【軍地彩弓】消費者目線のファッションビジネスが時代を変える

2016/12/31
2017年に何がファッション界に起きるか。ファッション界に起きていることは時代の先端性を読むことになります。“ファッション”とは時代性であり、服だけの流行だけではないからです。
そして、ファッション界に起きていることは他の産業にも同時に起きていることで、その意味でも注目すべき流れがあります。
端的に言えば、2016年は過去の仕組みの崩壊の始まりでした。実際に国内のファッションにおいては大手アパレル、百貨店、大型店の不振が顕著になりました。
過剰供給、オーバーストアなどの問題も大きく、低消費時代にかつての仕組みでは立ち行かなくなった、それが明らかになった年でもあります。
それに対して、2017年は新しい仕組みの始まりになります。「新しい」とは何か。それについてお話ししたいと思います。
1,取り払われるジェンダーの壁
昨年もジェンダーレスは大きなテーマだとお話ししました。りゅうちぇるくんやゆうたろうくんなど原宿系の“ジェンダーレス男子”が現れたり、レディスでも男性的なビッグシルエットが流行ったりと、性別を超えたファッションが登場しました。
今年は性を区分けしていること自体があいまいになっていきます。メンズ、レディスと日程も分けて行われていたコレクションが、いくつかのブランドで男女統合し始めます。GUCCIはレディスの日程にメンズを統合、KENZOではメンズの時期にレディスを統合します。この流れは、ショーにかける経費の節約と合理化という見方もありますが、レディス、メンズで同じテーマ、統一的な表現をする流れでもあります。
LGBTも含めジェンダーを区分けすることなく、フラットに考える。ここに新しさがあるのです。メンズ・レディスの複合的ショップが増え、性別を超えた表現が生まれていくでしょう。
2,ミレニアル世代に向けたストリート・クチュール
2014年に登場し、ブームとなったVETEMENTSというブランドがあります。メゾン マルタン マルジェラ出身のデザイナー、デムナ・ヴァザリアが設立したこのブランドは、超ビッグサイズのMA-1やブルゾン、新しいヴィンテージ加工をほどこしたデニムで一気に人気になりました。
このスタイルは特に若い世代に熱狂的に受けました。原宿のとんちゃん通りでショーを開催したKOCHÉも、ストリートスナップに登場するような「今」を表現し、2016年のLVMH Prizeを獲得しました。
新世代デザイナーが作り出すファッションはストリートが主役です。特権的だったファッションの世界に風穴を開ける。これも市場ボトムアップの原理です。
またこの人気を支えるのがミレニアル世代。若くして成功し、カジュアルにお金を稼ぐ世代がこういったファッションの買い手となって、新しい市場が世界的に生まれていきます。
3,テクノロジー素材の浸透
テクノロジーとファッション。その最も分かりやすい例が素材です。2017春夏コレクションで発表された事例として、イッセイミヤケが発表した瞬時に柄が変わるバッグがあります。そこにはソニーの「Fashion Entertainments」による電子ペーパーが使われていた。
また、adidasでは3Dプリンタで究極にパーソナライズしたスニーカー「Futurecraft 3D」を2016年12月に限定発売。この他にも3Dプリンタを駆使したYUIMA NAKAZATO、スマホをかざすと柄が現れる素材を作ったアンリアレイジの森永邦彦氏など、ファッションテクノロジーでは日本人デザイナーの躍進も目覚ましく、このジャンルはますますファッションの生産、デザイン、体験のスタイルを変えていきます。
4,B to CからC to C、誰でも作り手であり、買い手になれる
メルカリなどのリサイクルサイトの巨大化、もはやメーカーやバイヤーは存在せずに、スマホによって売り手と買い手が直接つながる時代。現在でもリアル店舗の売上が下がる一方で、EC市場はますます伸びている。GMOが運営する手作りアイテムの売買サイト「minne」のように、作り手と売り手が直接売買できる仕組みが確立されています。SNS等とリンクすることによって自力でブランドーオーナーになることも可能になりました。
今後、ファンを持つ作り手からヒットアイテムなどが生まれてくるでしょう。作り手から買い手まで、何層にもなっていたアパレルの複雑な仕組みから、より原始的な“欲しい”、“買いたい”がつながる仕組みができてきます。
5,L to L。ローカルブランドが力を持つ
流行は都会から、その神話も崩れ始めている。日本の各地から地域発信のブランドが出始めている。山形の佐藤繊維や尾道のONOMICHI U2など、かつて生産地として都会に商品を送りだしていた地方の生産者たちがブランドを作り、売り場を作り発信をしている。
三越伊勢丹がローカルブランドを育てるほか、そごう西武の「エリアモード」など、地方の産地をつなぐ取り組みも増えている。インバウンドもこれからは東京、大阪だけではなく、地方にも分散し始めています。
ローカルtoローカル。個性と伝統で、新しいブランド作りを始める動きがより活性化していきます。
6,レディスファッションでは、ピンク、シャツ、ちょい肌見せが流行に
それらを踏まえたうえで、じゃあ新年は、何を買えばいいのでしょうか?
