読み聞かせや子守唄、外国語レッスン

ラスベガスで国際家電見本市「CES」が開催される2日前の1月3日、玩具メーカーのマテルは世界初の「スマート・ベビーモニター」をお披露目した。
「彼女」の名前はアリストテレス。
マテルによると、アリストテレスはおむつの購入の手伝いや寝る前の本の読み聞かせに始まり、赤ん坊をあやして寝かしつけたり、3歳ぐらいの子には外国語を教えたりもするという。
「私たちは、子どもと一緒に進化し成長できる技術的プラットフォームの開発に焦点を当てていた」と、マテルの最高製品責任者ロブ・フジオカは言う。
アリストテレスは、アマゾンの人工知能(AI)音声アシスタント「エコー」の幼児版と言えるだろう。見た目は円錐形のベッドサイドランプのようだ。HDカメラやブルートゥース、Wi-Fiスピーカーが搭載されており、たとえば「アリストテレス、『きらきら星』が聞きたい」と言えば、その曲が再生される。
マテルは今年の夏に300ドル前後で発売する予定だ。

眠れない子の「質問」に答え続ける

アリストテレスには、背景ストーリーがプログラムされている。マテルの開発チームによると、彼女は古代ギリシャの哲学者アリストテレスの子孫。アリストテレスのスピーカーからは落ち着いた女性の声で、こんな言葉が聞こえてくる。
「私の人生の目的は、あなたを癒し楽しませ、あなたに教え、あなたから学ぶことです」
アリストテレスには、クアルコムのプロセッサーとマイクロソフトの音声認識機能が使われている。ゆりかごのそばで赤ちゃんのニーズに反応し、子守唄を歌ったり、起きた子をまた寝かしつけるためにライトの光を調節したりする。
さらに、昼寝の時間やおむつ交換に関するデータをスマートファンに送ったり、クラウドにアップロードすることも可能だ。
アリストテレスには子どもの発育を促すゲーム機能もある。たとえば、スピーカーから発せられた動物の泣き声を聞いた子どもが、その動物の名前を当てて、正解ならアリストテレスが緑色に光り、間違っていれば赤色に光る。
マイクロソフトの検索エンジン「Bing」を駆使して、ベッドに入っても寝つけない子どもの「終わりなき質問」に延々と答え続けることも可能だ。

自社ブランドとの相乗効果も視野に

マテルによれば、アリストテレスには暗号化が組み込まれているため、データは安全に保たれ、親が特定の機能に制限をかけて子どもが使用できないように設定することもできる。子どもが大量の粉ミルクを注文したり、恐竜について一晩中質問し続けることを防ぐためだ。
マテルは、ショッピングや教育、エンタメ関係のアプリとアリストテレスとの提携に前向きなほか、自社ブランドとの相乗効果も狙っている。
たとえば、マテルのミニカーブランド「ホットウィール」のトラックで、タイヤをきしませて走る音や聴衆の叫び声などの効果音をアリストテレスのスピーカーから出すといったことだ。「クールでクレイジーな製品がたくさん出てくるだろう」と、フジオカは話す。
現在、AIアシスタント市場でリードしているのはアマゾンのエコーだ。音楽を再生したり、天気予報を教えてくれたり、配車サービスのウーバーを呼んだり、いろいろなことをしてくれる。
市場調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズによると、エコーは2014年の発売以来、全米で510万台を販売している。
グーグルホームもエコーと市場シェアを争っているほか、アップルもSiriを活用した同様のデバイスの開発を目指している。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)もこの1年、AIアシスタントの開発に努めてきた。映画『アイアンマン』に登場するサイバー執事の名前から「ジャービス」と名づけられたデバイスは、ザッカーバーグの自宅で使われており、彼の1歳の娘とも遊んでいるという。

従順なAIのせいで子どもが生意気に?

調査会社eマーケッターのアナリスト、ビクトリア・ペトロックは、アリストテレスはAI技術をニッチ市場向けに応用した初の製品だと指摘する。
「マテルはニッチ市場を見つけた」と、彼女は言う。「多くの使い方ができるようだが、親にとっては厄介な問題も生じるだろう」
幼い頃からAIスピーカーと多くの時間を過ごすことが、子どもの発育にどんな影響を与えるのか──こう懸念する母親や父親たちもいるはずだ。
アリストテレスの開発チームはエコーと子どもとの交流について書かれたものをすべて読んでいると、フジオカは語る。彼は、従順なAIとの交流によって子供が生意気になる可能性を理解しており、マテルは礼儀を教えるアプリの開発にも励んでいると言う。
とはいえ、多くが未知の世界であることは、フジオカも認めるところだ。「正直言ってわからない」と彼は言う。
「もし私たちが成功すれば、子どもたちはアリストテレスと何らかの感情的なつながりを築くだろう。それが子供にとってプラスになる絆であればいいのだが」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Felix Gillette記者、翻訳:中村エマ、写真:Tom Merton/iStock)
©2017 Bloomberg Businessweek
This article was produced in conjuction with IBM.