少子化と戦う「7つの方法」

2017/1/30

ターゲットは、出生率2.07

今、日本が抱える最大の問題は何か?
そう問われれば、多くの人が「人口減少」「少子化」と答えるだろう。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2048年には日本の人口が1億人を割り、2110年には4286万人まで減少すると算定されている。
このままでは、100年後に人口が3分の1になるのだ。
しかし、「人口減少」「少子化」を嘆く声は聞かれるものの、政府も自治体も企業も個人も、どこか当事者意識が感じられない。
その大きな理由は、危機を実感しにくいことに加え、問題のスケールが大きすぎて、何をすればいいかよくわからない点にもあるのではないだろうか。
少子化問題は複合的だ。単純なソリューションは存在しない。
その解決のためには、「出産知識向上」「結婚機会の増加」「結婚の再定義」「働き方改革」「父親の育児参加」「待機児童解消」「育児支援」など、ありとあらゆるテーマに全力で取り組まなければならない。
ひとつのターゲットになるのは、出生率2.07だ。
経済財政諮問会議の推計によると、もし2030年までに出生率が2.07に回復すれば(2015年の出生率は1.46)、2090年半ばに人口減少は止まり、1億人弱の人口を維持できる可能性が出てくる。
そのシナリオに一歩でも近づくために何が必要なのか。
本特集では、海外事例を参考にしながら、各分野のトップランナーとともに「少子化との戦い方」を考えていく。
〈ソリューション編〉では、7人の専門家による提言を掲載。〈海外編〉では、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリア、韓国、中国の成功例、失敗例を通して、日本への教訓を導き出していく。
AI(人工知能)はあらゆる領域を揺さぶるが、恋愛・婚活の世界も大きく変える。もしかしたらAIは、少子化解決のひとつの切り札になるかもしれない。
AIがもたらすのは、新しい「人と人とのマッチング」だ。
第1回に登場する『超ソロ化する社会』の著者、荒川和久氏は「AIがさらに発展してくると、本人が行動しなくても、世界中から最適な相手をコンピュータが見つけてくれる時代になる」と予測する。
それによって、「人間本位の婚活」が復活し、同じような学歴、収入の人間同士が結婚する「同類婚」に風穴があくのではないかと展望する。
第2回に登場するのは、学習院大学経済学部教授で東京都の顧問を務める、鈴木亘氏だ。
現在、小池知事のブレーンとして待機児童問題に取り組む鈴木氏は、東京で待機児童が減らない背景には、3つの理由があると語る。メディアでは詳しく語られない、構造問題を徹底解説してもらう。
小池知事は、「待機児童ゼロ」を目指し、今年度の予算案で待機児童対策に過去最大となる1381億円を計上した。その具体策となる「保育士の給与引き上げ」「保育所新設に関する税負担の免除」「保育士のベビーシッター代援助」などの狙いを語る。

「今の日本は、人口減少ペシミズムが強すぎる」
そう警鐘を鳴らすのが、『人口と日本経済』の著書である、経済学者の吉川洋・立正大学教授だ。
吉川教授は「人口減少によりマイナス成長になるのは物理法則みたいなもので、プラス成長を語るのは無責任といった風潮を感じるが、これは間違っている」と訴える。
経済成長の最大の要因は、人口の増減ではなく、一人当たりの所得の上昇。つまりは、イノベーションによる労働生産性の向上こそが、先進国の経済成長のカギとなる。
では、今の日本には、どのようなイノベーションが求められているのか。先進国型のイノベーションについて説く。

日本における少子化対策は、経済的な側面ばかりを強調した提言や、個人の印象論に左右されたものが少なくない。
「今の少子化の議論には、生物学的観点、生態学的観点が欠けている」と主張するのは、総合研究大学院大学教授を務める、長谷川眞理子氏だ。
長谷川氏は「なぜ女性は子どもを産まなくなったのか」という分析に加えて、「人間におばあちゃんがいる理由」「キツネ、タヌキと現代日本人の共通点」などを解説。生物学的、生態学的観点から、少子化対策のソリューションを提言する。

保育園の世界は、新規参入が難しい。そんな閉鎖的な業界において、起業家として活躍するのが、まちの保育園を運営する、松本理寿輝ナチュラルスマイルジャパン社長だ。
小竹向原、六本木、吉祥寺の保育園に続き、2017年中に代々木上原、代々木公園にこども園を開園する予定だ。
そんな松本氏が掲げるのは、子どもを中心にした「園づくり」と「街づくり」。「街を保育園にすることが、少子化対策になる」と語る松本氏のソリューションとは何か。
少子化ジャーナリストとして、婚活、妊活、専業主婦、専業主夫などあらゆる角度から少子化問題に取り組んできた白河桃子氏。
現在、政府の「働き方改革実現会議」の有識者議員も務める白河氏が、とくに力を入れているのが、働き方改革だ。
中でも、長時間労働の是正は、少子化問題を解決するための“レバレッジポイント(負のサイクルを正のサイクルに変えるテコの原理)”になりうると強調する。
なぜ働き方改革が少子化対策となるのか? そのメカニズムを解説する。
パラサイト・シングル、婚活など、数々の流行語を生み出してきた、山田昌弘・中央大学文学部教授。
山田教授は少子化の主因として、パラサイト・シングルの存在と、非正規雇用の拡大を挙げる。独身でも不便がないため、結婚・出産に至らないのだ。
現状を打開するためには、「雇用制度を大改革して非正規社員でも年収が上がるようにする」「親が実家から子どもを追い出してパラサイト・シングルを減らす」「未婚の若者が、生活水準が下がってもいい、と腹をくくる」ことが現実となる必要があると語る。
7人の識者による提言を通じて、少子化という大問題へのソリューションを探っていく。
(バナー写真:Yagi-Studio/istock.com)