加藤淳さんが「流行らないと思ったNPにハマった理由」

2016/12/24
NewsPicksで活躍するピッカーさんをご紹介する「NP“コンフィデンシャル”」。今回、その番外編としてKato Junこと加藤淳さんが13人目に登場です。
ユーザベース・チーフアナリストの加藤さんは、NewsPicksがまだ一般公開される前の2013年夏から利用を続けている、いわば”超古株ユーザー“。
そんな加藤さんに急遽インタビューしたのには理由が……。NewsPicksを続ける楽しみや、今後の抱負を聞きました。

2017年をさらなる挑戦の年に

──2016年12月いっぱいで、ユーザベースを退職されると聞きました。いったい何があったんでしょうか。
ご縁がありまして、中神康議さんが中心となって設立した「みさき投資」という運用会社で、投資・運用に携わる予定です。
中神さんやみさき投資についてはNewsPicksでも以前、プロピッカーの楠木建さんとの対談「コンサルタントがつくった「一粒で三度おいしい」ファンド」や、著書の紹介記事を掲載しているので、ご存じの方も多いかもしれません。「エンゲージメント投資」といわれる、日本ではあまり知られていないタイプの投資に特化した運用会社です。
金融機関や企業年金、あるいは海外大学基金や国家ファンドといった投資家が投資しているファンドの運用をしており、日本の上場企業に対して、エンゲージメント(経営アドバイス)を伴う長期的な投資を行っています。
──みさき投資さんといえば、人材募集の広告も出稿いただいていますが、もしや、そちらを経由して応募を……?
さすがにその勇気はありませんでした。この記事にある「採用された方からのメッセージ」も僕ではありません(笑)。
ただ、NewsPicksで投稿したコメントが転職のきっかけではあるんですよ。
2015年にコーポレート・ガバナンスに関わるいくつかのニュースで、僕なりの考えをコメントしたんですね。それをご覧になったみさき投資の槙野さんという方が連絡をくださり、飲みに行くようになりました。そのなかで、みさきについても理解を深めていきました。
僕はもともと日本という国のポテンシャルを信じています。日本の企業で直接事業をやってみたいという思いでユーザベースに入社し、海外進出などの業務も経験させてもらいました。
みさき投資の取り組みは、投資先企業と二人三脚で会社の価値を高めていくアプローチです。ユーザベースでの経験も活かしながら、次はより多くの日本企業を元気にできるのではないか。そう考えて、みさき投資への転職を決意しました。
──転職してからも、NewsPicksは続けられますよね?
これまでとは異なり業務の一環としてはできませんが、みさきに行っても個人として可能な範囲で続けたいと思っています。27万人もフォローしてくださっている方がいるのに、いきなり匿名ユーザーになってもバレバレですしね(笑)。
加藤淳(かとう じゅん)
株式会社ユーザベース・チーフアナリスト。慶應義塾大学理工学部を卒業。外資系証券会社にてプロジェクトマネジメント・IT企画業務を担当後、外資系運用会社にて株式アナリストとして、主に電機・機械・化学など製造業中心に大型株及び中小型株の日本株投資業務に従事。2012年12月にユーザベースに入社。

ユーザベースとの出会い

──加藤さんはもともと資産運用会社のアナリストから、ユーザベースに参画されたそうですね。
もともと「モノ・IT」が好きで、大学では理工学部を選びました。実際には大学時代は英語でディベートばかりしていたのですが……。調べたり議論したり、チームで目標を目指すことが好きでした。
新卒では、「モノ・IT」側の観点で、証券会社でシステムの要件定義やプロジェクトマネジメント業務をやりました。ただ、社会や企業はどんな仕組みで回っているのか、知りたい思いを抑えられず、ご縁もあって第二新卒として、アナリストの職に就くことができました。
一方で調査や投資の仕事をするほど、直接的に企業に関わりたいという思いも強くなりました。ちょうど30歳になる頃で、ここで「転社」ではなく「転職」しなければ、一生チャレンジしない自分になってしまうのではないか。それは嫌だと思い、転職活動を始めたのです。
そこでユーザベースと出会いました。金融含む領域で「モノ・サービス」を自社で作っている。これまでやってきたことと、これからやりたいことが、完璧にマッチした会社でした。

NewsPicksは流行らないと思っていた

──ユーザベースに入社してからはどのようなことをやられてきたのですか。
最初の2年間は、東京や上海の分析チームのリーダーとして、分析レポートの拡充や、レポート作成プロセスの構築を行いました。2015年にチーフアナリストになってからは、財務分析の知見を活かしたプロジェクトも立ち上げました。NewsPicksだけをやっているように見えるかもしれませんが(笑)、実はその合間でやっていたものです。
NewsPicksは、ユーザベースに入社した頃に開発が始まり、2013年夏にサービス開始しました。「どんなもんだろう」と思って、自分でもコメントしてみたんです。
ただ、コメントしてみても、いったい誰が、何のためにコメントをしてくれるのか、正直言って懐疑的でしたね。それで梅田に「このサービスが広まっていくイメージが湧きません」って言ったんですよ。そんな僕自身が、合計2万コメントとかしているんですから、今となっては笑い話です。
こちらが加藤さんの初コメント。「MonotaROという大好きなB2BのEC企業についてのコメントというのが『自分らしい』ですね。当時はまだタブどころかLikeもなかったんですよ!(加藤さん)」

