産業医ピッカー・小橋正樹さんが「NPでコメントする理由」

2017/2/18
NewsPicksでご活躍する一般ピッカーさんをご紹介する本連載、16人目にご登場いただくのは小橋正樹さんです。産業医として建設会社などで勤務するかたわら、医療分野のニュースに積極的にコメントくださっています。
小橋さんは、「NewsPicksを、ほかの産業医にも薦めたい」といいます。その理由とは? NewsPicksとの上手な付き合い方についても伺いました。

きっかけは先輩プロピッカー

──小橋さんは数少ない産業医のピッカーさんのお一人です。小橋さんがはじめられたきっかけは?
先輩の大室正志さんに触発されて、NewsPicksを使い始めました。
学生時代に、産業医志望の学生と先輩医師の交流会に参加したことがあり、そこではじめてお会いしました。この業界で音楽やアートといったカルチャーにケタ違いに詳しくて、仕事の話になると例え話を交えながらも、本質を突いた説明をしてくださる。本当にすごい方だな、と。
その大室さんが「プロピッカーに就任した」というFacebookの投稿から、NewsPicksを知りました。
アプリをダウンロードしたものの、最初はただ閲覧するだけ。それだけではダメなんだと気づいたのは、昨年大室さんに飲みに連れて行っていただいたことがきっかけです。お話しする中で、私自身の社会情勢への理解不足、知識不足を痛感しました。
産業医が携わる産業保健の分野は、放射線やアスベスト、過重労働やメンタルヘルスなど、社会のあり方と連動して発展してきた分野です。医学知識はもちろんですが、世の中のしくみを理解していないと、本当のソリューションは分かりません。
産業医になってからは、必要に迫られて、人事制度や企業経営についても勉強しましたが、調べたり読んだりするだけでは、インプット量を増やすことにしかならないんですよ。足りないのはむしろ、アウトプットなのではないか、と。
まず手始めに、NewsPicksにコメントをすれば、アウトプットになると思いました。そうすることで、ニュースへの理解を深めながら、自分の意見を発信する力も身に付きますね。
──最初にコメントしたときのことを覚えていますか?
「私の意見を世に発していいのだろうか?」と、緊張しましたね。
就業規則に関するニュースだったと記憶していますが、今まで勉強したことを再度調べなおしたり、何度も推敲したり、はじめてのコメントはちょっと力んで書きました。
そのコメントに、わずか2件ですがLikeをいただけたんですよ。
ゼロではなかった(笑)。
NewsPicksは働く世代の生の声が集まっていますよね。それも労働者、経営者、投資家と、さまざまなステークホルダーの見方を知ることができる。これは本当に貴重ですし、コメントを読むだけでも勉強になるところで、ほかの産業医にも薦めたいです。
小橋さんがはじめて投稿したコメント。漢字が多めで、どことなく緊張感が漂っている。
──小橋さんは、誰もピックしていない記事へのコメントが多い印象もあります。何がモチベーションになっているのかな、と。
見つかっちゃいましたか(笑)。労働衛生コンサルタントという資格の、口述試験の練習代わりにコメントしていました。使い方が間違っているかもしれませんが……。
──試験勉強のためだったとは。新しいNewsPicksの活用法です。
職場の安全衛生や健康管理などについて、会社にアドバイスができるコンサルタントになるための国家資格資験でした。
口述試験では災害事例や法令への理解が問われるのですが、試験官に自分の考えを自分の言葉で話さねばなりません。その対策として、関連するニュースをNewsPicksで新旧かまわず探しては、片っ端からコメントする、という自主練をひたすらやりました。結果は3月に出ますが、正直あまり自信ないです。こんなふうに書いてもらっておいて、落ちていたら恥ずかしいですね……まあ、気にしません!
小橋 正樹(こばし まさき)
産業医、メンタルヘルス法務主任者。2010年に産業医科大学卒。3年間の救急診療医を経た後、現在は働く人を健康面からサポートする産業医として、数々の企業において組織戦略に基づいた健康推進活動をおこなっている。

