【大西健丞】瀬戸内海発。アートによる「平和外交」

2017/3/2
今、世界レベルで飛躍する、新時代の日本人が生まれ始めている。本連載ではビジネス、アート、クリエイティブなど、あらゆる分野で新時代のロールモデルとなりえる「グローバルで響いてる人の頭の中」をフィーチャー。経営ストラテジストの坂之上洋子氏との対談を通じて、各人物の魅力に迫る。
第6回のゲストは、世界各地の紛争や自然災害の現場で支援を行ってきた、国際協力NGOピースウィンズ・ジャパンの代表理事兼統括責任者の大西健丞氏だ。
第1回:3・11でも大活躍。「NGO界の巨人」が生まれるまで
第2回:今なら話せる「鈴木宗男事件」の真相

観光は国の経済に影響する

坂之上 大西さんは、瀬戸内海でもいろいろな活動をなさっていますよね。
大西 まだ海外からのインバウンド誘致などの話が出てくる10年以上前から、日本の産業が空洞化するのはわかってたので、観光が重要だと思っていたんです。
坂之上 私も観光庁のお手伝いをしましたが、観光って本当に国の経済に影響しますし、海外からの観光客は、日本が好きになってもらえたら、それこそ平和外交につながるわけですから、非常に重要ですよね。
大西 でも瀬戸内海の地元の漁村のおっちゃんたちからは、「おい、にいちゃん。観光とかしょうもないこと言うな。あれは女、子どものすることや。男の仕事は鉄鋼とか造船や」って、かなり言われて反対されました(笑)。
坂之上 瀬戸内海といえば、村上水軍がいたあたりですものね(笑)。
大西 でも、結局は豊島(とよしま)という無人島に小さな美術館を作りました。そこにゲルハルト・リヒターという現代芸術作家の作品を展示して、世界中からゲストが見に来れるようにしたんです。
竹林の中に建つリヒター作品展示スペース
坂之上 もう何言ってるの?って聞いてる皆さんがきっと意味不明ですよね。リヒターって世界的に有名な芸術家ですしね(苦笑)。
大西 リヒターは現代アートの第一人者のような感じの人で、彼の作品は今は何十億円という価格で取引されてます。生存する画家の作品としては史上最高額の作品を作ったとも言われています。
坂之上 その美術館どんだけお金かかったんですか?
大西 作品は、制作実費以外はタダでもらったんです。
坂之上 タダ?
大西 ええ。ご縁でリヒターを紹介してくれた人がいて、絶対に会ったほうがいいというのでケルンまで会いに行ったんです。
行くと、リヒターも僕のことを調べていて、「タリバンはどうだった?」とか、「アルカイダはどんなやつらだった?」とか質問してくるんですよ。
大西健丞(おおにし・けんすけ)
ピースウィンズ・ジャパン代表理事/シビックフォース代表
1967年大阪府生まれ。上智大学卒業。英ブラッドフォード大学で平和研究学部国際政治・安全保障学修士課程修了。1996年に国際協力NGO「ピースウィンズ・ジャパン」を設立。2006年、ダボス ヤング・グローバル・リーダーに選出される。2008年には、災害即応パートナーズ(現 シビックフォース)を発足。3・11での救助活動で多大なる貢献を果たした。

タリバンはよく知ってる

坂之上 大西さんは、戦火の中、難民を大移動させたり、NGOの中では世界的に有名ですものね。
大西 僕は、アルカイダはほとんど会ったことないけど、タリバンはよく知ってる。だから、イラクの戦争の話とか、聞かれるままに話をしました。彼は社会問題にすごく興味を持っていて、それをモチーフにして作品を作ってきた歴史があるんですよね。
坂之上 ずっと戦争の話をされてたのですか?
大西 そう。リアルな話をすごく聞きたがって、2日間、ずっと現場の話をしました。
坂之上 リアルな現実の話だからこそ、彼もひきこまれたのでしょうね。
大西 家で手料理までごちそうになりました。僕はリヒターが気難しくて有名だなんて知らなかったので、普通に接していたんですけど、画廊関係者たちは「家まで入れてもらったの?」って絶句してました。
坂之上 そんなことする人じゃないのですね。
大西 すごい額を突っ込んでるコレクターでさえ、家に呼んでもらったことはないし、たまたま何人かでオフィシャルなランチをしても、すぐ「疲れた、帰る」ってさっさと帰っちゃうような人なんだって(笑)。
坂之上 それでどうやって作品もらうって話になったんですか?
大西 豊島に招待したら、遊びにいらしたんです。そしたら、島を気に入ってくれて。
じゃここに美術館作りましょうよ、と言いました。
坂之上 そんな気軽に頼んだんですね(笑)。
大西 いろいろ大変でしたが、実行してくださって、ありがたいです。
坂之上 でもここって人がたくさん来るの大変ですよね。
坂之上洋子(さかのうえ・ようこ)
経営ストラテジスト/作家
米国ハーリントン大学卒業後、建築コンセプトデザイナー、EコマースベンチャーのUS-Style.comマーケティング担当副社長を経て、ウェブブランディング会社Bluebeagleを設立。その後同社を売却し、中国北京でブランド戦略コンサルティングをしたのち帰国。日本グローバルヘルス協会最高戦略責任者、観光庁ビジットジャパン・クリエイティブアドバイザー、東京大学非常勤講師、NPOのブランディングなどを行った。『ニューズウィーク』誌の「世界が認めた日本人女性100人」に選出。

多角的でなければいけない

大西 実は、僕は多くの入場者が来るような美術館は必要ないと思っているんです。その作品がそこにあるだけで、その場所の磁場が変化して、価値が出るって考えなんです。
例えばね、今まで、ただの田舎の何もない、誰も行かない島に、世界で一流と言われるアーティストが作品を置きたいと思った。それもタダで。これって、近くの田舎の人たち、自分たちの地域って悪くないんだな、とか、ワクワクしてくるでしょう?
そういう力を持ってると思うんですよね。芸術って。
坂之上 おっしゃっている意味、なんとなくわかります。今は、どんな方が訪問されているのですか?
大西 海外の富裕層が個人の船で旅行中に立ち寄ったりします。日本にはそういう豪華船で個人旅行という層があまりいませんが、口コミだけで世界中から多くの方がいらっしゃいますよ。
坂之上 海外を見てきた大西さんならではの視点ですね。これを見ている人が、行きたい場合はどうすればいいんですか?
大西 リヒターの作品は季節や曜日を限って公開していますし、ふるさと納税という形で寄付してくれたら無料で泊まってもらえるようにしています。
坂之上 寄付したら泊まりで行けるなんていいですね。
大西 うちは緊急災害援助ですから、ヘリや船をいざというときのために用意していなければいけません。普段遊ばせておくのはもったいないので、それを使いまわしてゲストを送迎します。
坂之上 そうなんですね。豊島のその他の展開は?
大西 そこに、町が造った研修のための宿泊施設があるんですが、使われてなくて廃れているんです。それを若い現代アートの人たちが作品を作れるようなアトリエにできないかと思っています。
そこに世界中の富裕層がリヒターの作品を見に来るから、ついでに日本人の若手の作品も買ってくれるといいな、と。
坂之上 それも面白い視点ですね。やはりイギリス仕込みですね。
大西 世界で活躍するNGO/NPOの機動力は思考が日本とは全然違います。問題を解決するためには、多角的でなければいけない、ということをたたき込まれますからね。
(構成:長山清子、撮影:遠藤素子)
※続きは明日掲載します。