【宮田拓弥】3つの「Go」に見るGAFAの時代。次の主戦場は「家」

2016/12/31
ものすごい勢いで新しいイノベーションが世の中に送り出された2016年が、終わろうとしている。
この一年を振り返ったとき、改めて際立っていたと感じるのが、いわゆる「GAFA」の強さだ。
GAFAとは、Google、Apple、Facebook、Amazonのテックプラットフォーム大手4社の頭文字を並べたものだ。4社の時価総額は合計で180兆円を超えており、いずれも全米トップ10に名を連ねている。
偶然ではあるが、この一年に大きな注目を集めた製品、技術に同じ「Go」という名称がつけられているものが3つある。パッと頭に浮かぶものもいくつかあるのではないだろうか。そしてこの「3つのGo」は、いずれもGAFAの強さをまざまざと見せつけるものであった。

 AIのブレークスルー

1つ目の「Go」は、AlphaGoだ。AlphaGoは、2014年にGoogleが$500M(約510億円)で買収したイギリスのAIスタートアップ DeepMindが開発したコンピュータ囲碁プログラムだ。
囲碁は創造性や戦略的思考が必要となる複雑なゲームであり、コンピュータが人間に勝つのは難しいと考えられていた。局面の数が非常に多いため、力任せのプログラムでは限界があった。AlphaGoは、Deep Learningを応用することで、膨大な対局を学習することが可能となった。そして今年3月に、トップ棋士であるイ・セドル棋士を4勝1敗で破ってしまったのだ。
AIは現在ある種のブームとなり世界中で優秀な人材の獲得競争が起きているが、その人材の数は非常に限られている。蓄積されたデータがふんだんにあり、研究者にとって素晴らしい環境を提供するGoogleが、AIの分野で一歩も二歩も先んじていることを痛感させられたニュースであった。

 25億人に普及したスマホのパワー

2つ目の「Go」は、PokemonGoだ。PokemonGoは、任天堂の関連会社であるポケモン社とGoogleからスピンアウトしたスタートアップのNiantic社が提携し、今年7月にサービスを開始したスマホゲームだ。皆さんも一度はプレイしたのではないか。
PokemonGoは、サービスのスタート開始からわずか1週間で6,500万人という史上最多のダウンロードを記録し、さらに史上最速のスピードで売上5億ドルを達成したという記録ずくめの大ヒットサービスだ。
そのヒットには、Pokémonという世界的な人気キャラクターと、カメラと位置情報を組み合わせた新しいゲームシステムがあった。しかしながら、その急速な成長に、世界25億人が手にしているスマホプラットフォームの存在があったことは言うまでもない。
これまでにも自動車、テレビ、そしてコンピュータなどハードウェアで世界的にシェアを獲得した企業は存在した。
しかしながら、それらが常時ネットワークに繋がり、一夜のうちに億単位の人々に新しい製品/サービス(=アプリ)を届けることが可能なプラットフォームとなったのは、人類史上においてAppleとGoogleが初めてだ。

ネットからリアルへの逆流

3つ目の「Go」は、AmazonGoだ。AmazonGoは、今月Amazonが発表した、来年1月にシアトルに登場予定の「レジがない」リアル店舗スーパーだ。
自動車の自動運転と同様に、AIとセンサーを組み合わせることで、店員がいない、そしてレジがないという画期的なスーパーを実現している。
POSシステム、セルフレジなどの導入が進んでいるリアル店舗であるが、現在でも平均5分以上というレジでの行列は解消されておらず、Amazonが提案する「待たない(=待ちようがない)」店舗の形は、Eコマース同様消費者に急速に受け入れられる可能性を秘めている。
2015年に全米の小売に占める割合がついに10%を超えたEコマースにおいて、絶大なる強さを誇っているAmazonであるが、そこで培った技術とデータを武器に、残りの90%の小売市場にいよいよ攻め込んでくるようだ。
データを武器にしたプライベートブランドにもさらに力を入れており、「リアル」「商品」に「ネット」を加えた新たなSPAモデルへの道を突っ走っている。

