チーム小池が描く、「4年で待機児童ゼロ」実現プラン

2017/1/31
日本の中でも、とくに待機児童問題が深刻なのが東京都だ。その課題に対処すべく、小池百合子知事は「2019年度末の待機児童ゼロ」を目指し、2017年度予算として、過去最高の1381億円を計上した。本当に東京の待機児童は4年後にゼロとなるのか? 小池知事のブレーンとして待機児童政策を担当する、鈴木亘学習院大学教授に聞いた。

保育業界の「不都合な真実」

──待機児童の問題はメディアで大きく報じられるようになりましたが、依然として全国の待機児童数は高止まりしています。待機児童の根本的な原因は何でしょうか。
経済学的に考えると、大きく3つの原因があります。
1つ目は、保育料が安いことです。
とくに安いのが、国から補助金が出ている、認可保育園の保育料です。東京都の認可保育園の保育料は、所得によって違いますが、平均すると2万円程度です。
一方、無認可保育園の場合、認可保育園と同程度の質を備えた保育園を東京都が「東京都認証保育所」と定めていますが、こちらの保育料が6、7万円ぐらいです。
つまり、認可と認証には4万円くらいの差があります。安いものはみんな使いたいので、無認可が空いていても、認可のほうに希望者が集中してしまうのです。
しかも、東京の場合は、保育料が神奈川、千葉、埼玉などの周辺の県に比べても安いため、なおさら希望者が増えてしまう構造になっています。
鈴木亘(すずき・わたる)
東京都顧問/学習院大学経済学部教授
1970年生まれ。94年上智大学経済学部卒業、日本銀行入行。同行退職後、2000年大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学(2001年博士号取得)。日本経済研究センター研究員、大阪大学助教授、東京学芸大学准教授等を経て、現職。主な著書に、『生活保護の経済分析』『だまされないための年金・医療・介護入門』『社会保障の「不都合な真実」』『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』
2つ目の原因は、コスト面です。
認可の保育料は平均2万円と話しましたが、実際のコストはどれくらいかかっているかと言うと、1人のお子さん当たりの運営費は、東京の場合、15万〜20万円です。
とくに低年齢の児童は、手厚く保育士を配置して、面積も広めにとる必要があるため、コストがさらに高くなります。
たとえば、ゼロ歳児は1人当たり約40万円かかります。認可保育園の半分は公立ですが、その場合は、さらにコストが上がって50万〜60万円かかります。よく「その金額は年間のコストですか」と聞かれますが、1月当たりの金額です。
すなわち、ゼロ歳児のお子さん1人当たり月40万円かかるのにもかかわらず、保護者は平均的に2万円しか払っていないのです。
となると、その差額の38万円のお金はどこから出ているかというと、公費です。つまり税金なのです。
普通のお父さんやお母さんは、「保育園は、われわれの支払っている保育料で成り立っている」と思っていますが、実態としては、ほとんど税金で運営されているのです。
現実的に、お母さんが、保育園に子どもを預けて働きに出ても、月に40万円以上稼げることはまれです。103万円の壁を越えないように、パートとして働くお母さんもいますが、その場合、月8万円の収入を得るために、38万円の公費がかかっていることになります。
その結果、社会全体として見ると、「働きに出ずに、自分で子どもを育ててもらったほうがコストは安い」という矛盾が生まれてしまうのです。
自治体の首長や保育課長は、「待機児童対策をやっていますか」と聞かれたら、「うちは一生懸命取り組んでいますが、空きスペースがない、保育士がいない」と答えるはずです。
しかし本音では、「ただでさえ自治体の財政が厳しいのに、母親が8万円を稼ぐために、40万円の公費はかけられない」と思っているのです。
──それは一般的にはほとんど知られていない話ですね。
ある意味、タブーに近い話です。
誰も知らない、言ってはいけない「不都合な真実」です。だから、私のように真実を言うとすごくバッシングを受けます。しかし、この業界の人たちはみなが知っている常識です。

