見城徹、圧倒的努力で鮮やかに勝ち続ける男

2017/3/25

劣等感にまみれた少年時代

僕は劣等感にまみれた少年時代を送った。
当時の僕がどんなことに劣等感を感じていたかというと、まず顔が醜い。そして身体が小さいことだ。
殴られたり、屈辱的なアダ名ではやし立てられたりと、いろいろな悲しい目に遭った──。

死を覚悟して立ち向かう

いつもの連中から、その山の中腹の神社に呼び出された。これ以上、同じことが続くのはかなわないと思った。
自分が死んだっていい。相手を殺してもかまわない。
僕は神社に向かう途中、道に落ちていた鉄製のパイプのようなものを拾い、鞄に入れた──。

幼いころから猛烈な読書家

僕は幼いころから猛烈な読書家だった。好きな本にはふたつの傾向があった。
1つは動物と交流できる話。もう1つ、胸を躍らせた本のジャンルは、海外留学ものだ。
現実の世界では常に疎外感がある。
だから人間ではなく動物との交流を求め、自分がいる場所から遠く離れた世界の物語を求めていたのだろう──。

校長に「あなたは独裁者です」

校長先生とクラス全員が対話をする場が設けられた。
僕は「はい」と手を挙げ、立ち上がって、「校長先生の話はくどすぎます」と言ったあと、こう続けた。
「あなたは、いい意味でも悪い意味でも独裁者です」
福井半治校長は唖然として、僕をジロッと見た──。

慶応大学法学部に進学

僕は慶応の法学部をはじめ、早稲田の法学部などいくつかの大学に現役合格した。そして結論からいうと、慶応大学に進んだ。
私立の入学金や授業料は、僕の家ではとうてい払えない。
母はそれまで専業主婦だったが、建築現場のひとつで働き始めた。
あるとき母が、建築現場で錆びた釘を踏み抜いてしまったことがある。当時は破傷風が流行っていた──。

彼女と初めて結ばれる

高校の卒業式に告白し、付き合い始めた彼女を残して僕は上京した。
大学見学のついでに、いろいろなところへ連れて行った日の夜、彼女は僕の下宿に泊まった。
本当は女性を部屋に入れてはいけないことになっていたから、おどおどし通しだったが、その夜、初めて彼女と結ばれた──。

マスコミを志すが惨敗

大学生活も終わりに近づき、就職について真剣に考えるべきときが来ていた。
出版社を7社受けたが、新潮社や小学館など大手はすべて落ちてしまった。
だが、もし僕が現在、大手出版社の採用担当者だとしたら、いくら成績が悪かろうと、22歳の見城徹を落とすような真似はしない。
落とした出版社は見る目がなかったと思う──。

ベストセラーになる条件

僕が初めて企画した『公文式算数の秘密』は、いきなり38万部のベストセラーになった。
なぜ新米編集者がホームランを打てたのかと、質問されることがある。
企画の立て方にはコツがあるのか。あるなら教えてほしいとも言われる。
いま思えばだが、公文式にはベストセラーになる条件が揃っていた──。

人ができないことをやろう

僕が自分に課していたのは、とにかく、人ができないことをやろうということだった。
角川書店とは仕事しませんよ、という作家たちの原稿をとってくることだ。
五木寛之さんも、角川にまったく振り向いてくれない作家の一人だった。
僕は五木寛之さんを落とすと決めた。
よし、手紙を書こう。住所はわかる。問題はどんな手紙を書くかだ──。
石原慎太郎さんも圧倒的努力で関係をつくった作家の一人である。
僕がそのとき最終兵器として準備していたのが、『太陽の季節』と『処刑の部屋』という短編を一言一句、最後の一行にいたるまで暗唱できるようにしていったことだった──。

角川書店にアルバイトとして入る

「それは無理だ。入りたいやつは大勢いるんだ」
角川書店に入りたいという僕の頼みは、いったん断られてしまう。
でも僕の必死さに何か感じるところがあったのか、ふと春樹さんが、「アルバイトならいいよ」と言ってくれた。
しかしアルバイトといっても編集の仕事ではなかった。いわば春樹さんの個人的な使い走りである──。

