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ブルーボトルコーヒーの顧客体験を支える、データ重視ではない“感性ファースト”のUX設計

コーヒー界の“Apple”と呼ばれることの多い、ブルーボトルコーヒー。

これはガレージで創業した、という共通点などによるものだが、実は“細部への並々ならぬこだわり”も共通点として挙げられる。

例えば、スティーブ・ジョブズが「神は細部に宿る」という言葉を強く意識し、完璧なデザインの製品を作り上げたことは有名な話だが、ブルーボトルコーヒーにも似た部分がある。

同ブランドはお客様に一番美味しい状態のコーヒーをお楽しみいただけるよう、あえてサイズを1サイズにしているなど、細部までこだわり抜き、顧客体験をデザインしている。

あの洗練された空間、そして一杯の美味しいコーヒーの裏側には一体何があるのか?彼らの顧客体験に対する考えを追求すべく、ブルーボトルコーヒーの店舗出店計画の責任者を務め、各店舗の世界観を創り上げている伊藤諒さんのもとを訪れ、話を伺った。

付加価値の時代にあえての逆張り。店舗デザインは“引き算”を意識

— 現在、国内に6店舗ありますが、それぞれの店舗が地域に合わせてデザインをされていると伺ったことがあります。

伊藤 その通りです。我々は店舗を出店する際、その地域に住んでいる方々が“どういった時間を過ごされるか”をすごく意識しています。どういった人が来店するか、をしっかりと理解した上で、店舗のコンセプトとデザインを定めていきます。

清澄白河ロースタリー&カフェの内装

例えば、清澄白河ロースタリー&カフェは日本一号店ということもあり、我々が大切にしている「Seed to Cup(シードトゥーカップ)」という考え方を理解し、体験していただけるよう、コーヒー豆(生豆)の生産現場から焙煎、1杯のコーヒーとして提供するまでのすべてのプロセスが見れる店舗設計にしました。

六本木店の外観

一方で、六本木カフェがある六本木という街は非常に賑やかな場所。忙しく過ごしている人が多いからこそ、木を基調とした、温かみのある雰囲気を作り出しました。ブルーボトルコーヒーに入ったら、ホッと一息つけるような場所にしたいと考えています。

— なぜ、街ごとにコンセプトを分けているんでしょうか?

伊藤 ブルーボトルコーヒーは地域に深く根ざし、長く愛してもらえるような場所になることを目的にしているからです。それぞれの地域で求められるものは異なる。だからこそ、各店舗ごとにコンセプトを変え、地域の個性にフィットすることを心がけていますね。

—  逆に各店舗で共通のポイントはあるのでしょうか?

伊藤 それはシンプルなデザインですね。コーヒーを中心に、無意識の中でも集中を削がれないような空間づくりを意識しています。

そこには創業者であるジェームス・フリーマンの考え方も強く影響していて。彼は“引き算の文化”をとても大切にしているんです。今の時代、「これがあったらいい、あれがあったらいい」と付加価値を求められているからこそ、本質を追求するために不必要なものは全て削ぎ落とそう、と。その結果、どの店舗もシンプルなデザインに仕上がっています。

感性ファーストの意思決定

— 2016年は出店ラッシュでしたが、出店にあたって何か意識されてることはあったんでしょうか?

伊藤 ビジネスである以上、売上を考えるのは普通のことだと思いますが、我々は出店にあたって売上のみを優先することはありません。売上が立つから、トラフィックが多いからという理由で出店を決めるのではなく、その場所でコーヒーを飲んだら、お客様はどういった気持ちになるか。この考えを重要視して、出店する地域を検討しています。

— データではなく、感性を最も大切にすると。

伊藤 そうですね。感性を大切にしているからこそ、出店を検討する際はジェームス・フリーマンが必ず日本に来るんです。出店候補となる街を経営陣が1日かけて自転車で周ることもあり、その土地にどういった人が住んでいるのか、そこで我々はどういった空間を提供できるのかを考えながら、最終的な意思決定をするようにしています。

— その地域が求めているものって、具体的にどうやって計測しているんですか?

伊藤 ジェームス・フリーマンの感性が大きく影響しています。周辺地域を見て、似たような空間のお店はあるか、どういった場所に人がたくさん集まっているかをチェックし、そこに足りないものは何かを考えています。

ただ、自分たちの感性を確かめるために、アメリカではその地域にどういったデモグラフィックの人たちが来ているか、人口密度といったデータは収集し、確かめるようにしています。

— 感性ファーストなんですね。

伊藤 そうですね。感性を大切にし、街が求めているものにフィットした店舗を出店しているからこそ、お客様にとって過ごしやすい空間を提供できていると思います。

ブルーボトルコーヒーで働いてみて、感性をいかにビジネスとしてスケールさせられるかを考えられるのは、とてもやりがいがありますね。

5つのフェーズに切り分けて、顧客体験をデザインする

— 店舗デザインもそうですが、ブルーボトルコーヒーはスタッフの温度感も心地良さの提供に一役買っていると思います。何か教育ってされてるんですか?

伊藤 基本的なマナーや所作は教えますが、ブルーボトルコーヒーではサービスの具体的なマニュアルは、あえて設けないようにしています。我々はデリシャスネス、ホスピタリティ、サスティナビリティという3つのコアバリューを掲げているのですが、スタッフがそれぞれお客様が求めているものを考えることが本当の意味でのホスピタリティの提供につながると考えています。

地域にフィットしていると言いましたが、お店には早くコーヒーを出して欲しいお客様がいれば、スタッフとの会話を楽しみたいお客様もいる。いろんなお客様が来店される中、どうやって心地よい時間を提供するか。

具体的には入店したとき、レジに立ったとき、ドリンクを待っているとき、ドリンクを受け取ったとき、おかえりになるとき、と5つのフェーズに切り分けて、それぞれのフェーズでどういったことができるかをスタッフ間で話し合うようにしています。どういうアクションをとれば、その時間がお客様にとって意味のあるものになるのか、これはマニュアルがあっては提供できない価値だと思います。

— 細部へのこだわりがすごいですね……。コーヒー界のAppleと呼ばれる所以が分かったような気がします。では最後に、今後の展望を教えていただけないでしょうか?

伊藤 自分たちが美味しいと思っているコーヒーをより多くの人に届ける。ここの軸はブラさずにコーヒーを中心とした体験や空間を提供し続けていきたいと思っています。

—  今日はありがとうございました!今後の出店も楽しみにしています!

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なる場合があります。ご了承ください。

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