コメント欄がNewsPicksらしさを作る

──流行らないと思ったNewsPicksに、加藤さん自身がハマったのは?
まさに「発見と理解の欲求」というNewsPicksのコンセプトだと思います。ビジネスに関わるニュースについて真面目に意見を交わせる環境が、これまでなかったことが大きいのではないでしょうか。
単にニュースを読めるだけではなく、血の通った人による肌触りのあるコメントで肉付けされ、理解が進む。冷やかしや荒らしはカッコ悪い、アクションやユーモアはカッコいいといった雰囲気がある。UIが変わったり機能が増えたりしていますが、NewsPicksの一番の価値は、多様なコメントにあると思います。
自分が記事を書く側になってみると、コメント欄って、嬉しさ半分、怖さ半分なんですよ。
何か間違えていればズバリと指摘がくる一方で、フィードバックや、記事で書き切れなかったことを補足してくださるピッカーさんもいる。だからこその緊張感や学び、やりがいもあります。
どんな記事でもコメント欄があることで記事だけ読むよりも学びが深まりますし、オリジナル記事もコメント欄があるから一層盛り上がる。そこがほかのニュースメディアとの根本的な違いですし、ここは最初からそういう設計をして、大事に育てないとできないものとも思っています。コメント欄こそがNewsPicksをNewsPicks足らしめているものと思います。
「2013年の年末あたりにピック数が一気に増えてますが、このあたりで「発見と理解」が爆発して、NewsPicksにハマりました。チーフアナリストになった2015年以降はもう少し増えていますが、忙しさによる変動も。例えばここ数か月はChrome拡張開発などで忙しく、ピック数が下がっていますね(加藤さん)」

600回の「ありがとう」

──加藤さんのコメントを見ていくと、ほかの方に「ありがとう」と感謝を述べるコメントが多いことに気づきます。数えてみたら600回近く言われていました。
20,000回コメントしたうちの600回、つまり3%……むしろ伝え足りていない! ピッカーさんのおかげで気づいたり、理解が深まったりするニュースがたくさんあって、思わず「ありがとう!」って言いたくなるんですよ。
例えば中国のスマホメーカーのXiaomiのことも、日本のメディアが多く報じるよりも前に、NewsPicksではT.Rikiさんが紹介してくれていました。
このように、実務家の方々から、彼らのアンテナがキャッチした情報や見方を共有いただけるときが、本当に楽しいし、嬉しい。
それから、僕の中で伝説化しているのが、「富士機械のリキャップCB事件」ですね。非常にマニアックな話題なのに、コメント欄がめちゃくちゃ盛り上がったんです。
「チップマウンター」という機械を扱っている富士機械が、ちょっと変わったファイナンシングを行った、というニュースが報じられたときのコメント。金融と製造業の実務に携わるピッカーさんから専門性の高いコメントが多く寄せられた。
──コメントのやりとりを読んでも、マニアックすぎて何のことか分かりません(笑)。
このニュースについて、これだけ盛り上がってくれる人が集まっているメディアって、ほかに無いと思うんですよ。おまけに金融とテクノロジーの実務家の両サイドから。
ニッチなニュースについて意見・情報交換できるのは、NewsPicksの醍醐味だと思います。リアルな世界で、ある記事に興味を持つ人が1万人に1人だったとして、今のNewsPicksでなら15~20人ぐらい出会える可能性があります。
だから、これまでコメントされたことが無い方にも、ピックやコメントされることを、ぜひオススメしたいです。特に「こんなニュース、誰も興味ないだろうな」というニッチなことほどピックしてみてほしいです。

加藤さんのコメント・ポリシー

──コメントをするとき、加藤さんはどんなことに気をつけていますか?
わりと本能のままにコメントしていますが、NewsPicksで「発見と理解の欲求」が満たされた原体験が自分を変えたので、他の方にも同じ体験を味わってほしいなと思っていますね。
そして、異なる意見が色々あることも重要だと思います。違う意見を持ったときはその理由があるはずなので「なぜ異なるのか」をなるべく伝えようとします。違う事実を重視しているのか、あるいは価値観の違いが背景であれば「自分はこういう価値観だからこう思う」といった具合ですね。
意見や価値観の異なる相手に対しても、最大限敬意を払いたい。そのために、まずは相手に思いを馳せることが大事なんじゃないかな、と思います。
──「敬意を払う」というのは、具体的に何をすればいいか、説明が難しい言葉ですよね。
突き詰めていくと、どんな意見も価値観が絡むものだと思うんですよ。そして、自分とは異なる価値観の方がいたとして、そこに至ったのは、体験の積み重ねによるもの。自分も同じ体験をすれば同じ意見を持ったかもしれません。
だからコメントを読んだぐらいで、相手を理解した気になって、その価値観を否定したりしてはいけないと思うんです。
決めつけや、勝手な判断をしていないか? 意識的にそう自分に問いかけるようにしています。
ピッカー同士が情報共有したくなるような環境や雰囲気、多様性を認め合う姿勢が、NewsPicksの根源的な価値であり、これからも全力で守っていく必要があるものだと僕は思います。

