「人々の働き方を変える」という壮大な野心とともに誕生したタスク・ラビットだが、最近は平凡な目標を口にするようになった。黒字転換だ。
「働き方革命」という壮大な野心
タスク・ラビットは2008年、壮大なアイデアとともに誕生した。同社のウェブサイトやアプリケーションでは、他の人が購入したイケアの家具を組み立てたり、他の人のバスルームを掃除したりすることで、多くの人が金を稼いでいる。
他人の雑用など決して面白い仕事ではないが、IBMの技術者をやめ、タスク・ラビットを立ち上げたリア・バスクは壮大な野心を持っていた。
「われわれの使命は、人々の働き方に革命をもたらすことだ」。バスクは2015年、Bloomberg TVにこう語っている。
タスク・ラビットは、iPhoneが発売された直後に生まれた。それは、自分の車やアパート、電気ドリルなどを有料で貸し出すことができるオンラインプラットフォームが登場した時代でもあった。
こうしたプラットフォームの作り手は、労働の柔軟性が増し、サービスを利用する側と提供する側、両方の利益になると主張した。
タスク・ラビットは間もなく、ウーバーやエアビーアンドビー、リフトとともに、いわゆるシェアリング・エコノミーを象徴する存在となった。
シェアリング・エコノミーは後にオンデマンド・エコノミーやギグ・エコノミー、あるいはシンプルにウーバー・エコノミーなどと呼ばれるようになった。
あえて「控えめな成長」を選択か
シェアリング・エコノミーにおけるほかの各社は、世界最大級のスタートアップに成長し、現在もその地位を維持している。しかし、タスク・ラビットの実情ははるかに控えめだ。
ウーバーのドライバーたちは2015年3月までに、ニューヨークだけで1日7万人の乗客を抱えるようになったが、タスク・ラビットが資金調達のために作成した資料を分析するかぎり、同社の「タスカー」たちが2015年3月に完了させた仕事は1日550件ほどだったようだ。
タスク・ラビットは投資家たちに対して、黒字に転換するのは時間の問題だが、それには資金が必要だと訴えていた。
しかし、2015年夏の資金調達ラウンドでは自社の評価額を大幅に引き下げ、一部の資金をクラウドファンディングサイトで調達するという異例の行動に出た。
タスク・ラビットと同じように、便利屋とその利用者を結びつけるサービスを提供するライバルたちは、決して有名ではないとはいえ、成功していた。サムタック(Thumbtack)は2015年、合わせて10億ドルの契約を成立させた。これはタスク・ラビットの約30倍に相当する数字だ。
タスク・ラビットの幹部に取材することはできなかったが、タスク・ラビットに出資するシャスタ・ベンチャーズのマネージングディレクター、トッド・フランシスは、後れを取っているように見えるかもしれないが、実際は事業を改善するための決断だと説明している。
つまり、あえて控えめな成長を選択しているというのだ。「われわれは積極的にペースを落としている」
ビジネスモデルに「もともと限界」
フランシスによれば、配車サービスや配送サービスを専門とする各社は助成金を使って成長しているが、タスク・ラビットは助成金なしでも、この1年で2倍に成長しているという。
タスク・ラビットの幹部は18カ月前から、2016年中には黒字に転換すると繰り返していた。この前言は撤回されたが、黒字転換は時間の問題だという姿勢は崩していない。
こうした後退にもかかわらず、政策立案者や学者、ジャーナリストは、タスク・ラビットを業界の主要企業とみなしている。
2016年春、米連邦議会のある委員会がオンデマンドで仕事をする労働者の税金に関する公聴会を開いたときも、タスク・ラビットのマーケティング担当バイスプレジデントが証言を行った。米保健福祉省も、オバマケアの広告塔としてタスク・ラビットを指名している。
ミネソタ大学の研究プロジェクト「シェアリング・エコノミー・イニシアチブ」を率いるサイフ・ベンジャーファーも、ムーブメントの立役者としてタスク・ラビットを挙げている。
「タスク・ラビットは間違いなく、柔軟な労働力を中心とするこのビジネスモデルの先駆者だ」
ベンジャーファーはタスク・ラビットの問題点として、サービスの内容や料金設定についてユーザーに自由を与え過ぎていることだと指摘する。大きな成功を収めている各社は、これらを可能な限りコントロールし、サービスを絞り込もうとしている。
「タスク・ラビットのモデルにはもともと限界がある」
誰かに謝礼を払ってでも頼みたいこと
リア・バスクは、夫のケビン・バスクとともにタスク・ラビットを立ち上げた。
ある夜、バスク夫妻はディナーに出掛けた先で、ドッグフードを買わなければならないことに気づいた。誰かに謝礼を支払ってでも、お使いを頼みたい気分だった。
そしてバスクはIBMの仕事をやめ、そうした願いをかなえるための会社を設立した。
最初は自宅で事業を起こし、それからマサチューセッツ州ケンブリッジにあるジップカー(Zipcar)のオフィス、その後にサンフランシスコのオフィスへと規模を拡大していき、メディアを惹きつける企業となった。
