自分を最も成長させる、100万円のクールでベストな使い途

2016/12/6
もし「100万円」を自由に使えるとしたら、何に使うのが効果的か。人生を変えるには少ないが、自己投資なら幅広い選択肢が選べる100万円という金額。モノを買うか、スキルを学ぶか、それとも趣味に使うか。牧浦土雅氏、麻野耕司氏、大山敬義氏という世代の異なるピッカー3人に、「今の自分にもっとも意味がある100万円の使い途」と、その裏にある自己成長の方法論を聞いた。

人を巻き込み、信頼を得ることに使う

牧浦:僕が行動を起こすときに重視するのは、①世界にインパクトを与えられるか、②イノベーティブであるか、③社会的な意義があるか、という3点です。そういったことを実現するためには、何よりも「信用(Trust)」が欠かせません。
僕はこれまで教育や食糧、ヘルスケアと、世界中でさまざまな問題と対峙してきましたが、僕自身はプログラミングができるわけでもないし、何かを作れるわけでもない。すべてのプロジェクトは人を巻き込むところからはじまります。
そんなことができるのは、僕のアイデアを面白いと思ってくれる「人」がいて、彼・彼女たちが僕を信用して力を貸してくれるからです。よく「若いうちは自己投資を」と言われますが、僕は若いうちほど自分ではなく「人」に投資することが大切だと思います。
たとえば19歳のとき、僕はルワンダに渡って教育支援活動に携わりました。そのときはお金もなく、協力を得るための人脈もほとんどなく、一時は途方にくれました。そこで考え出したのが、「現地の高級ホテルで朝食をとる」作戦です。
その地域には高級ホテルが一軒しかなく、現地の有力者が自然とそこに集まります。「若い日本人」である僕は、その空間でとても目立つのです。
向こうから声を掛けられたり、自分から声を掛けたりして会話のきっかけを作ることができ、結果的に、数千円の朝食代で現地での人脈を構築することができました。当時の僕には手痛い出費でしたが、とても意味のある使い方だったと思います。
「DoGA会」で参加者に配布されたバッヂ。
実は2カ月ほど前に「DoGA会」という僕が主催する交流会をはじめて開きました。SNSを使って70人ほどを招待したのですが、参加者の共通点は2つだけ。僕の知り合いであること、そして同世代であることです。
リオオリンピックの選手の横に僕の小学校時代の同級生がいたり、仕事相手がいたり、当日の会場は仕事もバックボーンもまったく異なる人たちの、いい意味でカオスな空間になりました。
会場の準備、参加メンバーの紹介パンフレット作りなど、基本何から何まで自分一人でお膳立てすることが、自分主催で「会」を開くうえで重要なポイントです(料理が得意な仲間数名に手伝ってもらいましたが)。
この会を主催するのにかかった金額が大体30万円ほど。一応、参加料はギャグで「777円」に設定したんですが、払ってくれる人の方が少なかった(笑)。
特にGive&Take的な対価を求めていて会を開いたわけでもない。でも、これをきっかけに一緒にビジネスをはじめた人たちがいたり、純粋に「友達の輪」が広がっていたり、という展開を見るだけで自分の活力になるし、いずれ回り回って自分のためになってたらラッキー。ただそれだけの話です。
良質なつながりを提供できれば、「土雅の誘いなら行ってみよう」と思ってくれる人も増えるでしょう。つまり、自分自身への信用も醸成されるのです。
いま手元に100万円があるとしたら、また別の形でDoGA会を開きたいですね。良質なつながりという財産は、若ければ若いほど複利的に大きくなっていきます。いまの僕にとっては、自分の「信用」へ投資すること以上の使い途はないです。