産業医と臨床医

──そもそもの話で恐縮ですが、いわゆる病院にいらっしゃる臨床医と、産業医との違いはなんでしょうか。
一番の違いは、「診る対象」が異なるところです。臨床医は、症状を抱える患者個人を診ますが、産業医はその人を含む組織や職場環境全体を診ます。
日本では、会社が従業員の安全や健康を守らねばならない、という法律があるんですね。そこで、社員数が50名以上になったら会社の健康問題に従事する産業医を入れる、と定められています。NewsPicksのピッカーの方々も「残業続きで会社に呼び出されて産業医と面談した」という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
産業医の業務は、有害化学物質など、健康を害するリスクを減らすために職場をチェックしたり、生活習慣病予防のアドバイスをしたり、病気で休職された方を面接して、復職が可能どうかを判断したりと多岐にわたります。
ひとことでいうなら、働く人々が健康に働き続けられるようにサポートするのが役割ですね。
──「個人だけでなく組織を診る」ときに、従業員と会社の、どちら側に立つかで悩むことはないですか?
そこは、従業員側の要因と会社側の要因を天秤にかけて、ケースバイケースで対応をしますね。一概には言えませんが、原則としては中立的なスタンスを貫くのが我々の職務です。そのためにご本人以外にも、その方が一緒に仕事をする上司や同僚、人事の意見を集約することも仕事のうちです。俯瞰的にみて、医学的見地をふまえて仲介するイメージですね。
今の私が感じる難しさとしては、立場の異なる方々に説明をする力が必要とされる点かもしれません。
産業医は会社と従業員の両方のことを考えねばならないので、双方にとって納得のいく提案をしたい。そこは根拠にもとづいた説明が求められると思います。
特に最近はメンタルヘルスの領域でも、産業医の役割が増しています。裁判例も蓄積されているので、法務も交えた総合的な解決策を提示できるように、メンタルヘルス法務主任者という資格も取得しました。産業医だけでなく、保健師や社労士、人事部にお勤めの方にもお勧めしたい資格です。
プロと胸を張って言える産業医になるためには、医療分野だけでなく法務や業界知識を学び続ける必要がありますし、社会性も求められると思います。
──小橋さんが感じる、産業医のやりがいとは?
その方にとって生きがいにもなる「働く」という生活基盤を、長期に渡ってサポートできるところでしょうか。
私は産業医を育てるための大学出身なので、この道に進むことがある程度決まっていたわけですが、研修医時代には救急医療に携わっていました。
そのときに、働く世代の患者さんで命を落とされた方のなかには、健康診断の結果が悪いまま放置していたり、不健康な生活を続けてきた方もいたりしました。働きざかりの家族を失ったご遺族の悲しみを目の当たりにすると、「もっと早く診察に来てくれていたら」とやりきれない思いになりました。
そこで、産業医は予防医療という観点で果たせる役割が大きいという思いに至りました。それは結果的に、経済的損失を防ぐことにもつながるのではないか、と。
──以前、小橋さんがコメント欄で、過労が続いているというピッカーさんに「お休みしたほうがいい」とアドバイスされていました。NewsPicksは働きざかりの世代の方にご利用いただいていますが、何か皆さんへのアドバイスはありますか。
そうですね、NewsPicksのピッカーさんのなかには、ストレスを溜めている方も多いかもしれませんね。毎日何件も難しいコメントを、理路整然とされるピッカーさんって、いったいいつ頭を休めているのだろうか、と不思議に思いますから(笑)。
そもそも、社会が変化するスピードが一層早くなっていますし、常にスマホで新しい情報が得られて、どんな場所からでも仕事ができてしまう。刺激にさらされ、集中や緊張する時間がどんどん長くなり、働く人のストレスレベルは高まる一方です。
健康的に長く働き続けるためにも、リフレッシュする時間を取ったり、自分に合ったストレス解消法を身につけたりと、意識的に対応するといいと思います。
そういった意味では、NewsPicksにコメントをするのがひとつのストレス解消になっているピッカーさんもいるのかもしれません。それ自体は喜ばしいことだと思いますが、コメントをする際に私からひとつ言えることがあるとすれば、どんなことを書くときも「批判がくるかもしれない」と想定しておくことをお勧めします。
メンタルヘルスの世界では、予測と実際の差が大きければ大きいほど、打撃を受けやすくなると言われています。いざというときの心の準備をしつつ、楽観的にやる。それが、ストレスを受けにくい、NewsPicksとの上手な付き合い方だと思いますね。
小橋さんが産業医巡視中に撮影した一枚。「こちらは重機械を製造する企業のインドネシア工場ですが、実際に職場へ行っていろいろチェックします。粉塵を吸い込むことによるじん肺や騒音性難聴、手への振動障害や熱中症、腰痛などのリスク要因がないか。作業にあたる従業員が受ける障害のリスクを確認し、改善するように指導します。(小橋さん)」

アサーティブなコメントとは?

