【佐々木紀彦】近代の第3ステージ、「日本3.0」が始まる

2017/1/1

世界のガラガラポン革命

みなさま、あけましておめでとうございます。
2016年は2015年と同様、山あり谷ありの1年でしたが、読者のみなさま、そして、多くのパートナーのみなさまのおかげで、NewsPicksを前進させることができました。心より感謝申し上げます。
まだNewsPicksも編集部も私自身も課題山積ではありますが、少しでも世の中の役に立てるよう、日々、精進して参りたいと思います。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ちょうど1年前のお正月に、私は「『第3のガラガラポン革命』の序章。カギは『移動』と『下克上』」という記事を執筆しました。
それから1年が経ち、私はますます、第3のガラガラポン革命が近づいていると実感しています。
2016年は、世界が日本に先んじて、ガラガラポン革命を経験した1年でした。
ブレグジット、トランプ当選ともに、世界史に残る出来事です。後世の歴史家は、ブレグジットとトランプ大統領誕生を歴史のターニングポイントとして振り返ることになるでしょう。
2016年6月23日の国民投票でEU離脱を決めた英国。まさかの結果に世界中のメディアが驚いた(写真:iStock by George Clerk )
それにひきかえ、日本は驚くほど安定しています。
しかし、その安定が続くのは長くても数年でしょう。2020年前後には、ブレグジットやトランプ当選に匹敵するような、何らかの“大転換”が起きる気がしてなりません。

2020年の「4つの節目」

日本にとって、大きなターニングポイントになるのは2020年です。
この年に日本は4つの節目を迎えます。
1つ目は、言うまでもなく、東京五輪です。
今の日本は、2020年の五輪があるがゆえに、いろんな問題が噴出してはいても、国全体に目標があります。人々を束ねる夢があります。
しかし、五輪が終わった後、日本からわかりやすいターゲットが消えます。現在、2025年の大阪万博誘致の話が進んでいますが、万博では日本全体を引っ張るには役不足でしょう。
2つ目は、安倍政権、アベノミクスの終わりです。
自民党は総裁任期を3年延長しましたが、それでも安倍首相の任期は2021年には終わります。安倍首相も五輪を花道として、遅くとも2021年には政権から去るはずです。
安倍政権の終わりは、アベノミクスの終わりでもあります。
外交面で強力なリーダーシップを発揮している安倍政権。しかし、経済面では十分な成果を出せていない(写真:AP/アフロ)
このままでは、「第三の矢」である規制改革はほとんど実現しないまま、2020年を迎える公算が大です。となると、金融緩和、財政拡大というカンフル剤を失ったポストアベノミクスの日本経済は、一気に勢いを失うでしょう。
つまり、政府主導でGDP拡大を目指した「戦後型日本経済」もフィナーレを迎えるのです。
3つ目は、東京の人口減少です。
成長の最後の砦である東京でも、人口減少が始まります。
当初予定では2020年には人口減少が始まる見込みでしたが、最新の推計では、2025年までXデーは先延ばしされました。
しかし、人口減少が迫っている事実自体は変わりません。東京の人口は2025年の1398万人でピークを迎え、2050年には、1274万人まで減少する見込みです。
人口減少とともに東京も老いていきます。今、東京で暮らしていても「老い」をそれほど感じないのは、東京が他の都道府県に比べて若いからです。
2015年時点の全国の平均年齢46.4歳に対して、東京は、44.7歳。東京は、沖縄(42.1歳)、愛知(44.3歳)、滋賀(44.5歳)に次いで全国で4番目に若いのです。
2015年時点の東京で、もっとも人口が多いのは、団塊ジュニアを中心とする40〜44歳の世代です。この世代だけで119万人います。
ただし、当然ながら、この世代も老いていき、2030年には、団塊ジュニアを軸とする50〜64歳の数は約330万人に達する見込みです。
つまり、遠くない未来に、東京は50代中心の都市になるのです。
東京の人口減少と老いは、よくも悪くも、日本の意識を変えるでしょう。地方の他人事だった現象を、リアルに肌で感じるようになるのです。
今なお人口流入が続く東京。しかし、多数派である団塊ジュニア前後の世代とともに急速に老いていく(写真:iStock by TommL)

2020年は団塊世代の卒業式

そして4つ目の節目は、団塊世代の引退です。
戦後日本の象徴であった「団塊世代」が、日本の主役から引退するのです。2020年の東京五輪は、団塊世代の卒業式になるのです。
いうならば、団塊世代の青春の終わり、戦後日本の総決算と言えるのかもしれません。
どん底から世界有数の経済大国へと駆け上がった「戦後」という時代は、1964年の東京オリンピックをピークとして、2020年の五輪で終わりを告げるのです。すなわち、五輪は「戦後日本」のエピローグとなるのです。
団塊世代にはまだまだ元気な方が多いですが、東京五輪が終わると、さすがに「若い世代にすべてを譲ろう」という境地に至るのではないでしょうか。
そうして「戦後日本」が終わり、新しく始まる時代。それが「日本3.0」です。

「日本3.0」とは何か?

