【広木隆】2017年、日本株相場も米国金利も上昇するだろう

2017/1/2
企業の利益が1割強伸びる
2017年の日本株相場は上昇するだろう。日経平均は2016年末の株価対比、1割強の値上がりが見込まれる。
理由はシンプルで、今後企業の利益が1割強伸びると見られているからだ。アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスによると、今期最終利益は13%増益、来期は11%増益が見込まれている。今期来期通算で前期実績より25%利益が増える見込みだ。
現在は上期の決算発表が終わった段階であり市場がどの程度、今後の業績を織り込んでいるか定かではないが、今期来期で通算25%増益の半分を織り込んでいるとすれば、今後残りの半分を織り込みにいくだろうし、もっとシンプルに来期の11%増益がこれから株価に反映されるとしても、いずれにせよ1割強の伸びしろがあると考えられる。
不確実性だらけの世の中で、唯一確信度の高い見通しは年間を通じて米国の金利は上昇するだろうというものだ。ドル円相場もそれに従って円安基調が継続するだろう。
よって日本企業の業績は上方修正さえあるものの、下方修正のリスクは少ない。この業績見通しが現実のものになる蓋然性は高く、日経平均は2万2000円から2万3000円程度に達すると予想する。
2017年末で、アベノミクス相場が始まって丸5年が経つことになる。2017年末、市場が見ている予想利益は、上述のQUICKコンセンサスを当てはめればアベノミクス相場が始まる前から2.7倍に拡大する計算だ。
日経平均採用銘柄の2011年度(3月決算銘柄では2012年3月期)の最終利益合計は約8.7兆円だった。それが2017年度(3月決算銘柄では2018年3月期)には23兆円になる。
アベノミクス相場の起点は、当時与党だった民主党の野田首相が衆院の解散宣言をした2012年11月14日。その日の日経平均の終値は8664円だった。
2011年度の最終利益合計約8.7兆円を日経平均8700円弱と読み替えれば、2017年度の利益23兆円は日経平均2万3000円に相当する。利益が2.7倍になれば株価も2.7倍になっておかしいことはなにもない。
(写真:istock.com/peshkov )
円高が再燃するリスク
ここで提示した日本株上昇の根拠は、一にも二にも、日本企業の業績が伸びるからというものである以上、この見通しが狂うとすれば想定通りに業績が拡大しないケースである。
いくつものリスクシナリオが考えられるが、日本企業の業績見通しにとって最たるリスクは円高が再燃するリスクだろう。円高に転じる懸念が根強いのは「ドル高はトランプ次期大統領が容認しない」という見方があるからだ。
確かにトランプ氏がいつまでドル高円安を容認するかわからない。米国製造業の復活を掲げるトランプ氏やその周辺からドル高けん制発言が出た場合、そのトーンによっては、ここまで急速に進んだ円安の流れはいったん、調整を迎える可能性はあるだろう。
しかし、根本的な基調としてのドル高は崩れないだろう。単純な疑問だが、米国の大統領がドル高は許さないと言えば、ドル安になるのだろうか? 為替レートは市場で決まるものだ。そしてそれは経済原理に則って決まるものである。
トランプ氏自身が「減税だ、インフラ投資だ、財政拡大だ」と金利上昇をあおる政策を掲げておいて、為替レートだけドル安を望むのは、180度逆のことを要求することになる。いくらトランプ氏が発言しようが、短期な反応はともかく、市場がそれにどこまでも追随するわけがない。
ひとつ方法があるとすれば、国際的な政策協調である。トランプ氏の大型減税・財政拡大・規制緩和は80年代のレーガノミックスによく喩えられるが、そのレーガン政権2期目がスタートした直後、1985年のプラザ合意では国際的な政策協調によってドル安円高に誘導された。
しかし、昨今のこの状況でプラザ合意のような国際協調が実現可能だろうか? 日銀やECBが対応できるだろうか? 来年3回というペースで利上げをしようとする米国よりも、もっと速いペースで金融を引き締めよというのだろうか。あるいは為替介入(円買い介入)をせよというのだろうか? デフレ脱却が最重要課題の日本が円買い介入? 米国自身が為替操作国の監視リストに入れている日本に為替介入を米国が迫る? ありえない。