今の自分に本当に必要なものに投資する

麻野:世の人は、「ゴールピープル」と「リバーピープル」の2種類に分けられると言われています。
高い山に登るように将来に大きな目標を設定し、逆算して仕事をこなしていくのが「ゴールピープル」。このタイプの人は、自分の信じる目標に向かって日々を積み重ね、最終的に大きなゴールに到達します。
一方の「リバーピープル」は、文字通り船に乗って川下りをするように、最終的にどこにたどり着くか見えない中でも、次々と目の前に迫ってくる課題に取り組むことで臨機応変に自分を変えていくタイプです。
かつてキャリアの世界では、将来のキャリアイメージを描いてから仕事に取り組んでいく「ゴールピープル」的な考え方が良しとされてきました。ただ、現代は3年後、5年後の世界を誰も予測できない時代。遠い未来にゴールを設定しても、環境がガラリと変わるリスクがある。であれば、現代こそリバーピープル的な感性も重要ではないかと思います。
キャリアは二元論ではないので、タイミングによって合うやり方を選べば良いと思いますが、この分類でいうと、私はリバーピープルの要素が強いと思います。「将来必要になるはずだから」という理由での投資やインプットには全くモチベーションが上がりません(笑)。「今、まさに必要だ」と感じて、初めて必死に取り組めます。
私がコンサルタントとして教育研修をする際によく指導するのですが、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)にも書かれている通り、新しいスキルや知識を身につけるには、「インプットから48時間以内にアウトプットする」ということが大切です。たとえば教わったことを自分なりに咀嚼して、人に話すなどです。
インプットとアウトプットを同時に取り組むことで、知識や経験は血肉となる。リバーピープル的な自己投資、つまり今まさに仕事に必要とされていることを集中して学習することは、必要なインプット(学習)と、アウトプット(仕事)を必然的に同時に行えるという点でも有効です。
もし自由に使える100万円があったら、今なら「英会話」と「プログラミングの勉強」と「スーツ」に30万円ずつ使いますね。この3つの自己投資は、現在の私が取り組んでいる「モチベーションクラウド」というHR Tech領域のビジネスを成功させるために、まさに必要なものだからです。
エルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)は、1910年に創立されたイタリアを代表するブランド。
「英語」の重要性はいまさら語るまでもないですが、英語ができることでプロダクトを開発するための「情報収集の質や量、スピード」がまったく異なると感じています。先日、アメリカのHR Techのイベントに参加したとき、私が長い時間考えていた一部のアイデアが、すでに他社で形になっているのをみて、非常に反省をしました。
メルカリCEOの山田進太郎さんやビズリーチCEOの南壮一郎さんをはじめ、今、日本を代表するスタートアップの起業家たちは「英語」ができて、グローバルなプロダクトのトレンドをタイムリーに入手しています。
「プログラミング」はエンジニアのリクルーティングやマネジメントのために必要ですね。これからは何を作るにもプログラミングが付いて回ります。自分に知識がないと相手と十分に会話することもできない。
先日、GEでも全社員にプログラミング能力を義務付けるという記事がありましたが、エンジニアと話すために必要な最低限の知識は身につけたいと思っています。
そして最後が「スーツ」。もともと私は着るものに無頓着ですが、これからマーケティングをしていく上では、プロダクトの機能や価格だけでなく「ストーリーを売る」ということが重要だということを最近感じています。
先日、イタリアの老舗ブランド「エルメネジルド・ゼニア」の社長に話を聞く機会があり、すっかりファンになってしまった。ゼニアの生地がどのようにして生まれたか、なぜその生地を使うのか、1着のスーツに物語があるわけです。
これまで服にお金をかけてこなかった私にとって、「物語を着る」という経験を積むことは、必ず自分のビジネスのマーケティングに反映できるはず。それをゼニアのスーツで体験してみたいんですよ。
自己投資のポリシーは、あえて言えば「有益性(Usefulness)」。いまの自分にとって必要なものに順次投資する。それがもっとも意味があると感じます。

人生を豊かにするコツは無駄への投資

お金を軸に見ると、私の人生は山あり谷ありです。親の事業のおかげで裕福だった子ども時代から、その事業が破綻し、1500万円もの借金を背負って社会に出ることになった20代。そして立ち上げから参加した会社が上場したことで、30代には9ケタのお金を手にすることになりました。
まったくお金がない時期もあれば、値札を見ずに買い物ができる時期もある、かなりムラのある人生です。
そんな私が大金を手に入れたときにしたのは、“父親が失くしたものを取り戻す”ことでした。具体的には「家」と「車」。かつて父が建てた家があった茅ヶ崎の土地を買い戻し、自分で図面を引いて父よりも大きな家を建てました。
内装はこだわりのインテリアをそろえ、カーテンだけで500万円以上のお金を使いました。「本物のお金持ちはカーテンにお金をかける」と聞いて、私もやってみたかったのです。カッコいいけど燃費の悪い車も買いました。
結局、その後すぐに転勤が決まり、その家にはほとんどに住んでいません。無駄だったな、とも思いますが、人生を楽しくするために必要なのは、いつだって無駄なものです。おかげで、人生のマイナスを自分の力で取り戻し、やっとゼロからのスタートを切ることができたのです。
私を成長させてくれたのは、いつだって「人」でした。そして、お金は新しい人と出会ったり、ひとつ上のステージに参加するためのカギになってくれました。
もし100万円を自由にできるなら、はじめての土地に旅行に行ってもいいし、思い切り高価なものを買ってみてもいい。自分の壁を破り、ワンランク上の世界を知ることのできる体験に「価値(Value)」を感じます。
モノに使うなら「照明」を買いますね。実は、一流デザイナーの作った照明器具を集めることが趣味なんですよ。デザイナーズの照明は、まさに無駄の象徴のようなプロダクト。部屋を照らすだけなら蛍光灯で事足りますが、そこに無駄なこだわりを最大限に注ぎ込むことで、他には代えがたい美しさを生み出している。
私が家を建てたときは、アッキーレ・カスティリオーニの傑作「フロス フクシア」や「フロス アルコランプ」、コンパッソドーロ賞を受賞した「アルテミデ ティチオ」など、そのとき買えるだけの美しい照明を揃えました。
フォスカリーニ社は1981年にイタリアのベネチアで設立されたモダン照明の雄。
今なら、“もっとも美しいベネチアンウォールライト”といわれる「フォスカリーニ ヌアージュ」が欲しい。シンプルですっきりとしたデザインなのに、効率を度外視した無駄が隠されていて、そこが私の心をつかんで離しません。
最低限の衣食住を除けば、お金で買えるものというのは基本的にはすべて無駄なんです。効率を追い求めたり、知識や技能に投資したところで、大抵は空振りに終わります。しかし、無駄こそが人生を豊かにし、自らを成長させるきっかけになる。無駄を価値に変えることができるかは、すべて自分次第です。
(編集:呉 琢磨、構成:大高志帆、撮影:岡村大輔、撮影協力:MERCER BRUNCH GINZA TERRACE、過門香 丸の内トラストタワー店)