【新】亀っちと教育のプロが激論。「生き抜く力の育て方」

2017/1/23
連載対談「亀っちの部屋」では、DMM.com会長の亀山敬司氏がホスト役となり、毎回、経営者や文化人を招待。脱力系ながらも本質を突く議論から、新しいビジネスやキャリアのかたちを考えていく。
第9回のゲストは学習塾「花まる学習会」代表の高濱正伸氏。今年1月、若手人材育成を目指す私塾「DMMアカデミー」の設立を発表したDMM.comだが、じつは昨年11月下旬に行われたこの対談で、アカデミー設立の狙いが存分に語られていた。二人が語る「大人と子どもの育て方」とはどのようなものか。

「メシを食える大人」を育てたい

亀山 今回は、学習塾「花まる学習会」代表の高濱正伸さんに来てもらいました~。
あとで詳しく話すけど、今、教育に興味をもっていてね。まず、花まる学習会はどんなことをしているの?
高濱 花まる学習会は子どもを将来「メシを食える大人」「魅力的な人」に育てることを目指し、幼稚園児から中学3年生までを対象にした学習塾です。
高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表
1959年熊本県人吉市生まれ。県立熊本高校、東京大学農学部卒。同大学院農学系研究科修士課程修了。 1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、学習塾「花まる学習会」を設立。 『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』、『小3までに育てたい算数脳』など、著書多数
亀山 「メシを食える大人」って面白い表現だね。なぜそれを思いついたの?
高濱 若い頃、予備校で受験生を指導していたのですが、そのとき、頭はよくて与えられたことはできるけれど「次は何をやればいいですか」と自分で考えない子どもが多いことに気づきました。これでは社会に出て自分の力で生きていけない。「日本の教育制度はメシの食えない大人を量産している」と不安を感じました。
そこで「自分で考える力」を養うオリジナルメソッドや教材を開発し、1993年に埼玉で花まる学習会を始めました。
亀山 なるほど。具体的にどんな指導をしているの。
高濱 全学年を教えた経験から、「考える力」が育つかどうかは小学校低学年までに決まるとわかりました。だから小学3年生までは遊びやパズルを利用したゲーム性のある授業スタイルで「考える力」を養い、4年生以降はその「考える力」を応用して具体的に学習を進めます。
普通の塾のように五教科も教えますが、それと同じくらい「野外活動」も重視し、「数理的思考力」「国語力」「野外活動」の3つを指導の柱にしています。

外で走り回った子が伸びる

亀山 野外活動が柱の1つにあるのは珍しいね。
高濱 実は、学習塾の先生にどんな生徒が伸びるのかを聞くと、「小学4年生まで外で走り回った子」と皆さん口をそろえて言うのです。
亀山 勉強するより外で遊ぶ子のほうがいいってこと?
高濱 そうです。なぜかというと、やる気になって何度も繰り返したことが伸びるのが脳の仕組みだからです。
例えば幼児期に養うべきことの1つに「空間認識力」がありますが、かくれんぼは見えないものを想像し、サッカーはボールが向かうコースを瞬間的にとらえる力を養う。これは「考える力」に直結します。
勉強もどこで差がつくかというと、方程式を覚えたかどうかではなく、図形に描かれていない1本の補助線が思い浮かぶかどうか。これは社会に出てからも同じで、他人に見えないものが見えれば抜きん出ることができるのです。
亀山 それで外遊びが大事なんだ。
高濱 さらに、花まる学習会がもう1つ大切にしているのが「親を変える」ことです。これは自信をもって取り組んでいます。
小さい子どもの教育には親の理解が不可欠で、親がキーッとなって子どもを怒ってしまうと伸びるものも伸びない。そこで入会したら親に私たちの講演会を聞いてもらい、まず「あなたたちの味方ですよ」と示します。
そして親が陥りがちな落とし穴のことを話します。親は子どもを心配し、危ない目に遭わせたくないので子どもの動きを制限してしまう。ここで私たちが「社会に出ると、安全な範囲から踏み出した人こそ成功する。小さい頃の遊びからそれを学ぶんです」と語ることで、子どもに対して大らかに向き合ってくれるようになります。