さらに言えば、トランプ氏は保護貿易主義的な発言をしている。もし本当にメキシコや中国からの輸入品に高い関税をかけるようなことをすれば外国から安い物資が入って来なくなる。
そこに強引にドル安にもっていけば、なおさら外国からモノが買えない。困るのは米国民である。そんなことをこの段階で志向するだろうか。
(写真:istock.com/mphillips007 )
歴史から考えられるシナリオは
つまり、こういうことだ。いくらトランプ氏が「ドル高は困る、許さない」と言ったところで、米国自らドル高に突き進む政策を志向しているのだから、それはドル高にならないほうが不自然であり、そうした経済の流れを国際協調で反転させようとしても、その手段がないのである。
プラザ合意では日本は無担保コールレートを6%から8%に一気に引き上げたり為替介入をおこなったりしたが、現在、そんな真似はできるわけがない。
そもそもプラザ合意はドル高是正ではなく、ドルのソフトランディングにより貿易収支の不均衡是正を狙ったものである。79年の第二次オイルショック以来続いていたインフレが落ち着き、米国も金融緩和が可能となり、ドルがすでに安くなり始めていたからこそ、プラザ合意は機能した。
プラザ合意の歴史から考えられるシナリオは、トランプ政権の政策によって米国景気がいったん、過熱し、経常収支の赤字がさらに拡大した後にドル安になるというものだ。
インフレと金利上昇が株価や経済の重石となって景気がピークアウト、景気後退のリスクが見えて、米国の利上げに打ち止め観測が出て初めて、ドル安に転じるだろう。そこに日本とユーロ圏の金融緩和の出口模索のタイミングが重なれば、為替は完全に円高基調に巻き戻る。だがそれは2018年後半以降になるだろう。
リスクは、ここで述べたように米国経済が良くなりすぎる、過熱してバブル気味になることだ。バブルとなってはじけるほうが、後々世界経済に与えるショックが大きいのはリーマンショックをはじめ何度も経験した通りである。以下、米国で投資が過熱してバブル気味になるシナリオについて述べよう。
レイ・ダリオ氏が、「トランプ政権への移行によって投資が活性化し、アメリカへの資本流入が促される」「次の政権が好循環に火をつけることができれば、リスク資産に対する投資は莫大なものになるだろう」と主張している。
レイ・ダリオ氏といえば、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツの創業者であり、投資の世界のカリスマである。世の中の先行きを読む力にかけてはダリオ氏の右に出る者がいないと言われる。
もうひとり、目端の利く、つまり眼力と嗅覚の鋭い人物をあえて挙げれば、ソフトバンクの孫正義氏で異論はないだろう。孫氏もまたさっそくトランプ氏と面会し、米国に対する500億ドルという莫大な金額の投資を約束してきた。
その500億ドルは、例のサウジアラビアとのファンドを通じた資金が主体だ。無論、Tモバイル買収に絡む思惑もあると思うが、純粋に米国に投資することで高い見返り(リターン)が得られるとの目算があってのことだろう。
孫氏がトランプ氏に提示したプレゼン資料の中にはソフトバンクの社名と共に、FOXCONNという文字が記されていたという話もある。FOXCONNはシャープを買収した台湾の鴻海精密工業のことだ。サウジの資金も鴻海の工場投資も米国に向かうのだろう。いや、おそらく世界中のマネーがアメリカに集められるだろう。
長期にわたった低金利
これまで長期にわたった低金利は、ひとことで言えば異常なまでの金融緩和の産物である。需要と供給の理論でいえば超金融緩和が過剰流動性と超低金利を生み出した。
要は世界中に行き場を失ったマネーがいまも積み上がっている。それが今後は一斉に米国に向かって、様々なプロジェクトに投資されるだろう。その地殻変動の予兆が、このところの急激な金利上昇という格好で表面化しているのだと思う。
トランプ次期大統領が掲げる財政拡大について、ホワイトハウスも議会もオール共和党でオバマ政権時代より政策が通りやすいだろうと考える。大統領首席補佐官のラインス・プリーバスと共和党主流派で下院議長のポール・ライアンは同郷の盟友。この二人を軸に財政政策はうまくまとまるだろう。
