エネルギーアナリスト・大場紀章さんが「NPに期待する役割」

2017/2/4
NewsPicksで活躍する一般ピッカーさんをご紹介する本連載。今回はエネルギーアナリストの大場紀章さんにご登場いただきます。
化石燃料の供給や再生エネルギーなど、ご専門領域に関するニュースにコメントくださっている大場さん。これまでご紹介した方々からも、おすすめピッカーとして何度もお名前があがっていました。
今回、大場さんが「コメント欄に価値があるメディア」として、NewsPicksに注目する理由や、なぜ専門領域以外についてもコメントするのかなどについて伺いました。

専門を超えてコメントする理由

──まずはNewsPicksを使い始めたきっかけから教えてください。
直接のきっかけは、友人がNewsPicksの編集部に転職したことでした。どんなところだろう、と思ってアプリをダウンロードしたんです。
また、ちょうど同じ頃、別のネットメディアでエネルギー資源を題材とした連載を持っていたこともあり、メディアのあり方について自分なりに考えていたところでした。
私が感じていた課題は、専門性の高い記事が価値を発揮するためには、どんなアプローチがあり得るのだろうかということです。どんなネットメディアにも共通する傾向として、専門性の高い記事を掲載しても、注目を集めるのはノリの軽いハウツーものの記事ばかりになってしまっています。
私が書くような記事が価値を発揮するには、どんなアプローチがあり得るのだろう、と考えていたときに、NewsPicksを知ったんですね。
そのなかで、NewsPicksは「コメント欄に価値があるメディア」であり、ニュースと人の関わり方として、面白いアプローチだな、と感じて興味を持ちました。
──実際にNewsPicksでコメントをはじめてみて、いかがでしたか?
はじめは自分の専門分野であるエネルギー関連のニュースコメントで、情報発信ができればと思っていたんですが……コメントを書いても書いてもリアクションがあまりなくて(笑)。この連載に前回登場したKato Junさんや、エネルギー分野がご専門のピッカーさん数名しか、僕のコメントに反応してくださる方がいなかったんです。
──最初は関心が集まらなかったんですね。コメントする気持ちは削がれませんでしたか?
辞めてしまおうかな、と考えた時期もありました。コメントしたところで読まれなかったら意味がないですし。
それでも「エネルギーアナリスト」を名乗っている以上、NewsPicksでは肩書きに合ったコメントをせねばならないと意識していました。
それが昨年の夏、女性下着のトレンドについてのニュースにコメントしたことが転機となりました。以前、女性下着の過剰とも言える多様性と社会心理との関係について考えていたことがあって、その時の分析を踏まえて流行の背景についてコメントしました。すると、自分の専門分野では集めたことがないほどのLikeをいただいてしまったんです。
何かが吹っ切れまして、もういいかなと(笑)。
それからは、どんな話題でも気ままにコメントするようにしています。「まずは人として興味をもってもらおう。そうすれば、エネルギーについて関心のなかった方にも、『私』のコメントならと読んでいただけるのではないか?」と思うことにしました。肩書きに不審感を抱かれるリスクはありますが、それこそ自分にしかできないことだと覚悟を決めました。
また、私が下着の話題だけではなく、アイドルの話題などにもコメントするのは、もう一つ理由があります。私にとってエネルギーの問題を考えることは、新しい流行や文化などの時代精神を考えることと、不可分に繋がっているからです。何のためのエネルギー安全保障か。それは、そうした人間の他愛もない日々の営みのためであり、そのことを忘れたくないんです。
どんなに技術が進展しても、石油は安いところから掘られるので、長期的にみれば石油のコストは必ず上がります。そのため、エネルギーの消費効率を上げていかないと、今の余裕や娯楽をキープすることは難しくなります。人々が何に愉しみを見出し生きていくのかを考えることは、エネルギー問題を語る上でとても大切な視点だと思っています。
大場 紀章(おおば のりあき)
エネルギーアナリスト。2008年京都大学大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学後、エネルギー・環境・交通・先端技術分野の調査研究を行う民間シンクタンクに入社。ウプサラ大学物理・天文学部、中国石油大学に短期留学。2015年よりフリーに転身し、日本データサイエンス研究所主席研究員、実践女子大学非常勤講師、Nanobell株式会社執行役員なども務めている。 専門は、エネルギー安全保障、自動車産業、材料科学、意思決定理論、動物行動学、脳科学、人工知能研究など幅広い分野で活動中。

エネルギーアナリストとは?

──大場さんの寄稿記事を拝読して、いかに私たちが有限の資源を食いつぶしているのかを気付かされました。そもそも大場さんがエネルギーについて興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
私はエネルギーについて、30年近く考えてきました。小学校4年生のとき、街の車を走らせ、明かりを灯しているエネルギーは、石油や石炭、天然ガス、そして原子力といった有限資源によってまかなわれていることに気づきました。そして、いずれエネルギーを使い果たしてしまうと、この世の中は回らなくなる、ということに驚愕したんです。
死活問題であるにもかかわらず、どうすればよいか、先生に聞いても教えてくれないし、明快な答えも持っていない。そして、問題の難しさに対して、人々の関心がなさすぎると思いました。それが、エネルギーの問題に興味を持った理由です。
私にとって、世界のあらゆる現象はすべてエネルギーの流れであると捉えています。むしろ、その視点で考えないと分からないとも思っています。
エネルギー問題は複雑で、ありとあらゆる角度からアプローチする必要があります。いろいろ学んだ結果、私は究極的には「安全保障問題」だ、というところに行き着きました。
ですから、エネルギー関連の組織に籍をおかず、海外の研究機関から誘いがあっても行きませんでした。
自分がもっとも重要だと思っているテーマについて、ひたすら考え続ける人でありたい。その思いが「エネルギーアナリスト」という肩書になりました。
中国の大慶油田を視察する大場さん。かぶっているのはテンガロンハット型のヘルメット。

