アプリベースでコンサート検索とチケット販売を行う会社、ソングキック(Songkick)。30歳のマット・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)が目指すのは、あなたに「再びコンサートへ行ってみよう」と思わせることだ。テクノロジーを利用してコンサートのあり方を変えようとするジョーンズの挑戦を追う。

コンサート業界の「破壊」を目指すスタートアップの挑戦(前編)
イギリスでの成功、アメリカでの挑戦
クラウドサージは、2015年にソングキックと合併した。ソングキックは、マット・ジョーンズCEOが2007年にイアン・ホガースと設立した会社だ(ホガースは現在も、合併後の会社で取締役会の共同議長を務めている)。
ソングキックはイギリス国内のコンサート検索サービスで、ユーザーがお気に入りのバンドのショーを探せるようにすると同時に、そのデータをスポティファイ、MTV、サウンドクラウドに提供していた。
これに併せて、ジョーンズCEOはアクセスとその他のいくつかのグループから、さらに1600万ドルを調達した。
イギリスのライブミュージックビジネスを破壊するのは、ジョーンズCEOにとってそれほど難しいことではなかった。「ロンドンでは、ひとつのショーのチケットを10社のベンダーが売っていることもある」
だがアメリカでは、規模の大きい会場のチケットの取り扱いについては、チケットの販売者が入札で独占権を獲得している。この市場は、長年にわたってチケットマスターが支配してきた。
ポールスター誌の推測によれば、チケットマスターは最大規模のコンサートホールの80%と契約を結んでいるという。チケットマスターは、アーティストが自身の公式ファンクラブの会員に販売できるチケットを全体の8%までに制限していた。
そして同社は2010年、ライブネーションと合併してLNE(ライブ・ネーション・エンターテインメント)となり、世界最大のライブミュージックプロモーターとして市場の支配力を一段と強固なものにした。
支配者ライブネーションに対する訴訟
当然のことながら、ライブネーションは破壊されたいとは思っていなかった。同社とすれば、販売権の契約には多額の代価を支払っており、得体の知れない新興企業にビジネスの分け前を与える理由などなかったのだ。
「突然、誰かがやってきて『こんにちは。チケットを無償で譲ってください。僕らのビジネスモデルは、あなたが買ったチケットを無料で手に入れて、それを販売すれば儲かるというものなんです』と言ってきたら、あなたはどうするだろうか。わたしがやられたのは、まさにそれだ」と、ライブネーションの最高執行責任者(COO)ジョー・バーチトールドは言う。「だが、それではこっちはやっていけない」
ライブネーションは、アーティストが売る分として受け取ったチケットをソングキックが一般に販売するのは「8%ルール」に違反する行為だと主張した。
また、ジョーンズCEOがライブネーションから入手するチケットを8%よりも増やそうとして、クライアントであるアーティストのマネージャーをけしかけ、ショーを中止すると脅させた、とも訴えた。
いっぽうソングキックは、ライブネーションが相手の足元を見て、80%にも及ぶというチケットマスターの取り分(チケットマスターはこれを否定している)の支払いを要求し、ジョーンズCEOの会社にチケットを引き渡すのを拒否することもあったとしている。
最終的にソングキックは、ライブネーションが行っているのは不当な独占販売であるとして、2015年12月に連邦裁判所に訴訟を起こした。
これに対してライブネーションは、ジョーンズCEOが「タダ乗りと、あからさまな盗みの組み合わせ」の上にビジネスを築こうと試みていると非難し、反訴した。
2016年5月、合衆国地方裁判所のデイル・フィッシャー判事は、ソングキックによる仮差し止め請求を却下した。ソングキックがこの訴えに関して「成功の見込みを実質的に示せなかった」というのが却下の理由だった。
ライブ好き専用の「コンシェルジュ」
音楽業界で広く読まれているニュースレター「レフセッツ・レター」の執筆者ボブ・レフセッツは、チケットマスターから力づくでチケットを奪い取ろうとしたソングキックの目論見は、最初から絶望的なものだったと述べている。
「ソングキックには同情できない。そのビジネスモデルは不完全で、ほとんど妄想でしかない」
ジョーンズCEOは、この訴訟についてのコメントを拒否した。
ソングキックは、アメリカでは存続の危機に直面しているかもしれないが、北米でコンサート業界の改革を目指しているスタートアップは他にもある。
ソングキックの幹部だったアダム・マクアイザックは、5カ月前からカナダのトロントを拠点にして、コンサートファンのためのコンシェルジュサービス、ロビン(Robin)を運営している。
