【吉川洋】「人口減少ペシミズム」との戦い方
コメント
注目のコメント
私などは「人口減少ペシミスト」の典型でしょう。「経済成長に与えるインパクトは、労働力人口の成長率よりも、イノベーションのほうが大きい」というのはわかるのですが、だからイノベーションを起こせばいいというのは単に経済成長の等式の解説をされているだけのように感じます。
人口が減少すればイノベーションの総数が増加するいわれもないわけですし、イノベーションの総数というのは試行の回数にある程度比例すると考えれば、他の条件が同じであれば人口が減少するとむしろイノベーションは起こりにくくなるように思います。
なるべく明るい未来を思い描きたいですし、納得できる解説があればいつでもペシミズムを放棄する準備はできていますが、この説明までだと得心できません。
とはいえ本論に沿ってもう少し前向きに考えるのであれば、「今まで人口が多かったなかで、イノベーションの総数が本来あるべき水準に達していなかったのはなぜか」こそを考えるべきなのでしょう。
本稿のイノベーションに関する解説を読む限り、旧来の雇用慣行や規制をどれだけ変えることができるのかが鍵になるように感じます。加えて教育もまた重要な要素であろうことは言うまでもありません。私も基本的には「人口減少ペシミスト」に属する人間だ。
ただし、正確を期していうならば、イノベーションによる高付加価値化による労働生産性の向上により、人口減少期にも経済成長は可能ということに異論はない。個人的には、それを信じて事業会社でも現職のコンサルティングファームでも働いてきた。
しかし、日本にそれが可能か?と問われると、正直なところかなり悲観的だ。明治維新後の高度成長、そして戦後の高度成長も諸外国から輸入されたイノベーションが基本で、日本が得意なのは付加価値よりもコスト削減側に寄った改善施策だ。
まかりなりにも、それなりの経済規模を確保しているだけに、GDPの40%を占めるといわれる大企業は前例踏襲型かつ既得権益保護の保守的な体質、残りの60%の中小企業にしても、大半は大企業の系列や支店経済圏に組み込まれており、企業の大小を問わず既存企業からイノベーションが産まれる気配はない。
本稿にあるように、オーバースペックなサービスレベルも問題だ。これは恐らく、日本では供給者と需要者の間に契約概念がないために起こる不幸で、特にサービスのような無形なものに対して付加価値として支払う概念が欠如していることにあると考える。これが、日本の高いサービスレベルの背景となり、国際競争力の源泉になっていた時期もあったのだろうが、そこを経済付加価値に今は転換出来なくなってきている。
私がやはり「ペシミスト」にならざるを得ないのが、リスクを取ってイノベーションを起こすことに対する傍観がどうにもこうにも日本企業全体に蔓延していることだ。それは経営者に限らず、現場レベルの一社員にいたるまでだ。日本人の他力本願で現状維持を旨とする国民性は脳科学的にも証明されるなどという話もあったが、この脳科学を使った日本人によるイノベーション誘発の荒治療が必要なのかもしれない。その処方箋を私はまだ書ききれてませんが(苦笑)
本稿では最後に悲観するのではなく前向きにと説いているが、せめて悲観している人だけでも、自ら動くことから始められればいいのでしょうけど。まずは、私自身、行動し続けたいと思っています。今後は確実に、消費市場から労働市場へ比重が傾くはず。そして、競争軸も、「どう付加価値を高めて、高価格で売れるか」にシフトしてくはずです。ブランディング、マーケティングに加えて、「リアル×ネット」「コト×モノ」など、合わせ技がカギを握りそうです。
吉川教授の『人口と日本経済』はもちろん、『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』もおすすめの一冊です。