ビジネスで一番大切な「信頼」の掴み方【前編】

2016/12/21
所属する組織の規模や業種を問わず、「信頼」はあらゆるビジネスに不可欠な要件だ。周囲からの「信頼」を得られない人物に、大きな仕事は成し遂げられない。掴み取るのは容易ではなく、一度失われれば取り戻すのは難しい。だからこそ「信頼」に関わる経験は人を大きく成長させる。いま活躍するビジネスパーソンは、どんな壁を乗り越えて「信頼」を掴み取ったのか。そして今、「信頼」をどう捉えているのか。キャリアの異なる5人に聞いた。
「ゼロ」から作り上げていく関係性
中澤:UPQ(アップ・キュー)でのビジネスは、すべてが「ゼロ」から始まっています。歴史がないスタートアップということに加えて、トップの私が女性で、家電メーカーなのに文系出身。当初は「中澤は広告塔で、裏にビジネスを動かしている人がいるのでは?」と言われることさえありました。
現在、UPQのプロダクトを生産してくれる中国のパートナー工場の人たちも、最初に一人で現地へ交渉に赴いたときは、Tシャツにデニム姿の私を見て不信感をあらわにしていました。「日本の家電メーカーの社長がこんな若い女なの?」と。きっと、オールバックでカチッとスーツを着た“オジサン”が来ると思っていたんでしょうね(苦笑)。
見た目や肩書で判断してビジネスの話に進めない人もいれば、なかには「既存メーカーにはできない、新しくて面白いプロダクトが作りたい!」という私の話を聞いて、「賭けてみよう」と言ってくれる人もいました。パートナーのほとんどが、そう言って手を差し出してくれた人たちです。
一緒にプロダクトを作っていく過程で徐々に“チーム”としての一体感が生まれ、実際に製品が売れてビジネスが回り始めると“信頼”が育ってくる。UPQは倉庫も工場も持たないメーカーなので、プロダクトごとに工場と組んで仕事をしますが、“作って売る”の繰り返しによってチームとしての信頼関係が育まれます。
一方で、ゼロから始まったメーカーだからこそ、パートナーたちと深い関係性が作れている部分もあります。いまでは中国の工場側から「次はこんな製品を作らないか」「前回作った製品の反響はどうだ」という連絡がたくさん来るのですが、大手メーカーなら考えられないことです。
私たちには大企業のような「名刺を見せるだけで得られる信用」はないし、発注するロット数も大きくありません。その代わりに、私自身が彼らと何度も話し合い、素早い意思決定をし、一緒にビジネスを成長させている実感を共有することで、単なる「メーカーと提携工場」以上の信頼関係が構築できているのだと思います。
「許容すること」で育てる信頼
うまくいくケースばかりではありません。UPQが設立後2カ月でリリースした最初の24種類の製品には、本当にたくさんの事件がありました。生産拠点としておさえていた工場が突然、大手メーカーに買収されて大型ディスプレーが作れなくなったり、完成した製品を運んでいる船が台風で行方不明になってしまったり。
なかでもスマホは、電波法上必要な「技術基準適合認定」の表記に誤りがあり、初期出荷分を回収する事態に発展しました。何度も何度も確認したのに起こってしまった中国の認証ラボ側のミスなのですが、お客様は「UPQは信頼できない」と感じます。
その際は、払い戻しの対応をし、ニュースリリースで状況説明と謝罪をしたほか、「経緯を取材したい」と言うメディアに応じて動画インタビューに出演しました。良くも悪くも私自身が“顔”になっているメーカーなので、全責任を負う当事者としてキチンと説明する機会が得られたのは幸運だったと思います。
ですが、ミスをした工場をすぐには切りません。私の基準として、「大きな失敗でも3回まで許容する」と決めているからです。これは私が大企業で働いているときに、周囲がどんなミスをしても「それでもチームは一緒に働くしかない」という経験からたどり着いたひとつの答え。そこで腹を立ててお互いに嫌々仕事をしても、いいものは作れません。
それより同じ失敗を繰り返さないよう “育てる”方向にエネルギーを傾けたほうがよほど意味がある。それでもミスが続くなら、残念ながら諦めて、お客様からの信頼を優先したほうがいい。その基準を“3回”としています。
製造業には長い歴史と伝統、そして作法があります。ベンチャーだからといって、それを無視しては周囲の信頼は得られません。プロダクトの品質とビジネスの作法、両面での信頼があってはじめてビジネスは成立するので、大企業で働いた経験がなければ、私自身も今のような経営はできなかったと思います。