保育業界の「既得権益」

待機児童が解消しない3つ目の理由は、既得権益です。
今私が話したような事実がなぜ広く知られていないかというと、隠しているからです。昔は、ゼロ歳児にかかる運営費用などの情報は議会で公開されていたのですが、今は、都内の多くの自治体で、情報公開することをやめています。
なぜ公開しないかと言うと、既得権を持つ人がいるからです。そういう人たちが改革に断固反対しています。改革の材料になるような統計を公開することすら反対しているのです。
普通に考えると、コストが高いのであれば、経営努力をしてコストを下げればいいと思うのですが、保育労組や保育団体はそれを嫌がるのです。
企業努力で運営費を安くしようと思ったら、いちばんてっとり早いのは新規参入の自由化です。競争すれば、みな企業努力するようになって、「質がよくても安い」というところが生き残ります。
しかし、保育労組や保育団体は、競争相手が入ってくることにとにかく反対します。
とくに保育労組や保育団体が怖がるのは、株式会社です。現在の保育園は1園1法人のところが多いですが、株式会社がチェーン展開して規模の利益を出し始めると競争になりませんから、特に怖いのです。
そもそも、認可保育園には2つの種類があります。
ひとつは公務員が働く公立の保育園です。
もうひとつは私立の保育園ですが、私立といっても、ほとんどは社会福祉法人という特殊な法人格です。株式会社は極めてマイノリティなのです。全国の認可保育園のうち株式会社は10%程度にすぎません。
この社会福祉法人とは何かというと、民間というより官業に近い。いちばん近いイメージは、特定郵便局です。
そのひとつの特徴は、ほとんどが世襲であることです。
私立の保育園に行くとわかりますが、だいだい運営者の名字がみんなずっと同じです。それは、家業として経営しているからです。たまに保育園が分園をつくることもありますが、それは単に息子が2人いたというケースでしょう。
保育園の業界は特殊で、少し前までは、公立か、社会福祉法人しか認可保育園を運営できないという法律でした。やっと最近になって、株式会社も参入できるようになったのですが、まだまだマイノリティです。
もうひとつの社会福祉法人の特徴は「すべての税金がタダ」ということです。
消費税、固定資産税、法人税、そして、相続税がタダなのです。そのため、すべての資産を息子に継げます。保育園は自分のものだから、息子の数以上はつくる気がない。保育業界はそういう業界なのです。
その上、補助金もすごく出ています。
保育園を建てる際、一般的に、土地は自分のものである必要がありますが、建物代の87.5%は税金で負担してもらえます。仮に建設コストが2億円なら、1億7500万円が税金で賄われるのです。
さらに、残りの2500万円も国の財団がほぼ無利子で融資してくれます。ですから、ほとんど持ち出し無しで保育園をつくれるのです。

保育園の政治力の源泉

──それほど優遇されているのは、政治力が強いからですか。
特定郵便局と一緒で、当初、多く保育園をつくりたかったため、補助金を多く出して急いでつくらせたのです。
そもそも、戦後の日本において、保育園は福祉施設です。
保育園が必要な人を法律用語で「保育に欠ける」と言いますが、専業主婦が一般的な時代において、保育園は「欠陥のある家庭のかわいそうな子どもを親から守る施設」という位置づけでした。そうした歴史があるからこそ、日本の保育園は、社会福祉法人が運営しているのです。
これらの保育園は、「保育園は福祉なんだ。企業が儲けのためにやってもらっては困る」と言って、株式会社やNPOの参入を拒みます。
もし補助金をもらっていない株式会社が保育園に参入して、社会福祉法人よりうまく経営できたら、自治体からの補助金がカットされかねません。「株式会社のように税金をきちんと払え」という議論になるかもしれません。それを恐れているのです。
──なぜその構造を変えられないのですか。保育団体や保育労組は票を集める力があるのですか。
票を取る力はあります。
保育園に行くと、保護者はインボルブされます。保育園ごとにある「親の会」や、「守る会」といった組織にオルグされ、「保育園の待遇改善のために立ち上がってください」と勉強会や署名活動を行わされるのです。特定の政党の政治家を応援するように働きかけが行われることもあります。
しかも、社会福祉法人の保育園長には地域の名士も多いですから、政治力があります。保育団体、保育労組は全国組織ですから、自治体の一区長、一保育課長では、なかなか対等に戦える相手ではありません。
実際、競争相手が入ってこなければ、保育園ほどラクな商売はありません。
待機児童があふれているので、営業努力ゼロでもお客はいくらでもやってきます。それに、やっと入れた保護者たちはうれしくてしょうがないですし、保育料も安いので、大したサービスをしていなくてもありがたく感じてくれるのです。

