【緊急寄稿2万字:楠木建】DeNAのDNAを考える(前編)

2016/12/17
DeNAのキュレーションメディアの問題から見えてくる、本質的な論点とは何か。競争戦略の視点から、一橋大学の楠木建教授が合計2万字で徹底分析する(全2回)。

議論の4つの前提

DeNAのキュレーションメディア事業の問題が耳目を集めている。
NewsPicksでもオリジナル記事の特集が組まれた。そのうちのひとつ、「SEOの女王、村田マリの『エグジット人生』」という記事にコメントしたところ、すぐに読者から千数百の「いいね」が寄せられた。この問題に対する読者の関心の高さを改めて知った次第である。
競争戦略の視点から企業経営を論じる仕事をしている筆者からすれば、今回の騒動は興味深い題材を提供している。その表層においては「ドタバタ劇」なのだが、深層には経営についての重要な論点が潜んでいる。この場をお借りして、筆者の考えを述べておきたい。
お読みいただく前に、前提として以下の4点を強調しておきたい。
第1に、経営者の立場に立った「内在的な議論」を意図しているということ。
もちろん筆者もDeNAのキュレーションメディア事業に問題がないとは思わない。しかし、それは多くの記事やNewsPicksのコメントに見られるような「モラルなきカネの亡者」とか「南場さんがかわいそうだ」というような話ではない。
なぜこのようなことになったのか、どこに問題の淵源があったのか、これからのDeNAはどうあるべきなのか、できるだけ経営当事者の立場に拠った議論をする。読者にも「もし自分がDeNAのような会社を経営していたとしたら、どうするだろうか」という視点で読んでいただきたい。「内在的」とはそういうことである。
第2に、だからといって、ことの発端となった「WELQ(ウェルク)」の医療・健康に関する不正確な記事が社会規範に反するのは議論の余地がない。本稿にしても、これを「ひとつの経営判断」として許容しようとするものではない。
また、著作権の侵害やそれを誘発するような記事作成のオペレーション、会社が記事作成を発注しておきながら、著作権に関わる責任を回避し、これを受注側の記事作成者に押しつけるというやり口、こうした指摘が事実であるとすれば、それは単純に「ルール違反」であり、経営の巧拙以前の問題である。
もとより、こうした杜撰なやり口は、キュレーションメディア業界に蔓延しており、DeNAに限った話ではない。業界全体で是正していく必要があるのは言うまでもない。
第3に、本稿の議論は新聞や雑誌、NewsPicksを含むさまざまなインターネット・メディアに掲載された報道や論説、DeNA経営陣の記者会見など、2016年12月16日までに公開された情報のみに依拠している。
DeNAという会社やそのキュレーションメディア事業について、筆者独自の一次情報を持っているわけではない。内在的な議論を意図するため、経営の意思や意図に踏み込むが、それはすべて筆者の「論理的な推測」であることをお断りしておきたい。
第4に、この文章はわりと長い。全体で2万字近くになる。
筆者の論点や経営を俯瞰する枠組みを一通り説明しておかないと、肝心のDeNAについての議論が意味不明になる。したがって、どうしても話が長くなる。
筆者はこれまでもNewsPicksの読者から「お前の文章はスマホで読むには長すぎる」とさんざん罵倒されてきた。まとまった文章を読むのが嫌いな方は、今回もアタマにくること請け合いなので、ここで読むのをやめていただきたい。