日本の大企業はイノベーションを起こせるのか?

2016/12/5
「大企業×スタートアップ」の興隆
「大企業はイノベーションを起こせない。イノベーションはスタートアップの専売特許」
そんな意見は根強い。
しかし、遅ればせながら、日本の大企業もイノベーションに本腰を入れ始めている。
一部の大企業は、新たな成長事業を創るために、新規事業開発、スタートアップとの協業、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の創設、M&Aなどに力を入れるようになってきている。
その一つの証左が、大企業とスタートアップの共同プロジェクトの増加だ。
大企業とスタートアップの連携を仲介するCrewwの伊地知天社長は「2015年くらいから潮目が変わり、2016年にブレークした。メーカーや金融と言った保守的な業界も動き始めた。経営者のトップマターになりつつある」と手応えを語る。
同社が仲介するプログラム数は、2015年の17件から、2016年は11月までに38件と倍以上に増加。顧客には、東京メトロ、東京ガス、オリックス、あいおいニッセイ同和損保、JTB、パナソニック、富士通、セブン銀行、損保ジャパンといった有名企業がズラリと並ぶ。
今年、東京メトロはアクセラレータープログラムを実施。一日707万人の顧客が使うメトロのネットワークを使ったコラボ事業を、スタートアップを対象に募った。
マッチングがうまくいった企業同士は、その後、事業の実証実験に入っていくが、2011年以来、積み上げた実証実験数はすでに264件に上るという。
「この数字は世界トップレベル。最近は、出資やM&Aの話も出てくるようになった」と伊地知氏は話す。
マイナー投資の「次」
2010年にベンチャー支援のために、社内ベンチャーとしてトーマツベンチャーサポートを立ち上げた斎藤祐馬氏。現在、同社の事業統括本部長を務める彼も、大企業の姿勢の変化をひしひしと感じている。
斎藤氏や他のメンバーは、世界最先端企業のイノベーション戦略を調べるため、ジョンソン&ジョンソン、コカ・コーラなどの事例を調べていった。
その結果わかったのは、これらの企業は、R&D、ベンチャーとの協業、M&Aの3つをうまく組み合わせていたことだった。
その点が、自前主義のR&Dに偏る日本の大企業との大きな違いだ。
斎藤たちは、大企業がイノベーションを起こすためには、R&Dだけでは足りないことを地道に布教していった。
「R&Dだけではダメというところは一般の認知を得た。次に、オープンイノベーションをやろうということでCVCが生まれ始めた。次にわれわれがやりたいのは、M&Aを一気に増やすことだ」と斎藤氏は言う。
企業側も似た問題意識を抱いている。
たとえば、CVCとして実績を出している企業のひとつにTBSがある。
TBSは2013年、新規事業開発を促進させるため、CVCのTBSイノベーション・パートナーズを設立。これまでに10件のベンチャー企業投資、5件のベンチャーファンド投資を行っている。ソーシャルメディア分析を行うデータセクションなど2社がすでに上場するなど、パフォーマンスは好調だ。
TBSイノベーション・パートナーズのパートナーで次世代ビジネス企画室投資戦略部担当部長を務める片岡正光氏は「マイナー出資は、効果もあるが限界もある。今後は、スピード感を担保するためにも、ベンチャーをM&Aするところまでいきたい」と話す。とくに新規事業分野として、ドローンに力を入れていく計画だ。
KDDIなど、すでにスタートアップ買収を実施している企業はあるが、大企業全体で見るとまだまだ少数派だ。大企業による買収がより一段と増えてくると、「大企業×スタートアップ=イノベーション」というエコシステムがより機能し始めるだろう。
「米国のスタートアップも昔はIPOがメインだったが、今では約9割がM&Aによるエグジットになった。会社を売却した人は次に何をするかというと、エンジェル投資家になるか、もう一度起業するかのどちらか。会社売却が増えることで、ベンチャーの畑が耕されて、何回も起業する人が増えていく」(斎藤氏)。
カギは「30代のロールモデル」
大企業とスタートアップの融合は、イノベーションの大きな後押しとなる。
その起爆剤となるのが、人材の流動化だ。
産業革新機構CEOで日産自動車副会長を務める志賀俊之氏は「多様性と流動性が日本を救う。大企業の中と外の垣根をもっと下げたい」と語る。
昨年より日産自動車取締役副会長と産業革新機構CEOを兼任する志賀俊之氏。産業再編、ベンチャー投資、産学連携などを通じて、日本のイノベーションを活発化するため積極的に活動している。
しかし、現実問題として、大企業を辞めて起業したり、ベンチャーに転職したりするのはいまだにリスクが大きい。家庭を持っている人間であればなおさらだ。
それだけに、大企業にいながらにして、イノベーションを起こす仕組み、実例をつくれるかが「大企業イノベーション」のカギを握る。
斎藤氏は「結局、大企業の普通のサラリーマンにとって、起業家は遠すぎてロールモデルたり得ない」と指摘する。「大企業の30代でもここまでやれるんだというロールモデルが出てきたら、たぶん世の中は変わる」
まだ大きな成功例はないものの、大企業でも、新規事業を立ち上げたり、スタートアップと協業したりするための仕組みは徐々に整いつつある。
これから一気に大企業のイノベーションが花開くのか、それとも、掛け声だけで終わってしまうのか。これからその本気度と実行力が試されることになる。
本特集では、世界の最先端企業、スタンフォード大学、シリコンバレーなどのイノベーション施策を紹介しつつ、日本の「大企業イノベーション」の課題と打開策を考察。
実際に、20代、30代の大企業イノベーターとして活躍する人物たちの姿を通じて、「大企業イノベーター」になるためのヒントを探っていく。
【志賀CEO】大企業イノベーションを阻む「心の岩盤」
(撮影:竹井俊晴)