東京と横浜の決定的な違い

もうひとつ東京で待機児童が発生する構造要因があります。
それは、東京都の区には、選挙で選ばれる首長がいるということです。
首長たちは「待機児童対策を頑張ります」と言いますが、口だけで本当は頑張らないケースも多い。それはなぜかというと、「やったもの負け」になるからです。頑張ると損をする仕組みなのです。
たとえば、今、杉並区が公園の中に保育園をつくるなど、待機児童対策に前向きに頑張っていますが、それをすると一時的には杉並区の待機児童が減ります。
しかし、次の年に何が起きるかというと、隣の世田谷区や武蔵野市から人が流入してきて、あっと言う間に努力がムダになってしまいます。となると、なぜ自分の区の予算を使って、他の区の対策をするのかという話になるのです。
したがって、東京では、隣の区を見ながら、「あなたの区もやるなら、うちもやろう」という様子の見合いになってしまいます。誰かが飛び抜けてしまったら、その人が損をするので、みんなでカルテルを結んで、匍匐(ほふく)前進になってしまいがちです。
ではなぜ、横浜、川崎、相模原では待機児童がゼロにできるたのかというと、東京との決定的な違いがあります。
それは、区長が公務員だということです。選挙で選ばれない役人が区長になるのです。
そのため、たとえば横浜市の林文子市長が「待機児童対策をしっかりやる」と言えば、お互いに様子見することなく、みんなしっかり従うのです。
就任から数年で「待機児童ゼロ」を実現した林文子・横浜市市長(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
しかし、東京では、小池知事が対策をすると言っても、区長は受け流すこともできます。最大の違いは、区長が選挙で選ばれるかどうかなのです。
さらに、23区の歴代の区長たちが何をやってきたかというと、選挙に勝つために、保育料のディスカウント競争をやってきました。「隣の区よりも保育料を安くして、うちの区は子育て支援に頑張っている」と選挙のたびにアピールしてきたのです。
その結果、東京の保育料は千葉など周辺県より安くなってしまい、また東京に人が流入してきて、待機児童が増えるという悪循環を生んでいます。
──なぜこうした構造問題の解説がメディアにあまり出てこないのでしょうか。
難しいからでしょうね。短い記事では説明できませんから。
また、こんなことを書くと、保育団体、保育労組、オルグされた親たちから矢のようなバッシングを浴びるので、面倒くさいことになります。
そして、メディアが十分に認識していないのは「現在の待機児童は氷山の一角だ」ということです。
今は、全国に約2.5万人の待機児童がいて、うち東京が8500人ぐらいですが、これはほんの氷山の一角です。
待機児童が多いので保育園入園をあきらめている潜在的な待機児童は、全国に80万人、東京だけで20万人ぐらいいると推計されています。
実際に、東京都では8500人の待機児童数に対して、1万数千の新規定員数を毎年作っています。しかし、すると何が起きるかと言うと、潜在的な待機児童が表面化して、同じ数の待機児童がまた出てくるのです。
表面上に見えている待機児童だけでなく、潜在の待機児童まで解消するためにも、あらゆる問題に根本的に対処しないといけないのです。

