【重松大輔】シェアリングエコノミーが日本で成長する条件

2017/1/3
「Uber」や「Airbnb」の登場で、日本でも徐々に認知され始めたシェアリングエコノミー。これからの成長分野と位置づけられる一方、課題も見え隠れしている。自らもシェアリングエコノミーの事業を手がけるスペースマーケットの重松大輔社長にシェアリングエコノミーのあり方や課題、そしてこれからの業界の展望について話を聞いた。

中国では32兆円規模

──シェアリングエコノミーの規模は現在どの程度あるのですか?
2015年度の国内シェアリングエコノミーの市場規模は、前年度比22.4%増の285億円(サービス提供事業者売上高ベース、矢野経済研究所調べ)にのぼり、今最も勢いのある分野のひとつとして注目されています。
私はよく海外にも行くのですが、とくに中国がすごいことになっています。3兆9500億元(32兆円規模)になっているとも言われます。Didi ChuxingというUberに似たサービスが中国にはありますが、2012年に始動してからわずか5年程度で中国を席巻しています。
ドライバーは1800万人もおり、中国の旅行会社の知人によれば利用したら自社の従業員が迎えにきたそうです。「お前何やってるんだ?」「いや、ちょっと稼ぎたいから」と(笑)。
ソウルでシェアリングシティサミットに参加してきましたが、ライドシェアやホームレンタルなどがある中で私が驚いたのが、「シェア冷蔵庫」です。
それは冷蔵庫が街角に置いてあるのですが、そこにはお店の見切り品や家で作った残り物などを入れておいて、貧しい方などがそれをもらって食べられるのです。
──それは寄付とは違うのでしょうか?
寄付ではないです。
冷蔵庫から取って料理して戻す人もいるようです。この「シェア冷蔵庫」はもともとドイツから始まってヨーロッパで広まり、上海にきてソウルでは自治体が積極的に推進しようと発表までしています。
それからオランダにはPeerbyというサービスがあり、これはモノをなんでもシェアできるサービスです。ドリルやトレーラー、ムービングボックスなどがあり、月10万件ほどの取引があるそうです。
──シェアリングエコノミーのなかで、普及するものとそうでないものとの差はどこから生まれるのですか?
利用頻度でしょうか。Uberのようなライドシェアなどは移動そのものですから利用回数がとても多いわけです。だからここまで圧倒的に普及したと思います。
──使用機会が多いものの、シェアのニーズをうまく捉えられたということですか。
そうですね。ただ、それ以外のモノの場合、一気にはこないですが確実に上がっていきます。
スキルとかクラウドソーシングや家事代行といったもののシェアは、落ちずに着実に伸びていくと思います。
メルカリはECとも言えるのでシェアリングエコノミーに入れるか入れないかは分かれますが、モノのシェアも伸びています。周りにある膨大な要らないモノをシェアしているわけですね。
ミレニアル世代はどうやら、買っているよりシェアしている感覚のようなのです。例えば定価1万円のゲームソフトを半額くらいで買い、それを3日か1週間くらい遊んでまた売るみたいなことを繰り返しているようなのです。
それはモノを持っている感じではないですね。
(写真:istock.com/GoodLifeStudio )

認知度の低さが課題

──日本におけるシェアリングエコノミーの課題は何でしょうか?
他の国に比べると圧倒的に認知度が低いことです。
やはりまだネガティブな報道があります。実は法律の規制が関係ないシェアの可能性は多くありますが、そのほとんどが、体験してみないとわからないのです。
一度体験するとどんどんリピーターになっていくのですが、“最初のハードル”はあります。UberやAirbnbも認識しているポイントですが、そこをどうクリアしていくかが業界全体の課題です。
──具体的にはどのように解決するのでしょうか?
時間が解決することもありますが、世の中のムードづくりもあります。
2016年7月から内閣官房や経産省、民間の有識者と一緒に、「シェアリングエコノミー検討会議」をやっており、利用者の安全を守るガイドラインや推進策を検討し、11月4日に中間報告として、「シェアリングエコノミー推進プログラム」を発表しました。
具体的にはホストやゲストの安全性を担保するガイドラインや事業者の認証制度を作ろうとか、新しいサービスなのでグレーゾーンもありますが果敢にチャレンジしようとか、またチャレンジするからには弁護士などに確認して根拠を考えたりもします。
推進策としては、11月24日に全国のモデル地域となるシェアリングシティ宣言を千葉市や浜松市など5自治体で行いました。これは自治体の行政課題をシェアリングエコノミーを積極的に活用して解決していこうとするものです。今後、この取り組みを全国の自治体に広げていきます。
また、政府は、内閣官房に「シェアリングエコノミー促進室」を2017年1月1日に設置して、事業者や自治体から関連法令やシェアリングエコノミーの活用に関する相談を受け付けたり、推進プログラムの進捗(しんちょく)を公表するなど、シェアリングエコノミー推進に向けた様々な施策を継続的に展開していきます。
(写真:istock.com/PeopleImages )

