と最低ランクを競っている低所得県の佐賀や秋田よりも高い。それは、米軍関係雇用も含めて、公務員の従事者が多いからだ。また、人口当たりの高額所得者の比率は全国での上位10位に入っている。
「計算方法はどの県もはっきりとは公表しておらず、県によって違う。なるべく低く出るように計算している部分もあり、それで過去に問題になった県もあった。県当局は否定するが、詳しい実態は内閣府などでも把握しきれていない。沖縄は貧困でも基地でもネガティブな材料を増やしていく根拠をつくっていく傾向があり、子どもの貧困問題などわかっていたのに過去には見向きもせず、腰が重かった」(篠原さん)
沖縄の経済実態は「格差の島」と呼べるほど、厳しい部分は確かにあるのだろう。だが、沖縄県の「子どもの貧困対策計画」では、冒頭に「子どもの貧困は、沖縄県において克服すべき重要課題であり、計画を策定し、抜本的な対策に取り組む必要があります」と書かれているのだが、内容を見る限り、子どもへの支援や保護者への支援のリストばかりが書かれており、まったく「抜本的」という印象は与えない。
子どもに対する地域支援は必要だとしても、その背景にあるものにはなぜか一切触れていないところが、逆に不思議さを感じさせる。「子どもの貧困」の裏側にある「格差」をなんとかしようという意気込みは、いまのところ、沖縄県の対策からは見えてこず、逆に「子どもの貧困」を新たな補助金獲得の理由にしようという思惑も見え隠れする。
いずれにせよ、貧困の問題であるならば、その原因である沖縄の経済を考えなくてはならない。次回は、米軍基地にからんだ「基地経済」を取り上げたい。
(写真:野嶋剛)