【浜田宏】企業改革で陥りがちな5つの罠
ARUHI(アルヒ株式会社) | NewsPicks Brand Design
2016/12/30
デルコンピュータ(現・デル)の日本法人社長、同米国本社副社長など、デルグループで経営の才覚を振るってきた浜田宏氏。デル退社後はリヴァンプの代表パートナー、HOYAのCOOを務めるなど、経営者として豊富なキャリアを誇る。そんな浜田氏が現在、経営の指揮を執るのが住宅ローン「フラット35」を扱うARUHIだ。金融業界でのキャリアのない浜田氏が、なぜARUHIを選んだのか。ARUHIで実現したいことは何なのか。浜田氏本人に聞いた。
サラリーマン経営者から「事業家」へ
──早速ですが、浜田さんが次のビジネスのステージとして、ARUHIを選ばれた理由をお聞かせください。
デル、リヴァンプ、HOYAなど、私はこれまで相談役や外部取締役なども含めると、規模も業態もさまざまな組織で経営に携わってきました。世間からはプロ経営者と評価され、たくさんのオファーもいただいた。しかし、多くの場合は本質的には親会社や創業家に要請されて執行を司る立場だったのです。
経営者には2種類あると私は思っています。どちらが良い悪いとか、上とか下とかではありません。
1つはサラリーマン経営者。「プロ経営者」もサラリーマン経営者です。大変優秀な方々、立派な方々も多くいらっしゃいます。そういう方々から様々なことを学んできました。
もう1つは「起業家」「創業者」「オーナー」という方々、つまり事業家とでも言うような方々です。過去の経験を踏まえ、私自身、より事業家に近い立場でやりたいことを実現すべく活動してみたくなった、これがARUHIを選んだ大きな理由です。
余談ですが、実際、数年前には自ら起業して現在もその会社のオーナーシップを持っています。小さな会社ですが。
──それはつまり、オーナー経営者になりたいと?
そもそも私は、若い頃から誰かの指示で動くことが苦手でした。というより、嫌いだった。わがままな人間なんですよ、本当は(笑)。
そんな私が、日本の会社組織に合うわけがない。だから日本を飛び出し、米国に行ったんです。本物のビジネススキルを身につけ、ワールドワイドに勝負してやろう、と。
ところがデルに入ると、人から期待され、それに応えていくビジネスにやりがいを見いだします。そして気づけば、経営のステージにいた。
しかし、根は自由気ままなタイプ。派閥や出世にはまったく興味がありませんから、群れることも嫌い。金や名誉のために仕事を選ぶこともありませんでした。好きか嫌いか、やりたいかやりたくないか、私がビジネスを選ぶポイントは、それだけです。
浜田 宏(はまだ ひろし)/1959年5月30日 東京都生まれ。1982年3月 早稲田大学卒業。1991年12月、米国アリゾナ州サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士課程修了。1982年4月に、山下新日本汽船(現・商船三井)に入社。その後 AIGグループ アリコジャパン(現・メットライフ生命保険)を経て、米シリコンバレーのクラーク・コンサルティング・グループに入社。同社在籍中の1993年6月に、米デルの日本法人立ち上げに参画。 1995年1月には、デルコンピュータ(現・デル)に移籍。2000年8月からデル日本法人の社長兼米本社副社長に就任。2006年5月からは、リヴァンプ代表パートナーに就任。2008年4月には、HOYA執行役最高執行責任者に就任。2015年1月にSBIモーゲージ顧問に就任。2015年5月、アルヒ株式会社会長兼CEOに就任。2015年9月に会長兼社長 CEO兼COOに就任した。
──ただARUHIの大株主は米大手投資ファンドのカーライルです。これまでの経営への関わり方と変わらないのではありませんか?