共和党は小さな政府を志向するので、減税、規制緩和は通りやすいが、インフラ投資など財政拡大はすんなりいかないかもしれない。しかし、それは民間の資金を使えばいい。
国家通商会議のトップに決まったピーター・ナバロ教授と次期商務長官ウィルバー・ロスは民間資金の活用を選挙期間中から提唱していたし、財務長官S・ムニューチンもインフラ銀行設立に言及している。ビルド・アメリカ債という話もある(バロンズが書いている)。
つまり、トランプ・ボンドかファンドかバンクかはわからないが、そういうなんらかのヴィークル=集金マシンを使って莫大な投資マネーを集めようという動きが出てくる。トランプ政権の顔ぶれを見れば、ウォール街出身者と実業家だらけだ。そういうことが大好きで、また得意なひとたちばかり。
特にムニューチンはゴールドマン・サックス時代、債券部でモーゲージ債などを扱う不動産ファイナンスの専門家だった。まさに彼は水を得た魚のように動くだろう。
ウォール街が仲介役となって莫大なマネーがアメリカに投資される道筋がつけられようとしているのだ。投資が活性化し、アメリカへの資本流入が促される、リスク資産に対する投資は莫大なものになるというレイ・ダリオ氏の発言の真意はそこにある。
トランプ当選後に米国市場でもっとも上がったのは銀行株だ。銀行規制が緩和される観測で上がったのではないだろう。膨大なビジネスの案件=カネ儲けのチャンスが再びウォール街に降ってくることを市場が嗅ぎ付けたからである。
これが、米国に異常な投資ブームが巻き起こる背景である。しかし、前述の通り、それらがバブル崩壊という形で終焉を迎えるのは最短でも2018年の後半以降だろう。
(写真:istock.com/franckreporter )
米国株が急落するリスク
むしろ2017年のリスクは他にいろいろある。なかでも地政学リスクは確実に高まるだろう。東アジアの軍事的な緊張が、紛争や衝突に発展するリスクは常に念頭に置いておくべきである。状況は中東でも同じだろう。世界的にテロもさらに起きやすくなるだろう。
経済的な面では米国株が急落するリスクに備えたい。バリュエーションが高すぎるからだ。株価の割安割高を測る尺度として「株価収益率」=PERというものが使われるが、単年度の業績しか見ていないので、ロバート・シラー教授はもっと長期的な業績の観点から見るべきと「CAPE」という指標を考案した。
CAPE、すなわちCycle(景気循環)Adjusted PE、景気循環を調整したもので、10年平均の業績をもとにしたPERである。10年もとれば、その間に景気が一循環するので業績も良い時悪い時が含まれ、それらをならしたものが企業業績の真の実力だろうというわけだ。
1800年代終わりから約150年もの間、CAPEが25倍を超えたのは4回しかない。1901年は1カ月だけ超えただけだが、その後株価は低迷、1966年は25倍に届いていないけれどその後長期にわたって低迷した。
象徴的なのは大恐慌の暗黒の木曜日の大暴落があった1929年、ITバブル、そしてリーマンショック前。これら3回はいずれも25倍をおおきく超えて、その後暴落につながっている。
そして今は28倍と再び危険水準を超えている。10年単位でみた企業業績の改善ペースを超えて株価が上がり過ぎていることを示している。いつ大きな調整が起きてもおかしくないということである。特に金利上昇は理論的には株価を押し下げる要因になる。
トランプ政策による米国経済の活性化期待との綱引きで、米国の株価が上がらずとも下がらないで推移してくれたら良いが、非常に微妙なバランスが要求される。「米国経済の活性化期待との綱引き」と述べたが、「危うい綱渡り」かもしれない。
(バナー写真:istock.com/peshkov )
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト
1963年東京生まれ。上智大学外国語学部卒業。1987年、大和証券に入社。その後、ファンドマネジャーに転身。富士投信投資顧問、フィデリティ投信、JPモルガン・アセットマネジメントなど、国内系、外資系の資産運用会社において、運用や商品の組成に20年以上携わったほか自らヘッジファンドを立ち上げ運用した経験も有する。2010年より現職。
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