米国のスタートアップ、ブーム・テクノロジーが超音速旅客機の開発を目指している。だが、課題は山積みだ。その多くは、今は亡きコンコルドも直面した問題でもある。

「航空機の速度は1950年代のまま」

イライラしている様子の旅行者と、現代の航空事情について話しているとしよう。「航空機の速度は1950年代から変わっていない」という話をすると、きっと驚かれるはずだ。
過去半世紀、航空宇宙をはじめとするほぼすべての分野が、人類の努力によって技術的な飛躍を遂げてきたことを考えると、次のような質問が出てくるのは当然だろう。
「なぜ私たちはもっと速く飛ぶことができないのだろう?」
米国デンバーのスタートアップ、ブーム・テクノロジーはこの疑問を原動力に、超音速ジェット機を主流の座に就かせようとしている。マッハ2.2(時速約2335キロ)で飛行する45人乗りの航空機を、5000~1万ドルの航空料金で利用できるようにするという大胆不敵なアイデアだ。
現代の一般的な旅客機は時速約885キロ。今は亡きコンコルドすら超える速度を、ビジネスクラスの往復料金かそれ以下で運航させようというのだ。
しかし、大西洋を短時間で渡って旅行者たちを驚かせるためには、技術面で非常に革新的なだけでなく、そうした速度をコスト効率よく実現できるジェット機を航空会社に販売しなければならない。
航空会社を納得させるには、確実に利益を出す必要がある。中途半端では受け入れられないだろう。コンコルドが超音速の旅の先駆者になることができず、異端としてその命を終えた主な理由がこれだ。

コンコルドを抜本的に見直し

航空業界は保守的で、70年前に発明された航空機にいまだ大きく依存している。ブーム・テクノロジーには疑念の目を向ける可能性が高い。
同社が製品を販売しようとする世界的な航空会社は、次の2点を「常識」にしている。まず「小型航空機で利益を出すことは極めて難しい」こと。そして「燃費の悪さで有名な超音速ジェット機で利益を出すことはそれ以上に難しい」ということだ。
ジェットブルー航空の幹部で、業界をよく知るマーティー・セントジョージは「このような航空機に需要があるかどうかについては問題ないと思うが、課題はそれを本当に実現できるか、数字を出すことができるかだ」と指摘する。
小さな超音速ジェット機の利点を売り込もうとするブーム・テクノロジーは、厳しく数字を求められることになるだろう。航空会社は重量、航続距離、燃費、メンテナンス、定時出発率など、数え切れないほどの質問を投げかけてくるはずだ。
しかも、ブーム・テクノロジーは3基のエンジンを搭載することを想定している。これは「最も効率が良いのは2基のエンジンを積んだ双発機」とする航空業界のトレンドから逸脱している。
ブーム・テクノロジーはこうした疑念に対し、コンコルドは問題だらけだったが、抜本的にデザインを見直したと主張している。
コンコルドは27年間にわたって運航したが、導入した航空会社は2つだけだった(アメリカで1991年まで営業していたブラニフ航空とシンガポール航空がパートナー企業になった。エールフランスとブリティッシュ・エアウェイズの航空券も、この契約下で販売された)。
燃料をがぶ飲みし、騒音をまき散らすコンコルドのような航空機は二度と受け入れられないだろう。つまり、燃費が良く、排出ガスが少なく、静かなエンジンが求められているということだ。

ニューヨーク~ロンドン間は3時間

ブーム・テクノロジーは、コンコルドの欠点を2つ挙げている。まず、ジェット燃料の消費が激しく、運航コストがかさんだことだ。New York Timesは1978年の記事で「著しく不経済」と批判している。
もうひとつは、座席利用率がおしなべて低かったことだ。現在の通貨で1万5000~2万ドルという法外な料金設定が原因である。こうした欠点はすべて解決できると、ブーム・テクノロジーは断言している。
たとえば、ニューヨーク~ロンドン便は3時間強で、大西洋を横断しての日帰り出張が可能になる。ブーム・テクノロジーのウェブサイトには「午前6時にニューヨークを出発し、ロンドンで午後の会議と夕食をとりながらの会議。帰宅後、子供たちを寝かしつける」と書かれている。
サンフランシスコ~東京間も5時間半で結ばれるという。
ブーム・テクノロジーの共同創業者でもあるブレイク・ショール最高経営責任者(CEO)はパイロットで、アプリケーション開発者としての経歴も持つ。同氏は「経済的条件をうまくクリアし、提供できると約束した航空機をきちんと提供することが重要だ」と話す。
新しい超音速ジェット機にもコンコルド同様の騒音問題があるため、ブーム・テクノロジーは、海を渡る航路のみにこれを売り込もうと考えている。米国の国内便や中東、東欧などは対象外にする予定だ。
ショールCEOによれば、コンコルドよりは静かなのだが、会社を立ち上げて間もないため、あらゆる規制の問題を回避したいという。

ヴァージン・ギャラクティックが支援

すでに、リチャード・ブランソン率いるヴァージン・ギャラクティックの製造部門スペースシップとの契約がまとまっている。技術、デザイン、飛行テストに関する支援を受けるという内容だ。ブーム・テクノロジーが製造する最初の10機をスペースシップが所有できるという契約内容も含まれている。
ヴァージン・グループの広報担当者クリスティン・チョイは電子メールで「リチャード・ブランソンは長年、ヴァージン・ギャラクティックと製造部門で高速航空機を開発することに関心を持っていた。高速航空機の研究開発体制を構築することにも関心がある」と述べている。
「われわれがブーム・テクノロジーと共有する野心と努力は、まだ始まったばかりだ」
ショールCEOによれば、名前を明かすことはできないものの、ヨーロッパに本拠を置く別の航空会社も15機の所有権を持つ契約に同意し、さらにほかのいくつかの航空会社とも、合計170機の交渉を進めているという。
航空コンサルティング会社ボイド・グループ・インターナショナルは、ビジネスパーソンの利用が多い航路のプレミアムサービス向けとして、10年間で1300機の超音速ジェット機を販売できる可能性があると分析する。
ターゲットは、香港、ロンドン、シンガポール、シドニー、東京など、世界的なビジネスの中心地だ。これらの国を行き来するビジネスパーソンは、時間を金で買う可能性が高い。
ブーム・テクノロジーは500以上の航路を思い描いている。納期は明言していないが、「2020年代前半」には1機目が完成する見込みだという。
エンジンや機体が保証条件を満たしていなければ罰金を支払うという、多くの航空機メーカーが採用している手法を導入すれば、購入企業を増やすことができるかもしれない。ジェットブルーのセントジョージも「保証があれば、試してみようという航空会社も現れるだろう」と話す。
コンサルタントのマイケル・ボイドは電話取材に応え、「彼らが想定している運航コストであれば、現在のビジネスクラスの料金で採算がとれる」と分析した。「最初の関門は突破だ。『スタートレック』に夢中なオタクたちとは違い、航空会社はそう簡単に受け入れない」
※ 続きは明日掲載予定です。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Justin Bachman記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:© 2016 Boom Technology, Inc.)
©2016 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.