グーグル共同創業者のラリー・ペイジに空飛ぶ車を作りたいと思わせたNASA出身のエンジニアが、ウーバーで垂直離着陸機の開発に着手する。

自身が描いた空飛ぶ車の実用化へ

アメリカ航空宇宙局(NASA)ラングレー研究所の上級研究エンジニア、マーク・ムーアは2010年、自身が書いたホワイトペーパーのなかで興味深い電気飛行機の実現可能性を大まかに描き出した。
ヘリコプターのような離着陸が可能だが、サイズと騒音はヘリコプターよりも小さく、長く辛い通勤時間を一気に短縮できる可能性があるという電気飛行機だ。
ムーアが研究していたのはいわゆる「垂直離着陸機(VTOL)」だが、一般的には「空飛ぶ自動車」と呼ばれている。そしてこの研究は、少なくとも1人の富豪テクノロジストに大きな影響を与えた。グーグル共同創業者のラリー・ペイジだ。
ペイジはムーアのホワイトペーパーを読んだ後に、シリコンバレーのスタートアップ2社「ジー・エアロ(Zee Aero)」と「Kitty Hawk(キティ・ホーク)」に密かに資金提供し、VTOLの開発に着手したとブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は2016年夏に報じている。
そしてムーアは現在、30年間勤めたNASAを辞め、配車サービスのウーバー・テクノロジーズに参加しようとしている。
ウーバーは、空飛ぶ車分野においてグーグルとしのぎを削る会社の1つだ。ムーアはウーバーの航空技術部門の責任者に就任し、「ウーバー・エレベート」と呼ばれるプロジェクトで空飛ぶ車の開発を担当する予定だ。
「空飛ぶ車の新たなエコシステムにおいて先駆者となり、都市向けの電気VTOL市場を実現するうえで、これ以上有利な位置にいる企業はほかには見当たらない」とムーアは述べている。

ウーバーのビジョンと可能性に感銘

ウーバーは、空飛ぶ車の製造にまだ着手していない。
同社は2016年10月、独自にホワイトペーパーを発表し、「通勤用の空飛ぶ車」開発に向けた大胆なビジョンを披露した。その中では技術的な課題も明らかにしており、新たに生まれつつある業界が直面する課題を解決できるよう支援したいと述べている。
技術的な課題とは、騒音や機体の効率性、バッテリー寿命の限界などだ。そのホワイトペーパーについて助言を求められたムーアは、ウーバーのビジョンと可能性に感銘を受けたという。
ウーバーの先進プログラム責任者であるニキル・ゴエルによれば、同社は業界を編成して空飛ぶ車の開発に弾みをつけたいと考えているという。ゴエルは、メールによる声明で以下のように述べた。
「ウーバーは自らを、この業界のエコシステム全体を加速させる触媒であると考えている。マーク(・ムーア)をわが社に迎え入られることをたいへん嬉しく思う。これからもメーカーや投資者とともに、ホワイトペーパーで描き出した空飛ぶ車の実用化に向けた努力を続けていきたい」
空飛ぶ車の開発にあたっては多くの障害が立ちはだかっており、それらが技術的なものだけではないことをムーアは認識している。
ムーアによれば、現状では空飛ぶ車を手がける企業はそれぞれが個別に業者との価格交渉に臨み、認可を得るために規制当局に働きかけ、航空交通の規制緩和に努めなくてはならない。

3年以内に空飛ぶ車が数種誕生する

しかし、5500万人ものアクティブユーザーを持つウーバーなら、巨大で収益性があり安全な市場が存在することを独自に証明することができるとムーアは話す。
「経済的に意味のあるビジネスケースがなければ、空飛ぶ車というアイデアはすべて、ただの荒唐無稽な技術的なお遊びにすぎず、賢明な投資先ではなくなってしまう」
ウーバーのビジョンは魅力的であり、とりわけSFファンには興味深いものだ。同社は次のような構想を描いている。利用者はまず、従来型のウーバーに乗って住宅地に点在する最寄りの「垂直離着陸専用飛行場」へと移動する。
そこからは、垂直に離陸する空飛ぶタクシーに乗って、オフィス最寄りの専用飛行場まで飛んでいく。「(渋滞が頻繁に発生する)いまいましい橋はもう通らなくていい」とムーアは言う。
これらの「空飛ぶタクシー」は50マイルから100マイル(80kmから160km)の航続距離があれば十分であり、利用者の乗降時に少なくとも部分的な充電は可能だろうとムーアは見ている。
ムーアはさらに、今から1年から3年以内には優れた技術の空飛ぶ車が数種類誕生すると予測する。そして、少なくとも当分のあいだは操縦するのは搭載コンピューターの支援を受けた人間になると見ている。

NASAヘの失望、定年直前の転職

ムーアにとって、ウーバーへの転職は冒険だ。定年退職の1年前にNASAを辞めることになるため、もらえる年金額が大きく減り、生涯無料の医療保険も諦めることになる。
しかしそれは「しかるべき時にしかるべき場所にいて、空飛ぶ車の製品化を目指すためだ」と言う(ただし、バランスシート上に110億ドルほどの現預金を計上しているウーバーが、十分な見返りを用意したと考えても問題ないだろう)。
ムーアはNASAに失望しているようで、NASAは将来有望な新しい航空市場を民間産業に任せきりにしていると話している。「きわめて高いリスクを克服するのに最も適切な立場にあるのは連邦政府だ」
NASAが官僚的体制や管理体制の複雑化で肥大する一方で、ウーバーのトラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)は空飛ぶ車開発計画を誕生させるべく密接に関与してきたとムーアは話す。
もっともそれは、カラニックCEOが自らの政治的危機に時間を取られていない時の話だ。カラニックCEOはトランプ大統領の経営諮問グループメンバーに名を連ねていたが、ウーバーの利用者やドライバー、社員からの批判を受けて、2月2日に同グループを辞任した。
シリコンバレーはここ最近、政治問題や抗議活動で忙しいように見える。しかし、カラニックCEOの空飛ぶ車に対する入れ込みようからもわかるように、未来に向けた歩みは続いているのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Brad Stone記者、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:eherty/iStock)
©2017 Bloomberg News
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