小池流「待機児童対策」の中身

──こうした問題を解決すべく、都はどんな政策を実施しているのですか。
まず2016年の9月に、126億円の補正予算をすべて待機児童対策につぎ込みました。これは待機児童対策予算として過去最高額です。
それから、私は政府の国家戦略特区の委員、そして小池知事の肝いりで新設した東京都特区共同推進事務局の事務局長もしていますが、多数の規制改革を進めています。この規制改革案は、今の通常国会で通る予定です。
そして2017年1月25日に発表した当初予算で、待機児童対策予算として1381億円を計上しました。2016年度から400億円も増額して、これも過去最高の金額です。
これらの予算や規制改革で取り組む主な施策を説明しましょう。
1つ目は、認可と無認可の保育料の差を埋めるためのバウチャーです。
今は認可と無認可の保育料の差が大きいため、どうしても認可に人気が集中してしまいます。そこで、認可と無認可の約4万円の差額を補助するための制度を創設、拡充しました。
そもそも、認証は株式会社やNPOがやっていて、質的にも安心です。緊急マニュアルもしっかりしています。同じ価格であれば、認証を選ぶ人も増えてくるはずです。各自治体が行う利用者補助を大幅に拡充する形で、2017年4月に保育園に入る際には、このバウチャーが使えるようになります。
2つ目は、保育士の給料のアップです。240億円をかけて、保育士の月給を4.4万円上げることにしました。
今は、保育士の待遇が低いこともあり、保育士の人数が足りず、なかなか保育士を雇えません。保育士に手厚い補助をすれば、保育士が増えて、株式会社やNPOなどの新規参入組が保育士を雇いやすくなるはずです。それによって、業界の競争を活発化させる、というのがこの政策の狙いです。
国は6000円しか給料を上げないと言っていたので、東京都は戦力の逐次投入ではなくドカーンと行くぞということで、4.4万円にまで上げました。2016年の補正予算では、保育士1人当たり8.1万円の家賃補助を制限なく出していますので、保育士の待遇はかなり改善しています。
3つ目は、保育園を建てる土地の提供です。
東京都の場合、地価が高いので、物件を探すのが大変です。いい場所は家賃が高くて採算が合いません。
そこで、保育園に土地を貸した人に対しては補助金を払うとともに、固定資産税と都市計画税を5年間免除することにしました。東京都の固定資産税は高いですから、この効果は大いに期待できます。アパートを建てたり、コンビニに貸したりするよりも採算がいいはずです。
それに加えて、都はすごいことをやりました。
東京都内で土地をいちばん多く持っているのは都です。いっぱいあちこちに各局が土地を持っています。そうした土地をかき集めて、保育所にタダで提供を始めたのです。
当然ですが、この政策を都の官僚たちは嫌がります。自分たちの局の土地がなくなることを嫌がって、土地をなかなか出したがりません。
その対策として、「どの局が保育園に適した土地をもっているか」を、いわば”密告”してもらう「とうきょう保育ほうれんそう」という制度をつくりました。
保育園をつくりたい事業者がいて、すばらしい物件があるのに都が放置している場合は、それがどこの局の持ち物かを調べてきて、東京都にこれを使いたいと申し出る制度です。
この制度を実施したところ、第1弾は間に合わなくて少ししか土地が提供されなかったのですが、第2弾ではたくさんの土地を各局が提供するようになりました。
そのほかに、特区共同事務局の仕組みを活用して、代々木公園のような大きな公園の中にも保育園をつくれるようにしました。
現在、荒川区、世田谷区、渋谷区、品川区などで都市公園内の保育園設置が進んでおり、2016年度中に、1000人分の新設が決まる予定です。

一石二鳥の「幼稚園との連携」

4つ目の取り組みが、小規模保育園の推進です。大きな軍艦ではなく、小さな駆逐艦をたくさんつくるという発想です。
今これを東京都で強烈に広げています。東京都の場合は、大きいまとまった土地を見つけるのはなかなか大変です。保育園は園庭も必要ですが、100人も収容できる土地はそんなにありません。
そこで目をつけたのが、空き家です。空きマンション、空きアパート、空きオフィスを改装して、小さな保育園をつくり始めています。定員20人でも、10個つくれば200人分になりますので、インパクトは大きい。
特区共同事務局から提案した小規模保育園をつくるための種々の規制緩和も、今の通常国会で通る見込みですので、これからどんどん作れるようになります。
5つ目は、幼稚園との連携です。
これは根深い問題ですが、都内の保育園はこれだけ不足しているのに、幼稚園は余ってしょうがないという状況です。幼稚園は少子化により定員を埋められなくなっていて、バスを出してあちこちから子どもを集めています。
この状況を一石二鳥で解消するには、幼稚園が保育をやればいい。
しかし、幼稚園はなかなか動きません。それはなぜかというと、定員が埋まらない私学の幼稚園にも多額の補助金が入ってくるため、経営的に困っていないからです。東京都は自民党の文教族議員が多く、その政治力が強いため、幼稚園は優遇されているのです。
そうした背景もあって、「厚生労働省管轄の保育なんてやりません」という私立幼稚園も少なくないのです。
この状況を打開するため、面白くないところもあるのですが、時間延長など預かり保育を行う私立幼稚園に対して園児1人につき月500円、認証保育園や小規模保育などと連携する場合に年400万円を補助することにしました。
今後は、保育園と遜色のない預かり保育を行う幼稚園がたくさん出てくるはずです。保護者にとっても、幼稚園のほうが教育をしっかりやってくれるので、保育園よりいい面もあるでしょう。
幼児教育の重要性の高さは世界的に実証されているだけに、教育機能を持つ幼稚園の魅力は大きい(写真:iStock/coward_lion)
6つ目は、保育士の待機児童問題解消です。
実は現在、待機児童問題に苦しむ保育士が山ほどいます。保育士には若い女性で結婚している人も多く、子どもを産む適齢期です。しかし、子どもを預けられず、退職や育休延長を行う人も多いのが現状です。
そうした保育士が職場に復帰したら、1人で約10人のお子さんを見ることができます。それだけで待機児童が9人減るのです。そこで東京都として、保育士の復帰を促すために、復帰した場合、ベビーシッター代を最高月額28万円まで援助することにしました。
細かい政策はほかにもありますが、これらがお金を使って供給を増やすための主な政策です。もう、やれることは全部やる。球は全部打ち尽くす感じです。

