横浜の価値創造。「DeNA」ベイスターズが果たすべき役割

2017/1/11
球界参入から5年間にわたって経営トップを務めた池田純前球団社長が退任し、新たな経営体制で2017年に臨む横浜DeNAベイスターズ。
官僚から転身した新社長の岡村信悟氏は、DeNA本社スポーツ事業部長と株式会社横浜スタジアム社長を兼務する。
今後の球団経営が目指す方向性を尋ねると、岡村氏は「継承と革新」という社是を引き合いに出し、こう説明した。
「池田さんをリーダーとして会社全体が成長し、数字的にも大きな成果が出た。事業面での革新や地域への継続的なメッセージの発信によって、ファンがワクワクした気持ちでチームを応援できる環境がつくられ、直接的な因果関係はないかもしれないけれども、そうしたことに刺激を受けたかのようにチームも強くなった。私は当然、この順回転が生まれた5年間の基盤にもとづいて『継承と革新』をしていかなければならないと思っています」
ベイスターズのビジョンを語る岡村信悟社長(撮影:TOBI)

生活を豊かにするものを提供

チケット、放映権、グッズ、飲食、スポンサー。これら事業の柱には「(前経営体制下で)すでに種は植えてある」と岡村氏は語る。
その種を芽吹かせ大きく育てていくのが、まず直近の務めとなる。
「たとえば飲食では、(オリジナルビールの)ベイスターズ・ラガーやベイスターズ・エールのような、ハマスタでなければ味わえない名物をどんどんつくっていきたい。グッズも、日常生活に野球の要素を浸透させることをコンセプトとした『+B(プラス・ビー)』というショップがすでにありますが、さらに多様なグッズ、もっと生活を豊かにするものを提供するという方向性はかなり強化したいと考えています」
ハマスタではベイスターズのオリジナルビールが飲める(写真:©YDB)
球団がかねてから推し進めている「コミュニティボールパーク」化構想のもと、ただ野球を見にくる場所としてスタジアムを捉えるのではなく、いかに付加価値のある楽しみをそこにつくっていくことができるか。
飲食やグッズの充実はその一環に位置づけられるが、見据えるボールパーク化構想の先に必ず立ちはだかるのがハマスタの物理的制約という問題だ。

ハマスタを改修、増席へ

岡村氏は昨年10月の球団社長就任以来、横浜スタジアムの社長という立場も兼ねてハマスタの改修・増席について何度か言及してきた。
スタジアム自体の所有者は横浜市、土地は国有地という特殊事情もあって一筋縄ではいかないが、以前から水面下での交渉は続けられてきている。
東京オリンピックの野球・ソフトボールの実施会場に正式決定したことも後押しとなり、オリンピックが開催される2020年シーズンの開幕前の工事完了を目指して協議は加速しているという。
「稼働率93%(2016年)という状況は、お客様にご迷惑をおかけしているということでもある」と岡村氏が語る通り、球界屈指の人気球団へと生まれ変わったベイスターズにとって、ハマスタの増席は観客増、すなわち事業基盤の拡大に直結する。
だが岡村氏は「改修前でも工夫できることはある」と、2020年を待たずしてボールパーク改革に乗り出す構えだ。
「まだ詳しくは言えないのですが、もっと動きをつくろうと思っています。広島のマツダスタジアムも、仙台のKoboパーク宮城も、駅から球場へ歩いていくところからワクワクするようなシーンができている。そういうものを、いまの制約のなかで実現したい」

スポーツ×クリエイティブ

その象徴的な役割を担うことになりそうなのが、日本大通りに立つ旧関東財務局横浜財務事務所(通称「ZAIM」・横浜市指定有形文化財)だ。
実はZAIMについては、すでに2015年3月時点でベイスターズが活用事業者に選定されていたが、改修工事等が長引き、当初の2016年夏のオープン予定がずれ込んでいた。それがついに「オープンを待つばかり」(岡村氏)だという。
「スポーツとクリエイティブを掛け合わせ、企業やクリエイター、アーティストなどがトライアンドエラーを繰り返せるような場所として活用する予定です。これができることによって、(横浜港の側から延びる)日本大通り、ZAIM、そしてスタジアムという1本の“軸”ができる。これまでのスタジアムという“点”から飛び出し、一つの流れを生みだすような“磁力”をもった場所になりうると考えています」
熱気に包まれる横浜スタジアム(写真:©YDB)
短期的には前体制から継承する各事業の質の向上。そして中期的にはスタジアムやZAIMを核とした、より広範なボールパーク化の推進。
“公共の磁場”づくりに長年携わってきた岡村氏の手腕がより発揮されるのは、後者のフェーズにおいてだろう。
「私の能力と池田さんの能力はおのずと異なります。強い期待を抱かせるチームとそれを支えるしっかりとした事業基盤という、池田さんが積み重ねたもののDNAは社員に引き継がれているので、私としてはそこは社員を信用し、社員に期待したい」
「一方で、興行を前提としたいまのプロ野球ビジネスを究極までブラッシュアップしていく作業は、同じところでぐるぐると回り続けるような閉塞感につながっていく可能性がある。次のステージとしては、スポーツというものをより大きく捉えて、我々が取り組む領域を広げ、街全体ににじみだしていく、街や地域を一緒につくっていくことになると思っています」

横浜がつながる「運命」

奇しくも2020年には、ベイスターズが本拠地を置く関内エリアから横浜市役所が移転する計画が進んでいる。
また、ハマスタからわずか数百メートル、JR根岸線の線路を隔てた場所では横浜文化体育館の再整備計画が進んでおり、サブアリーナはオリンピックと同時期に供用開始となる予定だ(メインアリーナは2024年供用開始予定)。
こうした関内地区の動きについて、岡村氏は「運命づけられている」と表現する。
「私たちはそうした街づくりにいやおうなく参画することになるでしょうし、公共性というものにいっそうコミットする必要がある。もちろん独りよがりではいけないし、私たちだけでは何もできません。私としては、転職したとはいえ、役人だったころとまったく同じことをやっているんだなと、日々、確信を強めています」
「私のモットーは“オンリーコネクト”。とにかく、いろいろな人たちを結びつけて、公共の磁場をつくることばかりやってきましたから、そこは私の得意分野といえるのかもしれません」

リアルの世界における任務

親会社であるDeNAはいま、「WELQ」をはじめとするキュレーションサイトをめぐる問題で、社会から厳しい目を向けられている。
本社のスポーツ事業部長という役職も兼ねる岡村氏は、球団を含めたグループの今後のあり方に対してどのような認識をもっているのだろうか。
「今回の件については、DeNAの社員として真摯に受け止め、世の中の方々の思いや期待に沿えるようにいろいろなことをやり直していかなければならないと思っています。でも一方で、ベイスターズと横浜スタジアムがこの5年間にやってきたこと自体は誇りに思っていいと思いますし、社員にもそう言いました」
「DeNAは、もちろん良しあしはありますけれども、新しいことにチャレンジする、新たな価値を生みだそうとする会社です。私たちはネットの世界ではなく、ファンや地域の方々の息づかいが聞こえるところで仕事をやっている。DeNAのよさを生かしながら新たな価値観をみんなと一緒につくっていくことが、地域というリアリティのある世界に根差した仕事をやっている我々の任務だと考えています」
ひとまず2020年という一つの節目となる年に向けて、日本のスポーツ界で、あるいは横浜で、ベイスターズはどんな役割を果たすことになるのか。2017年は、その試金石の年となる。
(バナー写真:©YDB)