対立軸で考えてはいけない

──シェアリングエコノミーは既存の産業を破壊するという批判もあります。既存業界とうまくやっていくために必要なことはどう考えていますか?
既存の業界とうまくやっていくというよりは、既存の業界がうまくこうしたサービスを取り込むべきだと思います。
トヨタがUberに出資したり、ホンダがGrabに出資したりしています。そのように業界の中で存在感の大きい企業は、新興企業と組んでいく動きが出てきています。それを取り込まずしてこれからのビジネスはあるのかなと思います。
──対立軸で考えてはいけないということでしょうか?
対立ではなくどううまく取り込んでいけるかとか、どううまく差別化するかだと思います。
日本交通の川鍋一朗さんもおっしゃっていたかと思いますが、車自体が自動になっていくとドライバーの職種ももしかすると10年後くらいにはなくなるかもしれないわけです。そこでのドライバーの価値はただの運転ではなくてホスピタリティにあるわけです。
旅行客や小さいお子さん連れのお母さんや、接待で使う経営者に対しては現地の旅行情報や手厚いサポートなど、人だからこそ価値を生めるものがあるのです。
そこに注力していく必要があると思うのです。機械や仕組みで回せるところは任せて、人でしかできないところを手厚くやっていくのがこれから必要なことです。
──日本のなかでのシェアリングエコノミーのポテンシャルはどう考えられていますか?
中国との差はまだまだすごくあります。
日本人はこの手の産業については保守的だと思いますが、よくよく考えてみると、日本でFacebookははやらないと言われていたにもかかわらず、ここまで浸透しました。
それに若い人はとくに、プライベートをさらすことに対してあまりネガティブではありません。先日、Mix Channelの事業責任者と話していたら、中高生はキス動画を平気であげているようです。
ですので、日本だけが取り残されることはないのかなと思います。
政府やスタートアップやトラディショナルな大企業がそれぞれ動いていけば、Facebookが当たり前になったのと同じように、いいもので安ければ、いずれはシェアリングエコノミーもキャズムを越えて使われるようになると思います。
──キャズムはまだ越えていないと思いますが、どうすれば越えられるのでしょうか?
そこは法律の整理が一番大事かと思います。
──そこは、政府や積極的な議員の方や経営者の方などで議論していくわけですね。
そうです。そこは来年、一気に動いていくと思います。すでに訪日外国人の10%がAirbnbを利用しているそうです。

Airbnb、Uber、メルカリの今後

──先日報道があったようにAirbnbではトラベルコちゃん・Travel.jpとの直接の連携も始まりましたね。
ええ、そうです。
ポータルに入ってくればどんどん当たり前の流れになってきますし、民泊新法もほぼ整理がついてきたとの報道もあります。オープンになってきた瞬間にみんな使い始めると思います。外国人はすでに使っているわけですから。
──Uberはどうですか?
Uberについては、日本は他の国とはタクシーの歴史や状況が異なる点がありますから、そこは段階的かなとは思います。
──Uber Eatsの評価は?
あれは潜在ニーズをちゃんと顕在化してあげましたよね。ドライバーも1000人くらいいるようです。お店としても自分で届けなくても済みますし、ユーザーもけっこうヘビーローテションするようで、3食注文することもあるそうです。
──メルカリについてはどう思いますか?
メルカリはすごいですよ。私自身も利用しますし。母親がけっこうモノを売っていて、シーグラスを作って売ったら3000円くらいで売れているようです。
かけた時間を考えるととても3000円では足りないのですが、それでも承認欲求が満たされるようで、満足しているようです。他にも、どんぐりや新聞紙売っている人がいて、あらゆるものが売られています。
そもそもシェアリングエコノミーとして面白いと思いますし、メルカリの中でユーザーはCtoCでやりとりする経験値とお互いにレビューをつけてリスペクトし合っているわけです。
メルカリさんはその文化を広げてくれているのでありがたいです。
(写真:istock.com/OhmZ )

社会課題は解決できる?

──シェアリングエコノミーが普及していくとどのように社会全体の課題が解決されていくのでしょうか?
今後の日本社会を考えると、少子高齢化や人口減少があり、自治体の経営が間違いなく厳しくなるのは目に見えているわけです。
自治体が住民をケアしていくのは、ここ10年20年で急激に難しくなっていき、夕張のような自治体はもっと出てくると思います。
そのなかで、地方に住んでいる人とかはどうすればいいかというと、助け合っていくしかありません。
そうした危機意識は、自治体も共通の問題意識として考えています。これからの時代、ともに助け合っていくためのプラットフォームとして、シェアリングエコノミーは必然だと思います。
ソウル市は2012年にシェアリングシティ宣言をしており、市がバックアップして政策のなかに入れ込んで無駄を省こうとしています。
公共施設が空いているときは民間にどんどん貸したり、工具など年に1度くらいしか使わないモノが図書館に置いてあったりします。
これは、アムステルダムやモントリオール、ポートランドなどで取り組まれています。
そのように、自治体が主体となって自分たちの行政課題を解決する「シェア」を取り込んでいっているのです。なので、日本でもそのようになっていくのではないかと思っています。
──重松さんは以前、「シェアリングエコノミーには今以上の“誠実さ”が求められる」と述べていますが、その真意は何なのでしょうか?
シェアリングエコノミーのサービスではレビューが評価としてずっと残りますが、これが今後はどこかで統一されていくと思うのです。
それがIDのようになり、その人のソーシャル・トラストになっていくわけです。いい加減なことをやると、家が買えなくなるなど自分の経済行動が制限されるような社会になるのではないでしょうか。
そこで、誠実に、お互いに誠意を持ちリスペクトを持っていれば、例えばその人がお金を持っていなくとも割引が受けられたり、行政からよくしてもらったりなどポジティブな評価を受ける可能性もあります。
実際に見ていると、本当にそういう感じになってきていますね。ホストも誠実であればあるほどいい評価がつき、結果的に儲かるのです。
──オンライン特有の匿名の文化が変わっていくかもしれません。
そうですね。むしろ、匿名ではサービスを受けられないとか、そういう世の中ですよね。匿名性が薄れていき、実名で正々堂々やっていくようになるかと思います。
(聞き手・構成:上田裕、バナー写真:istock.com/PeopleImages )
重松大輔(しげまつ・だいすけ)
スペースマーケット代表取締役社長
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。 2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。 2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。 一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。 2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。お寺、野球場、古民家、オフィスの会議室、お化け屋敷などユニークなレンタルスペースのマーケットプレイスを展開。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。
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