病院で働く「処方箋ロボット」、患者別に多様な薬をパッケージ

2017/1/12

「10万件で平均5回」起きる間違いを防ぐ

目に見えるところでロボットが増えている一方で、われわれ一般人の目に見えないところでのロボットの活躍も目覚ましい。意外なところで役立っているのが、処方箋にしたがって薬をパッケージするロボットである。
この分野では数種類のロボットがすでにあるが、もっともよく知られているのはスイスログのピルピックだろう。
スイスログはデンバーを拠点とする、もともとは工場や倉庫での自動走行ロボット開発会社。現在は、ドイツのクカの子会社となっている。
ピルピック・ロボットはモジュラー式で、多様な処方箋パッケージ作業に対応するよう構成することが可能だ。利用されるのは、病院の薬局。毎日何度も違った薬品を何百人という患者に提供するためだ。
ピルピック・ロボットには、錠剤や液体薬品を入れておく容器、貯蔵庫、パッケージング処理、バーコードラベル貼付などのプロセスが含まれている。
その中には、1回の処方ずつパッケージ化された袋を貯蔵庫に入れたり、その貯蔵庫からパッケージを各患者への投与用に考案されたプラスチックリングに加えたりするロボットも含まれている。構成によっては、処方のパッケージを搬送する病院内のチューブシステムとの統合も可能のようだ。
病院での薬品の処方は単純な作業に見えて、重要度の高い仕事である。しかも間違った薬品を混ぜてしまったり、薬品の量を間違えたりすると生命にも関わる問題となる。ある病院での調査によると、10万件の処方で平均5回の間違いが起こるという。
ピルピック・ロボットをはじめとする処方箋ロボットは、医療の現場で重要度の高い単純作業を、間違いなく、効率的に行うために考えられたものだ。

錠剤からアンプル、瓶までさまざまな形状に対応

ピルピックの特徴は、錠剤だけでなく、アンプル、瓶、発泡薬などさまざまなかたちのものを扱えることである。ことに総合病院ならば、入院患者はいろいろな病気を抱え、処方される医薬品は多様だ。
途方にくれるような複雑な作業をできるだけ自動化することが、こうしたロボットの目的だ。
ピルピックがまとめる処方薬は、患者ごとにプラスチック製のリングにまとめられる。12〜24時間分の処方薬をまとめることができるが、そこにはバーコードが付いていて、実際の投与の際にはこれをスキャンして再度処方を確認することができるよう配慮されている。
病院での薬品については、別のところでもロボットが役立っている。院内を自動搬送するロボットが、医薬品を薬局からナースセンターに運ぶというものだ。
病院では今でもチューブを利用した搬送システムが利用されており、投与薬がそれに載せられるということもある。だが、最近シリコンバレー地域の病院でしばしば見るのは、何でも運べる搬送ロボットである。薬品もその中に含まれている。
薬品の場合は、搬送の便利さだけではなく、セキュリティーも重要なポイントになる。つまり、薬品が途中で盗まれたり間違って取り出されたりしないようなシステムが重要なのだ。
私が見学したロボットでは、薬品用のカートが引き出し状になっており、受け取り担当者のパスワードなしには開かないというしくみだった。

投薬をサポートする家庭用ロボットも

さて、病院を出ると、一般の人々も何かと処方薬を服用している。実はこの市場用にもロボットが開発されている。
それは、処方箋を個々人用に1回ずつの服用にまとめて郵送してくれるというロボットとサービスの組み合わせである。ドラッグストアがターゲット市場だ。
さらに、一般家庭用にも投薬ロボットがいくつか出ている。小さなロボットのようなIoT製品で、時間になると家族が服用する薬品を1回分ずつ取り出してくれるというものだ。
何種類もの薬品を1日何回、食前あるいは食後などと間違えずに飲むのは、こと高齢者には難しい。その悩みを投薬ロボットが自動的に解決してくれるというわけだ。まだ広範には広まっていないが、いったんその便利さが確認されると人気になるロボットではないかと見ている。
気のせいではないと思うが、アメリカでは一般人も服用する薬品の量が多い。医薬品に対する抵抗がなく、信頼度も高いのか。健康な人でもサプリメントが大好きである。
そうした中で、処方薬、投薬市場向けロボットは、けっこう大きな市場に見えるのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)