【新】年収800億円。プライベートエクイティ幹部の3つの収入源

2017/2/6
米国のビジネス界で存在感を高める、プライベートエクイティ(PE)。近年、その投資分野は、企業のみならず、公共インフラ、自治体にまで拡大している。全米を席巻するプライベートエクイティの全貌にニューヨーク・タイムズの取材班が迫る(全8回)。 
年間数億ドルもザラ
毎年ある時期になると、企業経営者の収入が話題になる。
大手企業の場合、報酬と賞与のほかにストックオプションが付いて、計数千万ドルなんてことも少なくない。
だが、「ただの」大手企業ではなく、プライベートエクイティ運用会社(以下「プライベートエクイティ(PE)」と呼ぶ)の経営者となると、その収入は文字どおりレベルが違う。
なにしろ報酬や賞与やストックオプションのほかにも、いろいろ収入源があり、その合計は年間数億ドルになることもある。
そこでニューヨーク・タイムズ紙は、報酬調査会社エクイラーの協力を得て、上場しているプライベートエクイティ大手6社の経営幹部の収入を分析した。データ取得期間は2012〜2015年だ。
2014年と2015年に最も収入が多かったのは、最強のプライベートエクイティとの呼び声も高いブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン会長兼CEOだ。
1947年生まれのスティーブン・シュワルツマン氏。イェール大学、ハーバードMBAというエリートコースを歩んだ後、リーマン・ブラザースで活躍。1985年にブラックストーンを創業した(写真:Sasha Maslov/The New York Times)
同社の創業者であるシュワルツマンの収入は、2015年は約8億ドル、2014年も6億8900万ドルだった。ただし年俸はたった35万ドルで、ボーナスは受け取っていない。そのカラクリは後ほど説明しよう。
ブラックストーンでは、シュワーツマン以外の経営幹部も巨額の収入を得ている。2015年、ハミルトン・ジェームズ社長は2億3300万ドル、ジョナサン・グレイ最高不動産責任者は2億4900万ドルを得た。
ほかのプライベートエクイティも負けていない。
2013年のナンバーワンは、アポロ・グローバル・マネジメントのレオン・ブラック会長兼CEOで、約5億4300万ドルを得ていた。
1990年にアポロ・グローバル・マネジメントを創業したレオン・ブラック会長。2012年には、エドバルト・ムンクの代表作「叫び」を1.2億ドルで落札したことでも有名になった(写真:Rebecca Smeyne/The New York Times)
コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)のヘンリー・クラビス共同CEOとジョージ・ロバーツ共同会長兼共同CEOは2015年、2人で計3億5600万ドルを手にした。
KKRの創業者、ヘンリー、クラビス。ベア・スターンズなどで勤務した後、1976年にジョージ・ロバーツ、ジェローム・コールバーグ・ジュニアとともに、KKRを創業した(写真:Kevin Hagen/The New York Times) 
こうした金額の「法外っぷり」は、銀行やテクノロジー企業の経営者の収入と比べると、一段とはっきりする。
銀行やテクノロジー企業よりも上
ニューヨーク・タイムズとエクイラーが、全米最大規模の銀行とテクノロジー企業のデータを分析したところ、プライベートエクイティの経営幹部の収入は、どの業界の経営幹部よりも高いことがわかった。
例えば、2015年の収入トップ15人のうち10人がプライベートエクイティの経営幹部で、8人が1億ドル以上だった。一方、他の業界では、1億ドル以上の収入を得た経営幹部は5人だけだった。
銀行幹部の報酬は高すぎる――。ポピュリストは常々そんな批判をしてきた。
しかし2015年、上場プライベートエクイティ幹部の収入の中間値は1億3800万ドルだった。これに対して銀行は2300万ドル。まさに桁違いだ。
しかし銀行と違って、プライベートエクイティの経営幹部は、その会社の創業者でもある――プライベートエクイティ側はそんな言い訳をする。それなら、やはり創業者が経営者として残っていることが多いテクノロジー企業と比べたらどうだろう。
確かに、オラクルの共同創業者であるラリー・エリソン取締役会長は6億3100万ドルと、今回の調査対象者のなかで第2位の収入があった。その大部分は保有株の配当という形で。ちなみに第1位はシュワーツマンで、やはり配当収入が多かった。
それでも全体としては、テクノロジー企業幹部の収入は、プライベートエクイティよりもずっと少ない。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOの場合は、ちょっと変わっている。2015年の報酬は1ドルだが、会社がセキュリティーと自家用ジェット(合わせて約500万ドル相当)を提供している。
資産総額ではフェイスブックのマーク・ザッカーバーグが上回るが、収入でへプライベートエクイティ幹部が優る(Jim Wilson/The New York Times)
もちろんフェイスブックの株価は、ブラックストーンやアポロの株価よりもずっと高いから、資産総額となるとザッカーバーグの圧勝で、シュワルツマンとブラックを合わせたよりも約490億ドル多い。
ブラックストーンとアポロの株価は上場後さほど上昇していないが、フェイスブックの株価は大幅に上昇している。
プラス3の収入源
一般的な企業経営者の収入源は、役員報酬と賞与とストックオプションだが、プライベートエクイティの幹部はほかにも主に3つの収入源がある。
第1に、プライベートエクイティは一般に、既存の投資家に有配株を発行する。そして多くの場合、幹部は大株主だから、四半期ごとに配当すなわちパートナーシップの持ち分に基づく分配を受ける。
プライベートエクイティは、幹部はリタイアして、こうした配当を受けながらビーチ暮らしを楽しむこともできるという。
だが、もちろんそんなことをする者はほとんどいない。たいていの幹部は、会社を離れるときに保有株を売却する。このとき一般の株主よりも高い配当をもらえる場合もある。
第2の収入源は、自社ファンドからの投資利益だ。
プライベートエクイティでは、経営幹部が自社ファンドに個人資金を投じることを要求する。実際には、幹部たちは必要以上の莫大な自己資金を投入することが多い。なにしろプライベートエクイティ・ファンドに投資すること自体が、一般投資家にはチャンスがない特権だからだ。
第3に成功報酬がある。
これは基本的に会社が得た投資利益のことだ。プライベートエクイティの幹部は、各投資案件から得た利益の一定割合を受け取ることができる。これは会社の成功報酬の一定割合の形を取るか、四半期ごとの配当(主に成功報酬により構成される)の形を取る。会社の成功報酬が多いほど、配当は増える。
成功報酬に適用されるのは長期キャピタルゲイン税で、その税率は、トップクラスの所得層に課される所得税率の約半分で済む。
かつて企業の社内税理士だったビクター・フライシャーによれば、成功報酬にも所得税率と同じ税率を課せば、政府の税収は向こう10年間で約1800億ドル増えると見られている。
(注:ニューヨーク・タイムズとエクイラーの調査は、売り上げが10億ドル以上の上場企業を対象とした。したがって上場企業でも売り上げが少ない企業、あるいは未上場企業で、もっと多くの役員報酬を支払っている企業もありうる)
*本特集では、米国のプライベートエクイティの世界を全8回に渡って描く。第1回〜第4回は、破綻企業への投資により荒稼ぎするアポロ・グローバル・マネジメントの手法を、菓子会社ホステスの再生を通じて描写。第5回〜第8回は、強力な政治力をテコにして、公共インフラにまで触手を伸ばす巨人フォートレスの全貌に迫る。
(執筆:BEN PROTESS記者、MICHAEL CORKERY記者、翻訳:藤原朝子、バナー写真:Sasha Maslov/The New York Times
© 2016 The New York Times Company
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