型破りな職業訓練が再犯を防ぐ

ロサンゼルス北部の砂漠地帯にあって、受刑者2145人を収容するカリフォルニアシティ刑務所をディズニーランドと間違える人はいない。だが、ここで行われているささやかなプログラムには、ディズニーランドに感じるものに似たある種の畏敬の念をいだかせることがある。
アメリカでは、仮釈放された受刑者の大半が1年以内に再び逮捕される。だが非営利団体デファイ・ベンチャーズによるテクノロジーや起業の専門訓練を受けた人々の再逮捕率は、たった3パーセントだ。
デファイ・ベンチャーズは、カリフォルニアシティでプログラムを終了した元受刑者らへの資金提供にも取り組んでいる。「これは前例のないプログラム」と、最高経営責任者(CEO)を務めるキャサリン・ホークは誇らしげに指摘する。
6年前に設立されたこの非営利的団体は、ハイテク企業やベンチャーキャピタル会社からのボランティアと献身的なスタッフのチームを送り込み、カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージー、ネブラスカの刑務所11カ所で、約500人の受刑者に起業の初歩的な知識を教えている。
とくに刑務所が過密になり、刑が軽い受刑者の仮釈放時期が早まっているカリフォルニア州において、この種の型破りな職業訓練は仮釈放された受刑者の再犯を防ぐ重要な決め手になりうる。
ボランティアにとっても、刑務所での指導は驚くべき経験になるとホークは言う。「刑務所で一日過ごすことで、目の前の受刑者たちが20年前に罪を犯した人物とは違う存在になっていることに気づいてほしい」
ホークは、ボランティアに対してプロジェクトへの資金提供と仮釈放者の雇用を勧めており、すでにこのプログラムで350人分の雇用が創出されたという。

SAPのCEOもプログラムの講師に

小論文と行動記録に基づいてプログラムの対象に選ばれた受刑者は、デファイのクラスを週に平均20時間(さらに宿題)、6~9カ月間(受刑者による)受ける。
グーグルや動画ホスティングサービスのVimeo、その他の企業の投資家や従業員がボランティアで、受刑者にコンピュータの初歩やソーシャルメディアの技術、履歴書や事業計画書の書き方、最終的にベンチャーキャピタルにアイデアを売り込む方法を教える。
3500人のボランティアのなかには、ビジネスソフト大手SAPのCEOビル・マクダーモットや、ハリウッドのユナイテッド・タレント・エージェンシーの共同経営者でデジタル部門のトップ、ブレント・ウェインスタインもいる。
デファイのプログラムによって、仮釈放された卒業生525人の夢から150のベンチャーが生まれた。デファイは資金調達も手伝い、出所後の訓練生に総額50万ドル以上の融資とエンジェル投資家への橋渡しを行った。
「デファイに登録して10カ月のうちに、私はCEOになった」と、グレゴリー・ボンズは言う。彼は麻薬関連の罪でサン・クェンティン州刑務所に2年半服役したが、現在は展示会用のバナーを作っている。「これが自由だ」
カリフォルニアシティでは、初期の段階からこうした成功例が続出し、プログラムへの登録希望者が増えた。
ある朝、刑務所の娯楽室でデニムの囚人服を着た受刑者100が十数人のボランティアに家族のことや自分の過ち、目標について事細かに語った。
感動的な数時間を過ごした後、数人のボランティアと数人の受刑者はそれぞれ抱き合った(受刑者とボランティアは握手以上の接触は許されない)。
「変化を起こしたいから、ここにいる」と、誘拐罪で服役しながら起業家の訓練を受けるウェインは言う。

「第二のチャンス」を提供し続ける

デファイはホークにとっても第二のチャンスを象徴する。
未公開株式投資家だった彼女はあるとき、教会が企画した刑務所訪問に参加し、二度目の機会を心から求めていた男性の姿に感動した。そして2004年に自ら資金を出して、テキサス州の刑務所内の起業家養成プログラムを設立した。
ホークはもともと、そんな活動とは縁遠い人物だった。12歳のときに親友を殺された経験があり、犯罪者への同情はまったくなかった。だが、ホークと夫はテキサス州で数百人の受刑者に教え、州知事とホワイトハウスから表彰された。
しかし夫との離婚後、テキサス州の司法当局への匿名の手紙で、ホークが仮釈放された教え子数人とロマンチックな関係にあったことが暴露された。彼女はテキサス刑務所への立ち入りを禁じられ、プログラムからも身を引いた。
その一年後、ホークはデファイを設立した。あの屈辱は自分と向き合い、根性を試す機会だったと彼女は言う。そこには良い面もあった。「私のスキャンダルのおかげで、デファイに参加している人々に親しみを感じてもらえる」と、彼女は話す。 「私にはもっと強い『理由』がある」
2017年度のデファイの予算500万ドルは、州の補助金と民間の寄付でまかなわれている。グーグルは130万ドルの資金提供を約束している。だが、デファイにはもっと資金が必要だ。
ホークは、2020年までにこのサービスを100の刑務所に拡大する予定だという。プログラムの立ち上げには通常約10万ドルが必要になる。
今のところ、受刑者とボランティアはデファイのプログラムにそれだけの価値があると楽観視している。カリフォルニアシティの刑務所内クラスで教えていたSAPのCEOマクダーモットは、授業の終わりに受刑者に言った。
「ここを出たら、履歴書を送ってくれ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Adam Popescu記者、翻訳:栗原紀子、写真:Manuel-F-O/iStock)
©2017 Bloomberg Businessweek
This article was produced in conjuction with IBM.