一番書きたくないものを書かせろ

小説に限らず、本というのは、その人が一番書きたくないものを書かせたときに一番いいものができるし、売れるのである。
それには相手の胸のなかにグッと手を突っ込んで、本人が一番隠したいと思っているものを白日のもとにさらけ出させる必要がある。
「ケンケン、実はいま、ものすごく悩んでることがあるんだ」
「何?」
「離婚したくないけれども、離婚しなくちゃいけないかもしれない」
僕は“来た”と思った。並んで芝の上を歩きながら、
「ひろみ、それ、書かない?」
と言った──。

ユーミンの『ルージュの伝言』

田中康夫に、「お前、ユーミンに会わせろよ」と言うと、すぐ会わせてくれた。
彼女のもとには各社から本を作りたいという依頼が殺到していたが、ユーミンは僕をパートナーとして本を作ることを承諾してくれた。
タイトルは彼女の同名の曲から『ルージュの伝言』とした。話はとんとん拍子に進んでいった。
ところがユーミンが、発売寸前に「ごめんなさい。やっぱり出したくない」と言ってきた。
「私の音楽の背景を自分で説明してしまったら、音楽が死ぬ」──。

「月刊カドカワ」編集長になる

33歳のとき、僕は「月刊カドカワ」の編集長になった。
そもそも売れ行きが6000部という、あってもなくてもいいような雑誌だったから、かえって冒険ができる。やるからにはマイナーチェンジではなく、劇的に変えなければ駄目だ。
まず、それまでは40歳の女性がターゲットだったのを、20歳の女性に決めた。
こんな文字ばかりの雑誌が売れるとは信じられないと言われたが、部数は30倍の18万部まで伸びた。
出版界では活字雑誌の奇跡だと称賛された──。

尾崎豊との出会い

ある日、新宿のレコード店にいたら、『スクランブリング・ロックンロール』と『シェリー』という曲が聞こえてきた。
こいつの“切なさ”のためかたは半端じゃない。あわてて店に飛び込んで店員をつかまえて聞いた。
「いま流れているこの曲、これ、誰ですか」
「尾崎豊ですよ」
尾崎が生きているうちに、「尾崎豊・著」として出た本は全部で5冊あるが、僕以外の編集者が出した本はない──。
(予告編構成:上田真緒、本編聞き手・構成:長山清子、撮影:遠藤素子、バナーデザイン:今村 徹)
困難を選び、圧倒的努力でやり抜く
見城 徹(幻冬舎 社長)
  1. 見城徹、圧倒的努力で鮮やかに勝ち続ける男
  2. 劣等感にまみれた少年時代
  3. 殴られるのはもう嫌だ。死を覚悟していじめと戦う
  4. 校長に「あなたは独裁者だ」全校のヒーローになる
  5. 慶応大学に合格。卒業直前、初恋の女性に告白
  6. 就職活動、大手マスコミを受けて惨敗
  7. 作家たちと交流、文芸編集者を志す。彼女との別れ
  8. 売れるコンテンツの「4条件」。公文式の本が大ヒット
  9. 武器は言葉しかない。話を面白くする「5つの反則」
  10. 圧倒的努力で角川春樹氏からの無理難題をやり抜く
  11. 神に祈った角川映画第1作『犬神家の一族』の大ヒット
  12. 「感想」こそ人間関係の第一歩。五木寛之への手紙
  13. 石原慎太郎を口説いた、小説の全文暗唱
  14. 本人が一番書きたくないことを書かせたときに売れる
  15. 計算通り。郷ひろみ『ダディ』ミリオンセラーの舞台裏
  16. 直木賞5作、矢沢永吉、ユーミン本100万部の秘話
  17. 「月刊カドカワ」編集長に就任。尾崎豊との出会い
  18. 尾崎豊の復活。死の3週間前にかかってきた電話
  19. 3人のスーパースターと3人のきらめく新人を押さえろ
  20. 角川春樹氏、逮捕。大恩人に弓を引く
  21. 人生は暗闇で跳ぶことの連続だ。幻冬舎を設立
  22. 最初の6冊がすべてベストセラーに。創業9年目に上場
  23. 新しく出ていく者が無謀をやらなくて何が変わるか
  24. 上場廃止を決意。還暦の誕生日、借金63億円を背負う
  25. どうやって微笑しながら死ぬか