【日本3.0】ベンチャーに足りない「3つのもの」

2017/1/27
日本に新しい時代が到来しようとしている。明治維新から敗戦までの「日本1.0」、敗戦から今日までの「日本2.0」に続き、2020年前後から「日本3.0」がスタートするのではないか。そんな予測を拙著『日本3.0ー2020年の人生戦略』で記した。

では、「日本3.0」はどんな時代になるのだろうか。各界のトップランナーとともに、「日本3.0」のかたちを考えていく。第1回は、「大企業×スタートアップ」のイノベーションを仕掛けるトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬氏と「2020年以降のスタートアップと大企業イノベーション」について考える(全4回)。

第1回:2020年に「大企業イノベ―ター」が育つ条件
第2回:2030年まではイノベーターの黄金期だ
第3回:日本のベンチャーに足りない3つのもの
第4回:日本に6000人のリーダーが生まれる日

セレブ投資の意義

──2020年までに、スタートアップはどう変わると思いますか。たとえば、2桁億円調達できるようなスタートアップはどれくらいに増えているでしょうか?
すでにベンチャーは多くのものを手に入れています。
お金は集まりますし、大企業との接点はありますし、メディアに出られますし、政府のサポートも得られます。
あと足りないものは3つです。
ひとつはM&Aです。
今のベンチャーはエグジットの方法がIPOしかありません。ベンチャーは全部を何でも自分でやってIPOするだけでなく、M&Aという選択肢も必要です。大企業がベンチャーを買収するようになれば、大企業とベンチャーの垣根が低くなります。
斎藤祐馬(さいとう・ゆうま)
トーマツベンチャーサポート事業統括本部長。公認会計士。
1983年愛媛県生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。2010年、トーマツ内で休眠していたトーマツベンチャーサポート株式会社(略称TVS)の再立ち上げに参画する。2013年4月より、現在は「起業家の登竜門」と呼ばれるようになった「モーニングピッチ」を仲間とともにスタート。著書に『一生を賭ける仕事の見つけ方』がある。
2つ目は、グローバルです。
要は世界に出ているベンチャーが日本にはほぼありません。世界に出て一定の存在感を示しているのは、まだ数社です。世界の人口の1.7%にすぎない日本市場だけでやっていてもやがて限界が出てきます。
3つ目は、著名人によるベンチャー投資です。
今のベンチャーの課題は、社会的地位を上げることです。そうでないと、もっと優秀な人材が入ってきません。
そのために効果的なのが、著名人投資です。アメリカでは、ブラッド・ピットなどのセレブがベンチャーに投資して、ステータスを引き上げています。
芸能人やスポーツ選手等の有名人が、ベンチャーに投資するようになると、ベンチャー界が盛り上がります。「あの人が投資したベンチャー」と言えば、一般の人にもわかってもらえるのです。
現実として、ベンチャーやイノベーションはどこまでいってもニッチです。それをマスにするためには、マスの要素を絡めないといけません。その点、著名人は、個人の感性や判断で動くので、VCとは違うタイプの投資ができるのです。

本田選手のインパクト

──サッカーの本田圭佑選手が教育スタートアップのライフイズテックに投資したのはいい例ですね。
本田さんの役割は大きいと思います。
私が注目しているのは、社会課題の解決をテーマに投資していることです。本業のVCの人たちは、収益を最優先しないといけませんので、同じことはできません。
──投資金額は必ずしも大きくなくてもいいわけですよね。
そうです。投資してくれたという事実が大事なのです。
スポーツ選手にとってもエンジェル投資はいいと思います。スポーツ選手は、30代半ばくらいでキャリアが終わりますが、セカンドキャリアの選択肢が多いわけではありません。
エンジェル投資がいいのは、どんなに高齢でもできるからです。私の知人にイスラエル人の90歳の投資家がいるのですが、彼は「エンジェル投資は歩けなくなってもできる」と言っていました。
──怪しい金融商品に投資して失敗するくらいなら、エンジェル投資のほうが魅力的です。
その人自身のブランディングにもなりますからね。しかも、少額投資であれば5000万円ぐらいでいいわけですから。本田さんがいいロールモデルになると思います。

2020年までに20社

──もっと大企業とスタートアップのM&Aが増えれば、人材の流動性という意味でもプラスに働きます。
そうです。大企業に買われたベンチャーの経営陣が、大企業の役員になるようにしていかないといけません。
そもそも、大企業イノベーターには2つの話があります。ひとつは、中から育つ「大企業イノベーター」で、もうひとつは、外から引っ張ってくる「大企業イノベーター」です。
──後者は、ヤフージャパンのようなイメージですね。幹部には、ヤフーに買収されたスタートアップの創業者が複数います。
そうです。外から「事業のプロ」を引っ張ってきて、中のネットワークのある人とタッグを組むのがいちばんいいですね。
今はそうした例は少ないですが、これから激変してくるのではないかと思います。
──2020年ぐらいまでに、何社ぐらいのスタートアップが世界的に知名度のある企業になれるでしょうか。
20社ぐらいはそうなってほしいですね。ただ、現時点では世界的に知名度があるところはほとんどありません。
いちばんの問題は、世界を本気で目指している企業がほとんどないことです。
「目線」と「人」という点で、本気で世界シフトを敷いている企業がまだありません。
トーマツベンチャーサポートでは、外国人を多く採用して、部署によっては英語を公用語化しています。
日本の起業家に話しているのは、まずは、世界のメディアに取り上げられることと、世界の人を雇うことから始めるべきだということです。
──まだ国内ですら勝てていないスタートアップが多いですが、それでも世界に出ていくべきですか?
産業によりますが、世界ベースで攻めることは考えたほうがいいと思います。
たとえば、メーカーであれば、日本企業は買ってくれなかったけれども、ドバイでは買ってくれたというようなケースもあります。
──世界と日本を分けること自体が陳腐ということですね。海外で売れたことが、日本の事業のプラスになることもあるでしょうし、そこはシームレスになるわけですね。
そうですね。海外で売れたという実績がブーメラン効果になって、日本での売り上げにプラスに働くこともあるはずです。
*続きは明日掲載します
(撮影:大隅智洋、龍フェルケル)