レディスではピンクが流行色といわれています。真っピンクではなく、ダスティーピンクや、スモーキーピンクと呼ばれる、ちょっと落ち着いたピンクです。
もうひとつは、シャツです。今までのかっちりしたシャツではなく袖や、肩にポイントがあるもの。袖がボリューミーだったり、肩をちょこっと見せるものだったり。ちょい肌見せ。これは昨年から続いている流れですが、ちょい肩見せ、ちょいスリット、ちょい背中あきがポイントになります。大胆に、とはいかないけれど、ほんのちょっと普段のアイテムに「新しさ」をプラス。これが今シーズンのトレンドです。
7,メンズファッション、キーは“深海ブルー&ユーティリティー”
景気の反映がはっきりでるメンズコレクション。2017春夏コレクションはレディスに統合したり、See Now Buy Nowなどの影響で参加ブランドが減ったりすることもあり、全体に元気がない印象。その中でNewsPicksユーザーにおすすめするトレンドは“ブルー&ユーティリティー”です。
ブルーは深海ブルーと呼ばれる深い青からネイビーまで、爽やかな青がキーになります。また、”ユーティリティー”とはざっくり言うと“ノームコア”+“アスレジャー”。シンプルでスポーティー&多機能といったところでしょうか。
つまり、売れない時代には、より現実的に快適な服が必要だということです。超軽量素材のコートや、スポーティーな素材やアイテムでより快適に過ごす。レディスでも話題のストリート・クチュールを受けて、フーディー(パーカ)も引き続き人気です。
一枚買うのなら、ブルー系のサマーニットとか、ふわっと軽い軽量素材のロングコートなどいかがでしょうか?
ざっくりとまとめましたが、この他にも、ファッションビジネスの統廃合、淘汰、ペイメントシステムの多様化による新しい売り場の登場など、2017年は時代の大きな潮目にあります。
共通しているのは、仕組みが変わり、生産者より消費者が強い時代になっていくことです。
ZOZOTOWNなどを運営するスタートトゥデイの前澤友作社長も週刊文春の対談で「自分が一番の消費者だ」と言っています。
買わない、のではなく欲しいものを上手に見つけて上手につきあう、消費者目線のファッションビジネスが時代を変えていく。それが2017年なのだと思います。
軍地彩弓(ぐんじ・さゆみ) 
「ViVi」でファッションライターとして活躍、ギャル、109ブームなど数々のブームを仕掛ける。「GLAMOROUS」の創刊メンバーとして参加し、ファッションディレクターに就任。アラサーブームを生み出す。コンデナスト・ジャパンに入社後、「GQ JAPAN」編集長代理、「VOGUE girl」クリエイティブ・ディレクターをつとめ、2014年より「Numero TOKYO」エディトリアル・ディレクターを務めると同時に自身の会社「gumi-gumi」を立ち上げる。活動は、ファッションコンサルティング、講演など多岐に渡る。ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系列)などの衣装監修も務めた。
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