ユーザーが「コンサートに行きたいアーティスト」のリストを作成すると、ロビンがそれをバンドやホールの所有者、チケット販売業者に伝え、チケットをプレミアなしの額面価格で手に入れられる方法を探してくれるのだ。
「わたしたちの理想は、自分でチケットを手配して買うという行為が、自分の靴を自分で修理するというのと同じくらい稀な経験になることだ」と、マクアイザックは語っている。
ロビンが最終的に目指すのは、配車サービスやコンサート前の食事の予約、そして終演後にナイトキャップを楽しめる場所までを顧客に提供することだ。幼い子どもがいるカップルには、ベビーシッターも探してくれるかもしれない。
「ベビーシッター探しを助けてもらえれば、本当に助かるというユーザーも実際にいる」と、マクアイザックは言う。
毎月定額25ドルでコンサートに通えるサービスも
また、ニューヨークを拠点とするスタートアップ、ジュークリー(Jukely)は、ネットフリックスに似たアプローチをコンサート業界に持ち込んだ。
ジュークリーが2015年に16都市で開始した、ライブミュージックのサブスクリプションサービスのユーザーは、体力に自信さえあれば、毎月25ドルの定額で毎晩でもコンサートを見に行くことができる。
どうしてそんな低価格でサービスを提供できるのだろうか。
ジュークリーの創立者ボラ・チェリックによれば、ライブネーション/チケットマスターに支配されていない小規模な会場から、売れ残ったチケットを格安で引き取る契約を結んでいるからだ。
もちろん、ジュークリーがユーザーに提供するのは、まだあまり知られていないアーティストのショーが主になる。しかし、契約者のうちおよそ1300人はEDMのスター、スクリレックスがニューヨークで行ったハロウィーン・パフォーマンスを見ることができた。
「行動様式が大きく変化している」と、自社のビジネスモデルについてチェリックは言う。「こうした動きは、まだ始まったばかりだ」
いっぽう、メイン州ポートランドのスタートアップ、サウンドリンク(Sound Rink)は「ショーを見に行くこと」という概念を拡張しようとしている。
実際のチケット価格に20ドルから300ドルを追加すると、お気に入りのバンドのメンバーたちとコーヒーを飲んだり、一緒に夕食に出かけたり、ツアーバスに乗ってアコースティック楽器でのセッションを聴いたり、あるいは演奏中にバックステージに立たせてくれたりするのだ。
サウンドリンクのコディ・デロングCEOは、ビッグスターたちと実際に会って話をするのに大金を払う必要などないはずだと語っている。
「テイラー・スウィフトも、VIPパッケージを頻繁に実施している。料金は400ドルで、1回の公演でそれを100人分も売ることもある」
「これでいいはずがない、あまりにも遅れている」
ライブネーションでさえ、コンサート体験を改良する努力をしている。
ソングキックと同様に、スポティファイを通じてチケットを買えるサービスも始めた。また、ショーの会場でクラフトビールを売ったり、制服を着た従業員を配置して、チケットを持っている人を最も列の短い売店に案内させたりもしている。
ジョーンズCEOはあくまで楽観的に、ソングキックにはまだアメリカでやって行ける可能性があると語っている。訴訟の結果がどうであれ、ジョーンズCEOにはやるべきことがたくさんある。
先日ソングキックは、2017年夏にロンドンのウエンブリー・スタジアムで行われる、アデルの大規模な4回公演のチケットの50%以上を売った。ダフ屋の手に渡ったのは2%にも満たないという。
「ソングキックはすばらしい仕事をしている」と、アデルやマムフォード・アンド・サンズなどを抱える、イギリスを本拠とするエージェントのルーシー・ディキンズは語った。
ジョーンズCEOは自らについて、いわば福音伝道者のようなものであり、ショーを心から楽しむのを妨げる要素が今はどれほど多いかという実態を明らかにし、それをどう変えることができるかという問題に光明を投じているのだと述べる。
「このビジネスを始めた理由の一部はそこにある。当時のわたしには『これでいいはずがない、あまりにも遅れている』と思えたのだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Devin Leonard記者、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:Yuri_Arcurs/iStock)
©2016 Bloomberg Businessweek
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