ビジネスパーソンが知るべき、東芝失敗「5つの論点」

2017/2/13

12月末に公開された文書

2016年12月21日、米国で静かに一つの文書が公開されていた。
それは、米国で原子力規制をつかさどるNRC(原子力規制委員会)が指摘した、ある原発の主要部品に対する「不適合」通知だった。これが、日本を含めた原子力関係者に大きな波紋を呼んだ。
というのも、これは東芝子会社の原発メーカー、米ウェスチングハウスが世界で売り込む主力原発「AP1000」で用いられる重要部品だったからだ。
「これは、東芝にとって大問題です。というのも、この部品は、原子炉冷却に新たな仕組みを取り入れた一方で、その仕様の高度さから、設計変更をすることになれば、溶接を含めて、相当な時間を要することになるからです」(原発関係者)
NRCの文書は、ウェスチングハウスの原子炉「AP1000」について言及している(撮影:森川潤)
東芝が2016年末から、ウェスチングハウスの子会社をめぐって、7000億円近い損失計上を迫られているのは周知の通り。減損の大きな理由は、米国で進行中の原発プロジェクトの工期の遅れで、コストが巨額に膨れ上がっていることが判明したためだ。
数千人を投入する巨大プロジェクトのため、1日の延期で「全基で10億円単位のコストになる」(メーカー関係者)といわれるほどだ。
さらに、AP1000は現在、ウェスチングハウスが米国、中国で計8基を建設しているため、上記の「不適合問題」での設計変更の波紋が広がれば、工期延長でさらなるコストが積み重なることになることは避けられない。
「この不適合問題が、東芝の損失計上に含まれるのかはまだ分かりません。ただ、東芝の損失額に関する報道が、当初の3000億円から5000億円、7000億円となぜか次々と膨らんでいったのは、この不適合問題を盛り込むことになったからかもしれません」と、先述の原子力関係者は推察する。

福島事故だけが原因なのか

ただ、この問題が象徴しているのは、「東芝のリスクはまだまだある」という、単純な話だけではない。
むしろ、この問題は、東芝のこれまでの経営の矛盾点を浮き彫りにしているのだ。
「東芝は今回の減損について、福島原発の事故を受けて、米国でも安全規制が強化されたことをコスト増の理由として説明してきました。いわば、外的要因に、不振の原因を求めてきたわけです。ですが、この『不適合問題』は、そうした説明の矛盾を浮き彫りにしています」(原発業界関係者)
というのも、関係者によると、この不適合が指摘された冷却ポンプは、福島事故とは関係なく、AP1000の新たな強みとして、取り入れられたものだったからだ。つまり、福島事故が起きなかったとしても、いずれ東芝が原発事業で大きな損失を計上するはめになっていた可能性もあるのだ。
「問題は、東芝がウェスチングハウスの経営と技術を、きちっとマネジメントできていなかったことに尽きます。冷却ポンプは、原発の技術者なら、一番気になっていたところ。東芝が以前のように技術者を大事にしていた会社なら、問題の解消に真っ先に取り組んでいたはずです」(同)
将来のリスクになり得る、技術面の明確な課題の解消に力を注ぐのではなく、逆にそれを覆い隠すかのように積極的な買収や、強気の新規受注へ走ったことが、結局は巨額損失となって噴出したのが今の有り様なのだ、とも言えるだろう。

19万人の巨大企業を徹底解説

このように、東芝を語る際には、2000年代中盤までの積極的経営が、リーマン・ショックや福島事故で裏目に出て、経営難や、そして会計不祥事につながったという説明をされることが多いが、それは多様な視点のうちの1つの見方でしかない。
何よりも、東芝は売上高5兆6000億円、従業員数19万人、テレビなど家電製品から、鉄道の部品や、発電設備までを手がける巨大コングロマリット企業。それだけにこの会社をめぐる問題は複雑に絡み合っていて、それを読み解くのは容易ではない。
特に、2015年に会計不祥事が発覚し、その後の優良事業の売却、原発事業の減損、半導体のメモリ事業の分社化、刑事事件化の有無、今回の巨額損失と、ありとあらゆる報道が入り乱れる中では、なおさらだろう。
このため、本特集では、2017年2月14日に控える減損額の発表を前に、東芝をめぐる問題の重要な論点を5つ取り上げ、詳細に解説することに専念した。まず特集の第1回では、東芝がここまでの苦境に陥った経緯を、スライドショーにまとめている。
【3分解説】今さら聞けない、「東芝崩壊」までの10年
俯瞰的にみれば、東芝だけでなく、日本の電機産業の衰退は今に始まったことではなく、この10年のあらがえぬ流れなのは間違いないかもしれない。
だが、皆に愛される家電製品から戦後の成長を支えたインフラまで、この100年以上日本を支えてきた会社だからこそ、この会社について“解体”に陥った一つひとつの論点を学ぶことは、あらゆる事業や分野で活躍するビジネスパーソンにとっても、確実に役に立つはずだ。
(バナー写真:ロイター/アフロ)