──小橋さんがNewsPicksにコメントするとき、意識されていることはありますか?
事実関係にもとづいて書かれたコメントの方が、皆さんのお役に立てるのではないかと思うので、コメントするときはなるべく下調べをするようにしています。
普段は感覚的というか、ロジカルに話をする方ではないので(笑)、おそらく同じ投稿をFacebookでしたら、友だちから驚かれると思います。
わかったつもりになっていることでも、参考資料を調べなおしてコメントすると、暗黙知だった知識を形式知に変換できます。短文でもそうしたコメントを書いておくと、備忘録にもなりますし、それが誰かの気づきにつながれば、一石二鳥ですよね。
それから、言葉づかいの点では、「アサーティブ」であろうと意識しています。簡単にいうと、自分の意見や気持ちを、その場や相手に合わせた言い方で表現しよう、ということです。
たとえば、他の方と違う意見を持ったとき、あまりに配慮を欠いた書き方をすれば、その内容よりも言葉づかいによって相手を傷つけてしまい、余計な反発を招きかねません。
どんなメディアでも、多少刺激的な主張をする人のほうが、注目を集めやすいかもしれません。ただ、相手を罵倒して、自分の意見を一方的に押し付ける言動は、異なる考えがあることを軽視している印象を与えてしまいます。
自分や自分の考えを守るためにも、相手の考えを大切にする。「相手を攻撃すること」ではなく「相手に伝えること」を目的としているならば、アサーティブを心がける必要があると思うのです。

NPを居心地よくするために

──NewsPicksは、ビジネスパーソンにとって居心地のいいコミュニティにしていきたいのですが、皆さんに快適に使っていただくために、場を提供する側が気をつけるべきことはありますか。
もし私がNewsPicksの中の人だったら、NewsPicksのアイデンティティを保つために、やはり「アサーティブな場」となるような運営を心がけるだろうと思います。
「コメントするのもストレス解消になるかも」と言いましたが、それはもちろん、他人の人権を侵害するほどのストレス解消であってはなりませんよね。
私の場合は、ニュースの読解力を高めたくてNewsPicksに参加しています。そのため、ファクトによる裏付けが何もない感情的なコメントや、非難の応酬ばかりが並ぶような場になってしまったら、残念ながらNewsPicksから離れてしまうかもしれません。
その点で、皆さんと目指したい理想や、守ってもらいたいマナーを「スタンダード」として発表されましたよね。こうした暗黙の認識を明文化するのは、よい取り組みだと思います。
たとえば、職場でも「メタボリック症候群を5%減らそう!」という方針を打ち出しても、ただ1回アナウンスするだけでは何も変わらないケースが多いんです。まずはその方針を、常に皆さんの見えるところに掲げることから始める必要があります。
また、スタンダードを作った目的を伝えることも重要です。「これは誰かを排除したり、意見を言いにくくしたりするものではない」と、繰り返し周知するのも大事ですね。焦らずに時間をかけて、じっくりと浸透させていけば、誰もが参加しやすいほっこりとした場になっていくのではないでしょうか。
沖縄で救急診療医をしてた頃の小橋さん。「救急診療医時代の感覚も忘れたくないため、今でも月1回程度は病院で当直の仕事を入れています。一緒に働いていた同期で作ったおそろいの術衣は、袖にシーサーのマークが入っています。(小橋さん)」

小橋正樹さんのおすすめピッカー

「たくさんのピッカーさんのコメントを読んでいます」という小橋さん。このコーナーに登場したことのない方をおすすめしたい、とのことで、お名前をあげてくださいました。
建設業界のニュースで、その深層が知りたいときは、NewsPicksで江頭さんのコメントを探して読むと理解が深まります。
障がい者の就労支援をされている田島さん。私も障がい者雇用という面では関わりのある分野なので、コメントから勉強させていただいています。
精神科医であり、インデックス投資家でもあり、コメント欄でいくつもの顔を見せてくださるミステリアスなピッカーさん。ユーモアのあるコメントも魅力です。
造船の世界のニッチなニュースにもどんどんコメントしていて、この分野では一番詳しいピッカーなのでは。実は高校の同級生だったりします。
■小野 編集後記

産業医をやられている企業のオフィスから、この取材に応じてくださいました。

夕方6時半を過ぎたころに突然「明日があるさ」が大音量で鳴り響くと、「残業を減らすための取り組みなんです、うるさくてスミマセン」と苦笑ぎみにおっしゃる小橋さん。働き方改革を着々と進められているご様子が伺えました。

取材前にお送りした質問には、数ページに渡る回答文を事前にご用意くださり、誠実なお人柄が伝わってきました。大室先輩とともに、NewsPicksを代表する産業医ピッカーとして、今後もコメントよろしくお願いいたします!