【池内恵】中東政治の軸はロシアとトルコ、米国の覇権は希薄化

2017/1/9
2017年の中東政治で軸となるのは、トルコとロシアだろう。これにイランと米国を加えると、現在の中東政治の基本構造が浮かび上がる。地域大国の台頭と競合が激しさを増し、域外大国間の勢力均衡が乱れ、再均衡の地点を模索するのが2017年の基調となるだろう。
2017年の中東政治の全体構図を概略すれば、一方で米国の単独覇権の希薄化があり、それは中東で特に先鋭的に現れている。そこに滑り込むロシアの勢力伸張がもたらす現地勢力や超大国間の均衡の乱れがある。
他方で中東諸国、特にアラブ諸国の多くの国で「アラブの春」以後の混乱により国家形成の不全が露呈して、政権の動揺と社会の分裂・亀裂が明らかになっている。
そこで比較的「まとも」に国家が形成されており、政権が国家機構を円滑に運営して領土・国境を守り、国民社会を一体のものとして統率し得ている国が希少価値を持ち、近隣諸国の紛争への関与においても指導性を発揮することになる。

米国の覇権の希薄化進む

2017年の中東では、「米国の覇権の希薄化がどれだけ進むか」「ロシアが新たな覇権国としての地位を、中東において占めるようになるのか」が注目される。
米国の中東における覇権は、1991年の湾岸戦争から2003年のイラク戦争の間に最高潮に達し、単独の超大国としての姿を中東で最も明瞭に現した。それがゆえに反発も大きく、イスラーム主義、特にジハードを掲げる武装勢力による様々なテロの対象となった上で、2001年の9・11事件が勃発した。
その後の15年間は、唯一の超大国である米国が、外交・安全保障政策の最大・最重要課題として「対テロ戦争」をグローバルに戦った時代だった。それは知らずのうち世界を変えており、われわれの生活を変えている。
例えばドローン(無人機)が高度に発達して、米国は世界中どこでもジハード主義者やその施設・拠点を狙い撃って破壊できるようになった。その技術が民生転用されると空中撮影や運送にドローンが用いられるようになる。
しかし、グローバルな対テロ戦争は米国の軍事力の過剰拡大・展開をもたらし、財政と民心の双方を疲弊させた。米国はアフガニスタンだけでなくイラクに攻め込み、一旦破壊した国家の再建に巨額の戦費と人員を注ぎ込み、うまくいかなかった。「帝国の過剰膨張」によって中東への「介入疲れ」が国民に広まっている。
オバマ政権はまさにブッシュ前大統領の過剰拡大を手仕舞いしてくれるという期待を背負って誕生した。次期トランプ政権もこの面では連続しており中東への非介入姿勢が目立つ。
米国は経済力や軍事力といった絶対的な力では依然として他を圧する超大国であることに変わりはない。しかし、その力を世界各地で実際に行使して秩序を安定化させる、公共財の提供者としての役割を担う意思が、国民の間で低下しており、選挙で民意を受けた政治指導者も、究極的にはこの国民の意思に従う。