【大西健丞】「犬の殺処分ゼロ」実現の道のり
2017/3/3
今、世界レベルで飛躍する、新時代の日本人が生まれ始めている。本連載ではビジネス、アート、クリエイティブなど、あらゆる分野で新時代のロールモデルとなりえる「グローバルで響いてる人の頭の中」をフィーチャー。経営ストラテジストの坂之上洋子氏との対談を通じて、各人物の魅力に迫る。
第6回のゲストは、世界各地の紛争や自然災害の現場で支援を行ってきた、国際協力NGOピースウィンズ・ジャパンの代表理事兼統括責任者の大西健丞氏だ。
第1回:3・11でも大活躍。「NGO界の巨人」が生まれるまで
第2回:今なら話せる「鈴木宗男事件」の真相
第3回:瀬戸内海発。アートによる「平和外交」
第6回のゲストは、世界各地の紛争や自然災害の現場で支援を行ってきた、国際協力NGOピースウィンズ・ジャパンの代表理事兼統括責任者の大西健丞氏だ。
第1回:3・11でも大活躍。「NGO界の巨人」が生まれるまで
第2回:今なら話せる「鈴木宗男事件」の真相
第3回:瀬戸内海発。アートによる「平和外交」
ピースワンコ・プロジェクト
坂之上 大西さんはこれまで、本当にいろんなことにチャレンジされてきていますけど、特に印象深いプロジェクトを挙げるとしたら、なんですか。
大西 最近の、「ピースワンコ・プロジェクト」というものですかね。最初は、災害救助犬の育成をやろうとしてたんですよ。僕たちはもともと緊急援助もやってるんで、土砂やがれきに埋まってしまった人を素早く捜し当てる犬を育てようとした。
でも、ふつう救助犬って超エリートの世界で、曽祖父までさかのぼって「救助犬コンテストで優勝したことがある」とか、適性を見てブリーダーから犬を買うんですよ。
坂之上 血統書付きの犬がするイメージあります。
大西 でも僕たちの本部がある広島県は、当時、犬猫殺処分の数が多いと聞いたので、たとえ数頭でも殺処分対象の犬を引き取って、救助犬としての訓練をしたらどうだろうと考えたんです。訓練した結果、救助犬としてはダメでも、家庭犬として優秀な子になればいいじゃないかと。
坂之上 家庭犬としていい子に育てる、ですね。
大西 そう。それで犬をもらいに行ったら、たまたま殺処分機の前に、1頭だけ小さい檻に入れられて震えてた子犬がいたんですよ。「この子は?」と聞いたら、処分機に入らなかったという雑種犬でした。
坂之上 その犬が有名になった「夢之丞(ゆめのすけ)」ですね。
大西 そうなんです。最初はもう震えてしまって、全然人に反応しない。なぜかというと、ジュラルミンの壁が移動して毎日ガス室に犬を追い立てていくような環境にいたから。ガス室では10分ぐらい二酸化炭素だけにされるんです。
僕も実際に見たんですけど、ジュラルミンの壁に血のついた爪が剥がれて引っかかってる。つまり、苦しいから壁をかきむしるんです。しかも子犬って、10分間二酸化炭素だけにされても死なないケースがあるんですよ。その場合どうなるかというと、ガス室の底がパカッと開いて、そのまま下の焼き場に落ちて、生きたまま焼かれるようになってるんですよ。
そういうひどい状況だから、夢之丞もたぶん他の犬の死ぬ鳴き声を聞いていたんだと思います。
坂之上 そんな状態の犬を、救助犬にする訓練は、順調だったのですか?
大西 いやもう人間不信。最初の半年間は全然ダメでした。
坂之上 心の傷って癒やすの大変ですよね。
真っ先に被災者を発見した
大西 でも頑張って訓練を受けてくれたおかげで、2014年の広島土砂災害でわれわれが出動したときドロドロの土砂のなかから最初に人を見つけたのが夢之丞だったんです。
結局、真っ先に被災者を発見したのが、エリート犬ではなく、雑種の捨て犬だったというので、マスコミで取り上げられて、うちのアイコンとして人気者になりました。
坂之上 それから半端ない広がり見せましたよね。全国で殺処分ワースト1位だった広島をゼロにして。昨年の日本経済新聞のソーシャルイニシアチブ大賞も受賞されましたし。
でも、実は私、大西さんが、犬の殺処分ゼロの問題に取り組むといわれた時に「気が狂ったんですか?」と言ってしまったんですよね。
大西 言われましたね(笑)。