バスクは説得力のある言葉で、タスク・ラビットは単なるビジネスではなく、昔ながらの近所付き合いをインターネットの力で拡大する手段だと訴えた。
当初は、依頼者が投稿した仕事にタスカーが入札する形をとっていた。そこに行けばあらゆるサービスを受けることができる柔軟なオンライン市場をつくりたいと、バスクは考えていた。
配車サービスの大きなチャンスを逃す
タスク・ラビットは、何度か大きなチャンスを逃してきた。
初期に多かった依頼は、空港に送迎してほしいというものだった。しかし、配車サービスを実現するには、乗客と運転手をリアルタイムでマッチングしなければならない。保険や規制に関する複雑な問題もある。結局、このビジネスを成長させることはできなかった。
そして、バスクと親しい間柄にあったリフトの創業者たちが、タスク・ラビットの運転手を勧誘し始めた。タスク・ラビットとは比べものにならない速さで、リフトは事業を軌道に乗せた。
そして、タスク・ラビットのビジネスは停滞し始めた。2013年には大規模な人員削減を実施。2014年にはオークションを廃止し、サービスの内容を掃除、便利屋、引っ越し、配送などに絞った。
今でも、奇妙な依頼は行われている。シカゴ・トリビューン紙は「シカゴ・カブス」のファンがワールドシリーズ中に行った面白い依頼として、同チームが勝ったらシカゴの街を回り、あらゆる新聞を買うというというタスクを紹介している。
しかし、基本的にはタスク・ラビットのウェブサイトは、主要なサービス以外を軽視するデザインとなっている。
大きな損失、下がる評価額、萎む野心
タスク・ラビットは変化をうまく生かせなかった。
2014年の売り上げは210万ドルで、860万ドルの損失を出した。2015年前半に行った投資家向けのプレゼンでは、2015年は650万ドル、2016年は2500万ドルという売り上げ予想が提示されたものの、容易に信じられる数字ではなかった。
タスク・ラビットは既存の投資家から資金を調達しながら、同時に株式のクラウドファンディングサイト「DreamFunded」で株式を売却した。DreamFundedが公開した文書によれば、同社は株式売却時の評価額を4000万ドルと要求したようだ。
タスク・ラビットは過去に評価額を公表したことがないが、調査会社CBインサイツが財務関連書類を分析した結果、2012年の資金調達ラウンドと比較すると、3分の1以下の株価に設定されていたことがわかった。
タスク・ラビットによれば、潜在的な問題は2014年までに解決されたという。ただし、多くの従業員が自社の野心は小さくなっているようだと感じている。
元グーグル幹部の新CEOの打ち手
バスケは2016年春、出産をきっかけにCEOを退いた。代わりに、それまでCOOを務めていたステイシー・ブラウン=フィルポットが後任のCEOとなった。
グーグルの幹部だった経歴を持つブラウン=フィルポットは、持続的な成長とユニット・エコノミクス(1取引当たりの利益)の維持を声高に叫んでいる。
ブラウン=フィルポットCEOは2016年9月、Recodeのインタビューで、シェアリング・エコノミーは「すでに古い言葉だ」と発言している。「われわれは、いわゆる隣人同士の助け合いから、オンデマンドでホームサービスを受けられるビジネスに移行した」
タスク・ラビットはいくつかの計画を立てている。現在はサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、英国ロンドンの4都市に集約されているが、もっと小さな市場でも存在感を示したいと考えている。
巨大企業アマゾンとの提携も決まった。アマゾン版タスク・ラビットとも言える「アマゾン・ホーム・サービス」のサービス提供者に、タスク・ラビットのタスカーを加えるという契約だ。
タスク・ラビットは契約の詳細を明かしていないが、ブラウン=フィルポットCEOは11月のある会議で、もしアマゾンがタスク・ラビットの買収を希望したら検討すると述べている。
初期にバスクのアドバイザーを務めていたトム・エリクソンは、タスク・ラビットの壮大なアイデアはまだ生きていると確信している。他社が桁外れの成功を収めているからといって、バスクが成し遂げてきたことの価値は下がらないと、エリクソンは断言する。
「事業を立ち上げたら、いろいろなことを試すものだ。どれがうまくいくかなど、最初からわかるはずがない。大衆は気まぐれなのだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Joshua Brustein記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:Horned_Rat/iStock)
©2016 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.