「育休2歳まで延長」の狙い

待機児童問題を考えるときに、もうひとつ重要なのは需要側です。
その最たるものが、ゼロ歳保育の問題です。
今は、生後3、4カ月で保育園に預けることもザラですが、ゼロ歳児の育児はコストが高いですし、この時期の職場復帰は母体にダメージを与えるおそれもあります。本当は1年ぐらい休んだ方がいい。小さい子どもは事故も起きやすいので、保育園にとってもとても怖い。ある意味、みなにとって不幸なのです。
ゼロ歳児の保育にかかるコストの高さは、自治体にとっても頭痛の種になっている(写真:iStock/bee32)
にもかかわらず、ゼロ歳で保育園に入れるのは、ゼロ歳児の枠がいちばん保育園に入りやすいからです。1歳になってから預けようとすると、「すでにゼロ歳から入っている子どもたちが持ち上がりでいるので、空きがありません」と、認可保育園に入れない可能性が高くなるからです。
この問題を解決するために、小池知事から安倍首相に直訴してもらったのは、「育休を2歳まで延長する」という政策です。
2歳まで育休がとれ、育休手当もきちんと出るようになれば、ゼロ歳で預ける人が減るはずです。保育需要、とくにゼロ歳児の保育需要を減らすのが、育休延長の狙いです。
この育休延長も、すでに厚労省の審議会を通り、閣議決定も行われていますので、今の通常国会で通るはずです。

小池知事のリーダーシップ

──これだけ矢継ぎ早に対策が打てているのは、小池知事のリーダーシップも大きいのですか。
小池知事のリーダーシップは本物です。
首長も行政も横並びなので、前に出て打たれることを嫌いますが、小池知事が「やる」と言って先頭を走れば、小池知事が矢を浴びてくれるので、後ろからついていきやすくなります。
小池知事の就任後、東京都の待機児童対策が猛スピードで動き始めている(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
もうひとつ、なぜ小池知事がこれほどリスクをとれるかというと、保育団体や保育労組に担がれていない珍しい首長だからです。
たとえば、都知事選で出馬した増田寛也さんは保育団体に担がれていましたし、鳥越俊太郎さんは保育労組や自治労に担がれていました。しかし、小池知事は、保育団体にも保育労組にも、まったく応援されていませんでした。
以前、小池知事に「本当にこんな劇薬をやってもいいのですか。既得権益団体から強烈な反発がきますが、その覚悟はありますか」と聞いたら、「大丈夫。なぜなら私は誰にも応援されていないから」と、笑っておっしゃっていました。
小池知事は、保育団体や保育労組に何の貸し借りもないので、遠慮なく改革ができるのです。
小池知事はその意味で幸運ですし、待機児童問題に対する思いも本物です。こんなに待機児童問題に詳しい首長を私は知りません。
──小池さんの任期である4年以内に待機児童はゼロになりますか?
4年でゼロにできると思います。
2016年9月の補正予算からまだ4カ月ほどしか経っていないのに、ここまで来ることができました。この調子で小池知事が頑張り続ければ、確実にゼロになりますよ。
(撮影:遠藤素子)