でも、ユーザーからの信頼は、できればUPQの新しいプロダクトへの“ワクワク感”で勝ち取りたいですね。UPQはトレンド感を大切にしているので、基本的にはよく売れた製品も増産はしないと決めています。お客様から「早く新しいプロダクトを出して」と言われるようになったら、ものづくりに携わる人間として、それはなによりもうれしい「信頼」です。
信頼を掴むための「一点突破」
堀部:業績を上げるための“完璧な計画”を立てるだけでは、いいコンサルタントとは呼べません。クライアントが抱えている問題点を発見・共有し、実行可能な目標を立てられなければ、机上の空論になってしまうからです。「堀部さんの言うことなら、信じて一緒に頑張ってみよう」と思っていただけるかどうかが、コンサルティングの成功を左右します。まさに「信頼」がカギになるわけです。
では、その信頼をどうやって掴み取るか。私はその方法を、①結果、②本音、③頻度、と定義しています。
コンサルタントが信頼を得るための最短距離は、3カ月で業績を上げること。つまり「結果」です。われわれのクライアントは中小企業が中心なので、私がクライアントから頂いている、1カ月約40万円のコンサルティング費は決して安いものではありません。私も実家が京都で飲食店を経営しているので、キャッシュフローの大変さはよく知っています。ですが、コンサルタントに依頼して3カ月でフィーの3倍以上の利益が見えれば、それは無駄な投資ではなくなります。
そのために、まず第1手は「クライアントが気づいていない長所を生かして、収益を生み出せる分野」を見つけ出し、そこに注力して一点突破で収益を上げる。結果を残せば、私の提案に対する信頼が生まれ、クライアントの実行力も上がる好循環が起こります。そこから全面展開していくのが成功のセオリーです。
2つめに重要なのが「本音」。表面的なコミュニケーションは、いくら繰り返しても信頼につながりません。そこで私は、クライアントと3カ月に1度、「ぶっちゃけ会議」を行うことにしています。「私に不満はありませんか? 私からも、御社がもっと伸びていくためにお伝えしたいことがあります」と本音の意見交換を提案するのです。
それによって短期的には自分に負荷がかかる場合もありますが、本音を知ればクライアントの要望を的確に捉え、満足度を高めることができます。そして、本音で話し合った時間は必ず信頼につながります。
3つめに重要なのが「頻度」です。心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した「ザイアンスの法則」では、単純接触の頻度と好意は比例するとされています。月1回の訪問で「御社のことを真剣に考えています!」と熱く語っても、本気にしてもらえるわけがありません。
そこで、直接お会いする時間は短くても回数を増やしたり、電話やメールのやりとりを頻繁に行ったり、細かい情報共有を重ねることで、受け取る情報以上の信頼を育てられるのです。
失った経験こそがターニングポイント
私が「信頼」の大切さについて考えるようになったのは、まだ若手の頃の苦い経験がきっかけです。ある新規クライアントから「経営パートナーとして新規事業を立ち上げてほしい」という依頼を受け、気負いすぎた私は、専門分野ではない領域にまで口出しをしたあげく、事業を頓挫させてしまったのです。
クライアントはすでに数百万円規模の投資をしていたのに、私のせいで売り上げは立たず、ランニングコストばかりが積み重なる数カ月。最終的にはとても大きなクレーム案件へと発展してしまったのです。
そこで私は誠心誠意、謝罪をすることでリベンジのチャンスをもらい、それからの3カ月、フルコミットで本来求められていた依頼のセンターピンに集中して業務を遂行しました。そのときに意識したのが「結果」「本音」「頻度」です。結果として、なんとか3カ月で営業利益が40%程度残る収益率の高い新規事業をスタートさせることができました。
このときのクライアントとは今でもパートナー関係ですが、いまだにお酒を飲むと「あれがビジネスのターニングポイントだった」と言われます(苦笑)。
船井総研には「1:1.6:1.6の2乗の法則」という考えがあります。人から言われてしぶしぶ実行したときの生産性を「1」とすると、納得して行ったときはその「1.6」倍、そして自発的に行ったときは「1.6の2乗」すなわち「2.56」倍の成果が上がるというものです。
クライアントの信頼を得る、本音で意見交換をして自分から行動してもらうことがもっとも効率的であり、信頼関係のないまま、自分の考えを押し付けて大失敗した経験は、私にとってもターニングポイントでした。今では、「信頼」こそがビジネスにおいて最も重要なものだと信じています。
(編集:呉 琢磨、構成:大高志帆、撮影:岡村大輔、須田卓馬)