【徳力基彦】メディアと広告に求められる「量から質への転換」

2016/12/28

2016年後半は暗黒の年

2016年の後半は、特にネット系の広告業界やメディア業界にとっては暗黒の年として振り返られる、そんなことを言っても大げさではないほどの年になってしまったと言えるでしょう。
日本の最大手広告代理店である電通によるデジタル広告の不適切業務騒動に、食べログの評価リセット騒動、12月にはテレビ局の番組におけるステマを週刊新潮が告発する騒動まで発生しました。
その中でも最大の騒動と言えるDeNAのキュレーションプラットフォームを巡る騒動は、DeNAが運営するサイト10個全てが閉鎖されるほどの騒動に広がった上、サイバーエージェントが運営するSpotlightや、LINEが運営するNAVERまとめなどにも飛び火する展開となりました。
特に新進気鋭の急成長メディアとして注目されていたMERYを巡る混乱の影響は大きく、MERYを広告プランの中心に据えていた企業からは、代わりになるネットメディアの不足を嘆く声や、「上場企業が運営するメディアを信じられないのであれば、ネットメディアのどこを信じて良いのか分からない」という混乱の声も聞こえてきます。
一連の出来事が、一時的にはネットメディアはもちろん、デジタルマーケティングへのシフトを足踏みさせる結果になっている面は否定できないでしょう。
ただ、こうした2016年の一連の騒動を踏まえて2017年を考えると、ある意味で2016年の後半にこうした騒動が数珠つなぎに話題になったのは必然であり、本当の意味でのデジタルシフトが始まるための必要なプロセスであったと振り返ることができる気がします。
そこで重要なキーワードとなるのが「量から質への転換」です。
いわゆるバナー広告を中心としたネット広告において常に重視されてきたのは「量」でした。
もちろん、同じ「量」でも、企業によって重視するポイントは異なりますが、あえて誤解を恐れずに言い切ってしまうと、バナー広告では広告効果が計れるというネット広告ならではの特徴が影響して、目に見える数値の「量」だけに注意が集中しがちです。
何人にバナーが表示されたのか、何人がバナーをクリックしたのか、何人がバナー広告経由で商品を購入したのか。
複数の広告手段をエクセルで並べて、コンバージョン単価やクリック単価が安い手段から順番に選択するのは、ネット広告の現場では一般的な行為だと言えるでしょう。
こうしたネット広告における「量」偏重の価値観こそが、DeNA騒動により発生している混乱の大きな背景にあると感じています。
特に「量」偏重の象徴的な存在が、複数のサイトを横断してバナー広告を表示することができる「アドネットワーク」です。