ホテル、病院、工場:米国のロボットが「ビジネス」になる理由

2016/12/1

「行儀のいい仲間」として振る舞う

 アメリカでは、本当にいろいろなところでロボットを見かけるようになった。
 ホテルに行くと、フロントデスクから客室までアメニティーを運んでくれるロボットがいる。
 まだ一部に限られているが、「歯ブラシを忘れた」「飲み物が欲しい」という宿泊客がフロントに伝えれば、そうしたモノを届けてくれるのはロボットだ。廊下を走行し、エレベーターにも乗って、客室に到着すると電話で知らせてくれるという優れものだ。
 病院でも、従業員用の通路をロボットが走行しているところが、シリコンバレーには何カ所かある。運ぶものはシーツ、食事、薬品、ゴミなどいろいろだ。
 こちらも行き先さえ指定すれば、自力で通路を走り、やはりエレベーターにも乗降して目的地へちゃんと到達する。通路では、他の従業員にぶつからないように避けて通ったり一時停止したりと、まるで行儀のいい仲間のように振る舞う。
シリコンバレーのエルカミーノ病院でシーツを運ぶAethon社のロボット
 工場でも最近はこうしたロボットが登場している。部品などが追加で必要になった際に、倉庫から作業場までこうしたロボットが走って届けるのだ。
 特別なベルトコンベヤーを設置したりする必要もなく、また人間がそのために作業の手を止めて届ける必要もなくなる。

半構造的な環境を自走する技術

 配送センターも、こうしたロボットが進出する市場となっている。背景にあるのは、われわれ消費者のオンラインショッピングである。何と言っても今や店頭よりもオンラインでの買物が急増中で、配送センターはどこも忙しくなった。
 しかも、それぞれに異なる多様な商品をこまごまとピックして箱詰めしなければならない。人間の作業員だとあちこちの棚へ足を運んで商品をピックし、それを出荷係に届けなければならないというのは、なかなかの重労働になる。その一部分を担うロボットが役立っているのだ。
 ラストマイルのデリバリーも同様だ。大きなトラックが個々の家を回って1個の荷物を届けることには、けっこうな無駄がある。時間、ガソリン、トラックの扉の開け閉めなど、そのエネルギーと手間はバカにならない。
 ところが、大型トラックは地域の配送センターまで荷物を届け、そこからは小さなデリバリーロボットが配達を担うということにすれば、時間的にも地球温暖化にも好ましい解決策となるはずだ。
 「本当にロボットは、いろいろな業界に進出し始めたなあ」と感慨深く感じるのだが、実はこれらのロボットはほとんど同じ技術で作られていることをご存じだろうか。
 要は、半構造的な環境を自律的に走行する技術が基本にあって、それを異なった業界に合うように各ロボット会社が作り替えているのだ。現在のアメリカでのロボットビジネスの強さは、こういうところにあるのだと痛感せざるを得ない。
 この自走技術は、乱暴に言ってしまえばグーグルやテスラ、トヨタなどが開発している自走車のごく単純なものである。自走ロボットが走る場所はだいたい前もってわかっているので、自走車ほど複雑な認識は不要である。
 半構造的と先に書いたが、それは時に棚や商品などが入れ替わることがあるからだ。だが、ロボットにはだいたいすでに決まった風景が見えるはずだ。また、地面もほぼ平らで、どこかでつまずくこともない。

業界向けの独自システムに注力

 自走技術は、3次元カメラ、周りの環境をキャプチャしながら自身の位置を推定するソフト、センサーなどでできている。それを元にして自走ロボットを作り、あとは対象とする業界に合わせて用途別のロボットに作り上げたのが、今のアメリカのロボットビジネスと言える。
 ホテルならば、どんなモノが届けられるのか、普通の宿泊客にも喜ばれるようなしくみは何かなどのスタディーをしただろう。病院ならば、安全性や衛生基準に特有のものがあっただろう。
 要は、ハードウェアの技術は同じでも、そのまわりにそれぞれの業界に合った独自のソフトウェアやシステムを盛り込むことが必要になる。ロボットを「ビジネス」にするためには、実はその部分がより大切なのだ。
 そしてロボット会社は、ロボットのハードウェアはもとより、的を定めた業界に精通することに力を注ぐのだ。
 日本のロボット専門家の目には、今のアメリカでビジネスになっているロボットは稚拙なものに見えかねない。アームもなく、単純な動きしかできず、人間がいないと全工程の作業が成り立たないことも多い。
 だが、新しいテクノロジーをともかく早くビジネスにしようともくろむこの国では、こうしたかたちで新しいタイプのロボットが商用化されるに至っているのだ。
 アメリカの商魂にはなるほどと感心するばかりで、それがロボットビジネスのエンジンになっている点は見逃すべきではないだろう。そして、実地で稼働させるからこそ学習できることも多いと思うのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)