【プロピッカー・豊田剛一郎】レガシーな医療の課題を解消したい

2016/11/28
医師を志した理由
11月からプロピッカーに就任しました豊田剛一郎と申します。株式会社メドレーという医療ITスタートアップで、代表取締役医師をつとめています。
代表取締役医師という見慣れない肩書からお分かりかもしれませんが、もともとは脳神経外科医として医療現場で働いていました。しかしながら、日本の医療現場の課題に強く危機感を抱き、脳外科の道を捨て、マッキンゼーそして医療ITスタートアップの代表とキャリアチェンジしてきました。
メドレーでは医療情報メディアやスマホで診療を受けられるサービスの開発運営などを行っておりますが、今回は「なぜ私が脳外科医をやめスタートアップにいるのか」「メドレーで何をしていきたいのか」などをお話しさせていただければと思います。
そもそも医師を志したのは、高校時代に読んだ脳科学の本の面白さに衝撃を受け、人の意思や心、行動をつかさどっている「脳」という臓器に興味を引かれたからです。「脳のことをよく知りたい」「よく知るには医学部だ」と医学部を志し、縁あって東京大学の医学部に進学しました。
医学部の在学中に外科医に憧れるようになり、「脳+外科=脳外科」と単純な動機で脳外科医になろうと決めました。医学部を卒業したあとは、初期研修医として2年間かけて様々な診療科を回りましたが、学生の頃からの「脳外科医になりたい」という思いは変わらず、脳外科医として勤務し始めました。
日本の医療が崩壊してしまう
ただ、憧れの脳外科医になった一方で、医師として働きだしてからずっと消えない思いがありました。
「このままで日本の医療はいいのか? 日本の医療が崩壊してしまう」
医者時代は年350日くらい病院に行って、月5~10回当直していました。これだけ医師が働いているのに世の中は医師不足。また、医療費の9割は保険料と税金ですけど、払う人が減って使う人が増えることは目に見えている。どうするんだと。
保険料を支払っているのは若手の働いている人たちですよね。でも、医療費を使用している6割が65歳以上の高齢者です。つまり、医療費を使う人は今後どんどん増えていくのに、支払う人は減り続けていくわけです。
保険料の負担は今後ますます増加していくことが予想されるなか、さすがに若い世代は耐え切れません。
また、現場の医師・医療従事者の献身的なハードワークによって医療は支えられているのが実態です。現場では医師が休日返上して働くことが当たり前になっていますが、これではいざ誰かが働けなくなった瞬間、現場が回らなくなってしまう。
そういった現実に直面したときに、「人もお金も足りないのに、なぜこんな状況なのだろう。なぜもっと限られたリソースを有効活用しようとしないんだろうか」と強く疑問に思ってしまったんです。
色々な先生に、「日本の医療はこのままでいいのでしょうか?」と聞いてみると、みんなが「このままではダメだ」と口をそろえるんですけど、解決に向けたアクションをしている人は全然いませんでした。もちろん、日々の多忙な医師としての業務の中ではそんなアクションを取る余裕がないんですよね。
「じゃあ医者やめて自分がなんとかしよう」と。誰かがやらなきゃいけないことですし、やっぱり医療の変化は医師が起こさなければいけないと思いました。
脳外科医としての仕事は面白かったのですが、周囲にたくさん優秀な人がいましたし、自分が現場を離れても医療現場への影響は微々たるものだろうと。その代わり医療全体に大きな動きを起こせる人になりたいと思ったんです。
豊田剛一郎(とよだ・ごういちろう)
1984年生まれ。株式会社メドレー代表取締役医師。東京大学医学部卒業後に脳神経外科医として勤務。その後、米国医師免許取得し、米国での病院勤務を経験。医療現場を経験する中で生まれた、「日本の医療はこのままでは潰れてしまう」「もっと患者にも医師にも日本にとってもできることがあるはず」という思いから医療現場を離れ、マッキンゼー&カンパニーでコンサルティング業務に従事。主にヘルスケア領域のマーケティング戦略やオペレーション改善のプロジェクトを経験。2015年2月より株式会社メドレーに共同代表として参加。オンライン病気事典「MEDLEY」やオンライン通院システム「CLINICS」など、医療領域に踏み込んだC向けサービスを展開している。 
マッキンゼーに転職
そこで、病院の外で働くスキルを身につけるため、そして外から見た医療の世界を学ぶために、4年半の医者生活の後にマッキンゼーの門をたたくことにしました。