日本の元気な会社を手助けしたい

──次の職場ではどんなことに取り組んでみたいですか?
前述のとおり、みさき投資では投資先企業に対し、その企業をよりよくするための提案をしながら投資をしています。経済合理性だけを重視して、投資先企業の経営者が反対するような提案をするいわゆるアクティビスト的なやり方もあります。
一方みさきでは、敵対的にやるより、友好的に提案をして改善策を模索していくことが基本となります。そのために長期にわたって、調査も関係構築もしていきます。
──まさしく二人三脚な感じですね。
そうですね、「働く株主®」というのが会社のスローガンでもあるのですが、投資先企業と一緒に汗をかく感じがいいな、と。
今の日本では、事業者と金融が離れすぎてしまった印象があります。その距離をぐっと縮めて、「みさきが株主でいてくれたから、一緒にうちの会社はここまで来ることができた」、そんなふうに思っていただけるような存在になりたいです。
もうひとつ、最初に少し話したことではありますが、日本から元気な企業がどんどん出てくるお手伝いしたい、という思いがあります。
日本企業に関するレポートなどを読むと、少子高齢化で成長率も下がっていて、バブル崩壊以降いいところが無い、などと、悲観的に語られることは少なくありません。僕自身は、幼少期を海外で過ごした経験もあり、外資企業でも働いてきました。そのうえで、日本にはまだまだ伸びしろがあると信じています。
もちろん長所も短所もありますが、マクロ要因だけで一括りにするな、と!(笑)。だからこそ、どれだけ多くの元気な日本企業を輩出できるか、というのは、自分の人生の生きがいの一つだと思っています。
ユーザベースに在籍している間に会社も大きく成長し、海外で拡大するプロセスにも、多少なりとも関わることができました。投資という形をとれば、より多くの会社をお手伝いすることが可能なのではないか。そんな考えで次の挑戦を頑張りたいです。
ユーザベースで毎年開催される年末パーティで、旅立ちのスピーチをした加藤さんと、それを祝う仲間たち。「退職するときこそ、お互いの本質が見えるものです。転職するにもかかわらず写真のように暖かく送り出してくれること、本当にユーザベースで働けたことを嬉しく思った瞬間です。(加藤さん)」
──最後におすすめピッカーを教えてください。
このインタビューの話があった時に、どうしようと一番思った点です。
というのは、あまりに多くの方をオススメしたいからです。フォローしている方、全員オススメですし、フォローをしていない方でも多く勉強させてもらっています。
たまにコメント欄で「自分のオススメピッカーを紹介する流れ」になるときがあるのですが、そういうのがとても好きなんですよね。自分が知らない方も紹介されていて、フォローすることもあります。なので、数人選ぶというより、是非そういう場で引き続き今後も紹介させてください!
──お話は尽きませんが、最後にピッカーの皆さんへ一言どうぞ!
これまでお世話になったピッカーの皆さん、改めてありがとうございます!
今回このようなかたちで、皆さんにご挨拶をさせてもらっていいのかなという気持ちもありました。ただ、ユーザベースという会社も、NewsPicksやSPEEDAというサービスも、思い入れがあって大好きなんですね。
今後も一人のピッカーとして応援していく気持ちに変わりはないことをお伝えしたいと思い、インタビューをお受けしました。
日本から一社でも輝く会社を多くできるように、みさき投資での次のチャレンジ、頑張っていきたいと思います。どうぞ、これからもよろしくお願い致します!
■小野 編集後記
NewsPicksの仕事を私が始めるにあたって、アドバイスをいただきたいとスカイプしたのが加藤淳さんでした。このサービスがリリースされたときからピック&コメントを続けている加藤さんは、まさに生き字引。サービスの変遷、過去にあった出来事、コミュニティの機微……いろんなことを教えてもらいました。以来、何度相談タイムを設けてもらったか分かりません。
そんな加藤さんが12月末で退職すると聞いたとき、ピッカーの皆さんへの感謝の気持ちを述べられていたので思わずその思い、「NP"コンフィデンシャル"」で皆さんに届けさせてください!とお願いし、今回の記事となりました。溢れんばかりのNewsPicks愛が皆さんに届きますように。
そして加藤さん、新天地でのご活躍をお祈りしています。NewsPicksのコメントは引き続きお願いしますね!