リスクを取りながらの運営

亀山 たしかに。社会に出たらリスクを取るやつが成功する。
前に世田谷区に住んでたことがあるけど、うちの子どもをよく、駒沢にある「はらっぱ世田谷プレーパーク」に行かせてたよ。世田谷プレーパークには子どもが自由に遊べる公園や空き地があり、自分たちで遊び道具を作ったり、たき火もする。多少のケガも想定済みという考え方で地域のNPOがやってるんだよね。
俺も子どもと一緒になって、小屋を作るためのセメントをこねてたな(笑)。
高濱 亀山さん、いいお父さんですね。何もないところから何かを作り出すのは生きる力の本質です。ノーベル賞の理系受賞者の大半は田園地帯で育ったといわれます。
亀山 世田谷は上品なイメージがあったけど、泥んこになっている子どもがいっぱいいて面白いと思った。つまり花まる学習会ではああいうことをやっているんだね。
高濱 はい、まさにプレーパークと同じ考え方です。夏休みのサマースクールには何千人もの子どもたちが参加しますが、友達同士の申し込みを禁止しているので、子どもは誰も知らないところに放り込まれます。
亀山 それは子どもたちにとったら命がけだね。
高濱 最初はそうですね。でもすぐに仲良くなります。グループにいろんな学年を混ぜるのですが、低学年は上の子に甘えるし、高学年は下の子をかわいがる。一人っ子でもそうなんですよ。
そして2日目にはケンカがおこり、最終日には涙で別れを惜しむ。この具体的な経験が、子どもたちの力になります。
亀山 プレーパークと同じってことはけっこう野放しでしょ。今まで大きな事故が起こったことはないの?
高濱 今まではありません。仰るとおり、3メートルの高さから滝つぼに飛び込んだり森の中を走り回ったりしますから、誰か1人が大けがをしたら終わりです。でも力をつけるには経験しかないので、こちらも気合を入れ、リスクを取りながら運営しています。

DMMに入った時点でリスク

亀山 それに賛同してみんな来てくれるんだ。でも、ちゃんとビジネスになってるの?
高濱 もちろん、なっています。
東日本大震災以降、みんな「誰かのために」という思いが強くなり社会課題を解決するビジネスが増えました。それ自体はいいことですが、資金面を寄付に頼っているものも多い。でも私自身は、そこを自分でマネタイズして達成することこそ人生の醍醐味ではないかと思います。
亀山 じゃあ授業料はいくらなの?
高濱 週1回の教室で1カ月約8000円です。室内での学びと野外体験を組み合わせています。
亀山 教室は全国展開してるんだっけ。会社の規模はどれぐらい?
高濱 1993年に始めたときは埼玉の幼稚園を使った3教室だけで、会員は25人でしたが、少しずつ会員や教室が増えていき、今は関東を中心に300教室、約2万人の会員を抱えるまでになりました。社員数は正社員が約200人、パート社員はたくさんいます。
亀山 それだけの規模になると、運営も大変なんじゃない? 組織は大きくなると、違う方向に行きそうになったり薄味になったりして、どうしてもズレが出てくる。そういう苦労はないの?
高濱 今がそうかもしれません。テレビに出たりして露出が増えると、思い描いていたよりハイレベルのものを求められ、そこに追いつくほど組織が育っていないことがあります。
亀山 うちも社員が増えると、大手に入ったら食いっぱぐれないと考えるサラリーマンっぽいやつも出てくるのよ。DMMに入った時点でリスクなんだから、覚悟できてんだろって言いたくなる(笑)。
高濱 「わかってんのか、あのDMMだぞ」みたいな(笑)。
亀山 安定求めてんじゃねえよ、何しにうちに来たんだってね。
高濱 DMMもそうなら、少しホッとしました。やはり組織は人ですからね。
亀山 今日、高濱さんと話せるのを楽しみにしていたんだ。実は俺、「DMMアカデミー」という学校を始めようかと思ってるんだよね。
高濱 ええっ、学校をですか!
*続きは明日掲載します
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)