2017年の主戦場は「家」

AI、スマホ、コマース。様々な分野でGAFAの強さがさらに拡大した2016年であった。が、2017年、彼らはどこに向かうのであろうか。それぞれ事業領域は非常に幅広いが、私が最も注目したいのは、スマホの次としての「家」における覇権争いだ。
人々が平均16時間を過ごす「家」というデバイスのスマート化において、数年前はNEST擁するGoogleがリードしているように思われていたが、現時点で最もリードしているのはAmazonだ。
2014年に発売された新しいコンセプトのデバイス「Amazon Echo」は、全米のクリスマス商戦で売り切れてしまうほどの人気で、これまですでに800万台以上が出荷されていると言われている。
この「話しかける」スピーカーEchoは、音楽をかけたり、ニュースを聞いたりするのが最もポピュラーな使われ方であるが、4割程度のユーザーは実際にものを「注文」していると言われている。
2018年までにはハードとしての売上を、Echo経由での注文の売上が追い抜き、2020年までにはトータルでの売上規模が$11B(約1.1兆円)にまで達するとの予測もある。
Echoは、スマホにおける「アプリ」同様、「スキル」という、外部企業が機能を提供できるプラットフォームを提供している。スキルを提供する企業は急増しており、ピザを注文する機能、タクシーを呼ぶ機能など、すでに4,000を超えている。Amazonが、着々と「スマートホームプラットフォーム」としての地位を固めつつあると言える。
Googleは、すでにこの動きに追随している。今月発売されたGoogle Homeという製品は、CEOのピチャイも認めている通り、Amazon Echoを参考にした製品だが、Googleらしさが盛り込まれた製品になっている。
基本は、常に電源がONになっているスピーカーに話しかけるというコンセプトだが、Google Appsや他のGoogle製品と連動することで、Echoにはない価値を提供している。Google AssistantというAIにサポートしてもらいながら、メールを送ったり、カレンダーを設定したり、検索した結果をスマホやテレビで表示することなどが可能となっている。
一方、Facebookは、全く違うアプローチで家のリビングを狙っている。2014年に$2B(約2000億円)で買収したOculusの技術を核に据えた「VR」だ。今年3月にようやく製品が発売されたOculusは、まだそれほど販売は伸びていないようだが、Facebookにとっては今後の戦略の中心に据えられている。
「ゲーム」や「映画」といったVRの得意領域だけでなく、Facebookのコアである「コミュニケーション」をVR化しようとしている。現在は、多くの友人がポストする写真や動画を通して様々な体験を共有しているが、これをVR化し、お互いがアバターとなりバーチャル空間上で体験の共有、コミュニケーションを行う世界を目指している。
こうした「バーチャルコミュニケーション」が幅広い人々に受け入れられるのかは全く未知数だが、これまでAppleとGoogleが築いたスマホのプラットフォームの上でビジネスをしてきたFacebookにとって、VRでの独自プラットフォームの構築が悲願であることは間違いない。
年間2兆回を超える検索を処理しているGoogle。10億台のiOSデバイスを持つApple。毎月17億人を超える人々がコミュニケーションをしているFacebook。そして、3億人を超える人々が日々買い物をするAmazon。
「スマホの次」の世界でも、GAFAの一人舞台となるのだろうか。それとも、全く違う新しいプレイヤーが出現するのだろうか。2017年も、世の中に送り出される新しいイノベーションに期待したい。
宮田拓弥(みやた・たくや)
Scrum Ventures 創業者兼ゼネラルパートナー
サンフランシスコをベースに、米国のテックスタートアップへの投資を行うVCを経営。これまでに、コマース、ヘルスケア、SaaS、動画、IoTなどのスタートアップ30社に投資を実行している。San Franciscoの中心 Financial Districtで、コラボレーションオフィス ZenSquareも運営している。TechCrunch、B Dash Campなど国内外のメディア、イベントでの寄稿、講演など多数。それ以前は、日本および米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。
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