カーライルとは10年来の付き合いで、腹を割って話せる間柄でした。最初にARUHIの件を打診されたとき、すぐに断りました。事業内容を聞いて、「なんだ、このビジネスは。全くわからん。」と思いましたね(笑)。金融も不動産も今までやったこともないし、興味もなかった。
でも何度か話すうちに、これはもしかすると、今までとは全く違う発想で変革すると、非常におもしろいビジネスになるんじゃないかと思い始めた。そうすると、もう止まらない。頭の中に次々と新しいアイデアが浮かんできて、これは自分でやりたいと思うようになりました。
カーライルに、「おれの好きなようにやっていいのか」と聞いたら、「お前の好きなようにやっていい」と言う。だったら、出資もさせてほしいと。株主として、カーライルと同じようにリスクを背負うならやる、と決まったのです。今までとは違う、事業家としての経営参画です。
──何が浜田さんの「事業家魂」に火をつけたのでしょう。
当時のARUHI(旧SBIモーゲージ)は、住宅ローンの販売だけを行っている会社でした。しかし、お客さまが本当に手に入れたいものは住宅ローンではなく、“家”です。もっと言えば、新居でスタートする“新しい人生”を手に入れたい。そんな新しい人生の起点となる、「ARUHI(ある日)」を提供できる会社になるべきだと。
この会社の本質は、お客さまの人生を充実させるお手伝いだと気づいたのです。金融業だ、住宅ローン専業では国内最大手だとか、そんな小さな自己定義を超えて新しい価値を提供すべきだと思ったからです。
住生活の総合プロデュース企業へ
──ARUHIは人生の「ある日」なのですね。
私が目指しているARUHIの姿は「住生活の総合プロデュース企業」です。お客さまのライフステージ全てのシーンに寄り添い、価値あるサービスを提供していく。先のアイデアを、次々と実現していきました。
──その1つが、住宅ローンを借りる前段階のサービス「家の検索」ですね。
「家の検索」はお客さまの家探しをネット上で簡便に行えるWebサービスです。年齢を入れて、簡単な質問に答えるだけで、オススメの物件や住宅ローンを教えてくれたり、自分と同年代の住宅購入者インタビューや頭金、月々の返済額などの事例が見られます。
──理想とするマイホームが見つかったとしても、自分に合ったローンが見つからない、という問題もあると思います。
ローン商品の点数を増やすことで、多様化するお客さまのニーズに応えました。住宅ローンは【フラット35】をメインとしながらも、他の金融機関との提携を進め、変動金利商品も用意。私が入ってからローン商品の数は、一気に増えました。
2つめには融資を受けたお客さまが優遇価格で物品・サービスを購入できる「暮らしのサービス」というメンバーズクラブを作ったことです。もはや金融業と言うよりサービス業、小売業のようにもなっていきます。
浜田流経営メソッド~「5つの罠に気をつけろ」
──いくら斬新なアイデアであっても、実行するのがビジネスのむずかしいところ。なぜ、浜田さんはどの企業でも改革を実行できるのでしょう。
自分なりの経営メソッドがあります。私はそれを“5つの罠(わな)”と名づけて、戒めるようにしています。
経営を託された企業へは仲間や側近を連れて行かず、どんなに大変だと分かっていても、必ず単身で行きます。仲間を連れて行くと、社員たちとの間に断絶が生まれやすいからです。まずは1人で乗り込んで行くのが流儀なのです。
私に寄り添ってくる「改革派社員」がいる一方で、敵対心を見せる者もいる。しかし就任直後の段階では、改革派が本当に会社にとって必要な人材なのかは分かりません。最初は私に盾突いていた社員が実は優秀な人物で、強力な右腕になったというケースはこれまで何度もありましたからね。
内部の経営企画部門やコンサルタントなどが作成した新たな戦略や経営計画をもとに、再生を図るケースも多くあるでしょう。しかし、変革が必要な場合にはこの手の資料には価値があまりないこともあります。当時の経営者に気を遣った、本気で作られていないものが多いからです。