では、「日本3.0」とは何を意味するのでしょうか。なぜ「日本3.0」というネーミングなのでしょうか。
「日本3.0」という言葉が意味するのは、日本の近代が第3ステージに突入するということです。なぜ第3ステージなのかを示すために、まず「日本1.0」と「日本2.0」について説明しましょう。
「日本1.0」とは明治改元(1868年)から敗戦(1945年)に至るまでの日本近代「第1のサイクル」です。
明治維新とは、日本近代の幕開け、つまり、「日本1.0」の始まりでした。
明治維新とは無血の革命です。国の支配権を、徳川家から天皇家に戻す(大政奉還)とともに、版籍奉還、廃藩置県により、藩の力を削ぎ中央集権を進めました。
また身分制の廃止により、藩主と藩士の主従関係がなくなり、公家と大名が「華族」、一般の武士が「士族」、農民と町人が「平民」となりました。
「日本1.0」の象徴となった明治天皇の肖像画。西洋風の顔立ちの肖像画となった理由については、猪瀬直樹著『ミカドの肖像』に詳しい(提供:アフロ)。
ほかにも、明治憲法の制定、議会の開設、徴兵制の導入、学校制度の普及、鉄道の敷設など、西洋を手本とした大改革を断行しました。
「日本1.0」とは、日本が近代国家として産声を上げ、日露戦争でピークを極めた後、敗戦という破滅を迎えていく「日本近代の第一のサイクル」を指します。いわば、生まれたての国家の大成功と大失敗のストーリーです。
次に、「日本2.0」は、敗戦(1945年)から2020年前後までの日本近代「第2のサイクル」を指します。
「日本2.0」は、敗戦後のGHQの改革によって始まります。
日本にとっての幸運は、さまざまな問題はあったにせよ、GHQの占領政策が全体としてポジティブなものが多かったことです。その証拠に、戦後統治下の日本で、GHQに対するクーデターは1件も起きていません。日本国民はGHQを受け入れたのです。
終戦後の1945年9月27日、昭和天皇とダグラス・マッカーサー連合国最高司令官の会談が行われた(写真:近現代PL/アフロ)
GHQが行った5大改革は以下のようなものです。GHQにはニューディーラーが多かったこともあり、リベラル色の強い改革が並んでいます。
・ 女性への参政権付与:日本で初めて、女性の国政参加が認められた。
・ 労働者の団結権の保障:労働組合の結成など、労働者の権利を保障した。
・ 教育の民主化:軍国主義的な教科書を廃止し、教育3法が制定された。
・ 治安維持法や特別高等警察の撤廃:思想・信条により人を取り締まる制度を廃止。
・ 経済の民主化:財閥解体。三井、三菱、住友などに対し持ち株売却を命じた。
さらに日本にとって幸運だったのは、冷戦開始によりアメリカにとって日本の戦略的価値が増すとともに、朝鮮戦争に伴う特需がもたらされたことです。
東アジアにおける資本主義・自由民主主義陣営の砦として、日本は欠かすことのできないメンバーとなったのです。
こうして日本は、アメリカの手厚いサポートを受けながら、未曾有の経済成長を遂げていきます。
戦後の焼け野原から、世界第2位の経済大国まで上り詰めた後、バブル崩壊を経て衰退を続ける現在までの時代が、「日本近代の第2のサイクル」となります。いわば、経済国家としての大成功と大失敗のストーリーです。
この2つのサイクルを経て、これからやってくるのが「日本3.0」なのです。

チャレンジが割のいい時代

来るべき「日本3.0」がどんな時代となるのでしょうか?
その概要については、以下の表に、「日本1.0」「日本2.0」との比較を含めて記しています。
一つひとつ説明していくと、おそろしく長くなってしまいますので、詳細は拙著『日本3.0』をお読みいただければ幸いです。
1つ確実に言えるのは、「日本2.0」時代の正解が、「日本3.0」時代にはまったくの不正解になりうるということです。
そして、「日本3.0」へと意識と行動をシフトできない組織や個人は、今いかに恵まれた立場にあろうとも、一寸先は闇だということです。
逆に言うと、「日本2.0」時代に苦汁をなめた組織や個人が、「下克上」を果たす例も多く出てくるでしょう。
「日本3.0」の時代は、多くのチャンスに満ちた時代です。とくに適応力の高い30代以下の世代にとってはブルーオーシャンが広がっています。
これから到来する「日本3.0」の時代の“成功の方程式”はまだ誰も見つけていません。それだけに一番乗りとなった人間は大きな果実を得られます。歴史に名を残せる可能性すらあります。
ちょうど幕末に、下級武士だった西郷隆盛や大久保利通や坂本龍馬がヒーローとなったように。ちょうど戦後に、一介のエンジニアだった、ソニーの井深大、盛田昭夫やホンダの本田宗一郎がヒーローとなったように。
なぜ私がこれほど「チャレンジ」にこだわるかと言うと、今ほどチャレンジすることが“割のいい”時代はないからです。リターン・オン・チャレンジ(チャレンジすることから得られる利益)が極めて高いのです。
もちろん、チャレンジには失敗が付き物ですので、討ち死にする人も出てくるでしょう。
ただし、たとえ動かなくてもジリ貧です。能動的に動いて傷つくほうが、座して死を待つよりも豊かな人生を送れるはずです。そう実感できるような例が、2017年は次々と出てくるのではないでしょうか。
そんな不透明な時代にあって、少しでも読者のみなさんのヒントとなる何かを提供できるよう、NewsPicksは、国内外の最先端の動きを報じるとともに、勇猛果敢にチャレンジする組織や個人を、どこよりも早く深く描いていきたいと思っています。
(バナー写真:iStock by ArtwayPics)
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