──私にとっては聞きなれない職業です。実際にはたくさんいらっしゃるのでしょうか。
基本的にはいません。というのも、エネルギーアナリストという肩書は、普通ではありえないんです。
エネルギー分野の専門家は、通常は電力・石油などの業界や国の研究機関など、なんらかのバックグラウンドを持ち、基本的にその専門業界で得た知見や人脈を活かして情報を発信します。
企業や組織に属さず、完全に独立した存在としてエネルギー業界全体のことを分析するだけで生活の糧を得ることは、ほぼ不可能です。必ず何らかの色のついた予算で研究をせざるを得ません。それは国の予算であってもです。
アナリストとしては、発信する情報そのものの正しさはもちろんですが、「誰が」語るのかも大切です。とくにエネルギー問題は、分析の正しさである実証論とともに、「どうあるべきか」という規範論がかならずつきまといます。
もし私が石油会社や電力会社、海外のシンクタンクに所属していたら、利益相反が発生して、語ることに制限がかかってしまうでしょう。
だからこそ私は、エネルギー産業に与しない、中立のスタンスを貫くことにこだわりたいんです。そうでないと、本当の意味での日本の国益にならないですし、生活者にとってよい情報提供ができないのではないか、という思いがあります。

NewsPicksの可能性

──NewsPicksが目指していることのひとつに「社会を変革する「動力源」でありたい」という点があります。ピッカーの皆さんと一緒に、世界を動かす意見が集まる場を作りたいという大志があるのですが、大場さんから見て、NewsPicksに果たせる役割とは何でしょうか?
今この時代にメディアが果たすべき役割は、有益な情報を提供することよりも、“問い”という切り口の提示なのではないかと考えています。
たとえば、政治思想でいうと右翼左翼、学問でも理系文系、といった対立概念がありますが、それらが今や無益な分類となってしまっていることが多いように、時代時代によって意味のあるコンセプトは変わります。
新しい時代に有用な軸となるコンセプトを見出し、”問い”として提示することで議論を喚起すること。それこそが、今のメディアに求められていることではないでしょうか。
社会にとって有用な切り口を皆に投げかけ、それに対する反応も含めて共有する。その構造そのものが、民主主義で意見を健全的に醸成するために必要なメディアだと思います。自由で活気ある経済とは健全なルールであり、そしてルールとは政治です。
──皆さんに考えてもらえるようなきっかけを、うまく提供することが大事ということですね。大場さんの考える「問いのうまさ」とは?
それは、新しく意味のある切り口を生み出せているかにかかっています。答えがあることを前提にした問いや、使い古しの切り口で今を語っても、たいした発見はありません。
フランスで民主主義が起きたとき、「議論するとはどういうことか?」を考える人々があらわれ、コンドルセは「熟議」を定義しました。彼は議論により意見の違いがより本質的な原則に還元できるかどうかで、その議論の価値が決まる、と言っているんですね。
話題が拡散するだけでは、たんなる世間話にすぎません。議論の価値とは、良い問いが設定され、本当は何が本質的な問いなのか、人々がそれに気づき、答えを選択できるようにすることにあります。
──単に意見をぶつけ合うだけではない、と。
例をあげると、「どうしたら一流になれるか?」というテーマの記事をよく目にしますよね。それに対し、ある人は「靴からこだわるべき」とブランド名を列挙する。「そんなこだわり、くだらない!」という人もいて、話題は拡散していきます。
それであれば「なぜ人は一流を目指そうとするのか」と、一流であることの意義を問いかける方が、みんなの思考が深まり、自分ならどうするかに思い至ることができる。
「そういうことか!」とみんながスッキリして、正しい選択ができる。こっちへ進もうと、一歩踏み出す方向を見つけられる。そういった問いかけができるといいですね。
NewsPicksが社会を変革する源になるためには、問いかける力を高めることによって、コメント欄の価値を高めることが必要なのではないでしょうか。
そういうメディアこそが生き残るだろうと思いますし、その可能性を持つNewsPicksに期待しています。
大場さんの仕事風景。大場さんがかわいがっているヒキガエルの「ぱくちゃん」ともここで出会った。


大場紀章さんのおすすめピッカー

モスクワ駐在のピッカーさんで、私の専門領域のニュースにもよくコメントくださるので注目しています。しっかりしたご意見をお持ちの方です。
NewsPicksで最初に「いいな」と思ったピッカーさん。率直な思いをズバッといってくれる女性ユーザーさんって貴重だと思うんです。
クラシックバレエでプロを目指されていたこともあるとか。短いコメントの中でも、お書きになるひとことひとことが鋭い。
ご自身の専門分野についてコメントをするのは、難しいことですが、それをしっかりやられている方です。
■小野 編集後記
電力や石油業界に属さない、孤高のエネルギーアナリスト・大場紀章さん。小学校4年生(!)でエネルギー問題の難しさに気づいて以来、人々が他愛もない日々の営みを楽しんでいる間も、この難問に取り組まれてきました。

長年、肩書きに恥じぬようにと、ご自身を律してこられた反動なのでしょうか、NewsPicksでは博識かつ変態な側面をつぎつぎに披露くださり、多くのピッカーさんを魅了いただいています。

これからも、幅広い分野での分析コメントで、私たちの常識を揺さぶってください。
それから「仕事風景です」と送ってくださった写真、屋外ノマドを楽しむには寒すぎるのではないかと心配です。どうかお身体を大切になさってくださいね。