同じように注意が必要なのが、以前の企業で成功した戦略をそのまま当てはめること。特に一流企業で成功したメソッドを中小企業に当てはめても、うまくいかないケースがほとんどです。
自社の技術、ビジネスモデルに批判的な思考を持たず盲信して、天動説になることがあります。これこそ、革新、変身を忘れて衰退していく道なのです。
──では浜田さんの場合は、どのような流れで経営を進めていくのですか。
まずは従業員の不安や私に対す疑心を取り払い、自分という人間を理解してもらうこと。現場に足を運び、従業員とコミュニケーションをとる。その際に大切なのは、進駐軍のような態度ではなく、「いやぁ、皆さんこんにちは」と、ゆるい感じで愛想よく、やさしい雰囲気で従業員に接することです。
彼らのいきつけの居酒屋などに出向き、酒の席で腹を割って交流を深めます。すると「あれっ、なんか思っていた社長像と違うぞ。この人なら、親身になって相談できそうだ。会社もよくなるのでは」と、多くの社員は心を開いてくれます。もちろん全員ではないですし、失敗も数多くしましたが。
──経営戦略のプレゼンテーションよりも、飲みニケーションの方が大切だと。失礼ですが、ずいぶんとアナログなやり方ですね。
就任直後から新しい戦略を声高に語る経営者を見かけることがありますが、私から言わせればそこにかっこよさなど必要ありません。5つの罠に付け加えるとしたら、これが、6つ目の「時間の罠」です。
斬新な経営戦略などは数カ月後でいいんです。大切なのは、従業員の本心や会社の文化を知ること。この順番を勘違いしてはいけないと思います。
会社の文化を知るには、「悪い慣習」を正すのが先。会議の進め方がいい加減、遅刻者が多い、不要な連絡・報告会が多い、情報共有がなされていない、など。企業文化はこのような慣習によってつくられます。お作法、とも言うのでしょうか。
業績の悪い企業の慣習は、得てして悪いものです。就任してから3カ月ほどは、社員とのコミュニケーションを図ること、企業文化を探り正していくこと、この2つに集中します。
フィンテック×不動産テックの融合企業を目指す
──そしてARUHIでも、今お話しいただいた浜田流のメソッドを実行され、会社は変わっていった。
ええ。ただ最初は大変でしたよ。私が先のアイデアを出したら、皆きょとんとした顔で「何言ってんの、このおっさん?」という感じでしたから(笑)。
けれども私はそのとき既にアイデアの実現に燃えていましたから、従業員に熱くプレゼンを行い、これからのARUHIのあるべき姿を徹底的に説明しました。そして、「いいかお前ら、アイデアが実現したら会社は大化けするぞ」とも伝えました。
幸い、もともと優秀な人材が多かったこともあり、私の熱意は通じ、ARUHIは生まれ変わりました。サービスは増え、それに伴い会社の雰囲気も変わっていった。以前は営業・事務職しかありませんでしたが、マーケティング、広報、経営企画などの部署が立ち上がりました。
残業を減らし、女性が働きやすい職場にするなど、就業環境の改善にも着手しました。少し前まで、10人募集して7人しか応募がないような状況だったのに、現在では、求人を行えば10人の募集に700人以上の応募があるまでの人気企業に生まれ変わりました。
──浜田さんがARUHIの経営に着手されから約1年半。今後の展望、最終的に目指すゴールをお聞かせください。
「家の検索」などのWebサービスにはAI(人工知能)を導入する、ローンの申し込みと審査のプロセスにはロボティクスを導入するなど、より一層IT化を進めていきます。当然、エンジニアはもっと必要になるでしょう。そうなれば、テクノロジーカンパニーという一面も強くなってきます。
最終的に目指すところは、世界でも類をみない、フィンテックと不動産テックが融合した企業にARUHIをすることです。私のわがままについてきてくれる心強いメンバーと共に、実現していきます。
(構成:木村剛士、杉山忠義 撮影:北山宏一)
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