医師からコンサルタントに転職というと「カルチャーギャップがあったのではないか?」と言われることもありますが、実はそこまではありませんでした。
面接で「我々は企業にとってのお医者さんだ」と言われましたが、入社後も違和感はなかったですね。マッキンゼーのクライアントファーストという文化と、医師の「患者さんのために働く」というマインドセットが近かったのです。
入社後は、製薬会社、保険会社、医療機器メーカーなどを担当しました。マッキンゼーが素晴らしいなと思ったのは、人を育てる文化が確立されていることです。マッキンゼーでは人を育てることも評価されるんです。これって、クライアントファーストと時として両立が困難なんですけど、両立させるのがプロフェッショナルだと学びましたし、仕組み化の重要性も感じましたね。プロフェッショナリズムという概念は、医師の時代ではなくマッキンゼーで学んだものが大きいです。
もともと、マッキンゼーにいるのは2~3年くらいかなと漠然と思っていました。
明確に区切っていたわけではありませんが、2~3年かけて広く業界を見渡すことで、自分のやりたいことを明確化しようと思っていたからです。また、その間に良い出会いやチャンスに巡り合うだろうとも。
ただ、そんなマッキンゼーも約1年半で去ることになります。
スタートアップの世界へ
現在共同代表を務めているメドレーの創業者の瀧口浩平から「共同代表として一緒に医療の課題に立ち向かって欲しい」と口説かれたんです。めぐりあいです。
もともと瀧口とは小学校の塾で出会ったので、20年前から知っています。とはいえ、ずっと仲が良かったというわけではなく、「お互いがお互いの道を歩んでいた」という感じでした。彼が高校生のときに会社を起こしたとうわさで聞いて、色んな意味で「自分とは住む世界が違うな」と思うこともありました。
瀧口が身内の病気に関することで後悔をした経験があって、「患者にとって納得できる医療を実現する」という思いでメドレーを起業していたことは知っていましたが、医師時代はスタートアップなんて全く関係ない世界だと思っていました。
それが、マッキンゼーに入った後くらいから瀧口と飲んだり話したりするようになって、「スタートアップも面白そうだな」と思うようになったんです。
そして、会話を重ねるうちに、患者の立場と医師の立場で登り方は違うものの、目指す山の頂は同じだと感じるようになりました。
多分瀧口も色々測っていたんだと思いますけど、最終的には共同代表という形で入って欲しいと言ってくれたんです。正式に言われてから大分悩んで待たせてしまいましたが、最終的にメドレーで想いを実現しようと決意しました。
メドレーはもともと医療介護系の求人サイト「ジョブメドレー」を事業としていましたが、私がジョインしてからは、オンライン病気事典「MEDLEY」、遠隔診療ソリューション「CLINICS(クリニクス)」を立ち上げ、口コミで探せる介護施設検索サイト「介護のほんね」をグリーさんから事業譲渡していただき、3つの新事業をスタートさせることができました。
「MEDLEY」の強み
「MEDLEY」は、医療サービスを受ける側(患者さんとそのご家族)と提供する側(医療従事者)の双方が納得できる医療を実現するために、両者の懸け橋となるような医療情報メディアとなることを目指して立ち上げました。
医療従事者による監修のもと、病気・医療に関する知識やニュースなどの専門的な情報をわかりやすく集約して伝えるオンライン病気事典で、現在では社外の協力してくれる医師が約500人もいます。
この「MEDLEY」の強みは、医療従事者が監修していることによる圧倒的な正しさです。
インターネットの問題として「知らないことは調べられない」「自分の興味のある情報、耳当たりのいい情報ばかり目に入ってしまう」という問題があります。
例えば、英語版ウィキペディアに載っている病気情報の約9割に誤りがあるという論文が出ていますし、グーグルで病気を検索したときに上位に表示される情報には、医者からみて患者に読まないで欲しい情報も少なくありません。
そういった背景から、医療の専門知識がない人がインターネットで医療情報を調べた場合、「医療情報難民」になりやすいのです。
また、現場の多くの医師も、患者がインターネットで誤った情報を信じてしまうことに悩みをもっており、正しい情報を発信したいと思っています。ただ、発信するプラットフォームがこれまでありませんでした。
協力医師は口コミで増えていきました。善意にだけ頼っていてもだめなのですが、そんな思いを持ったたくさんの医師が最新の知見や現場の情報を日々アップデートしてくださることが、我々の何よりの強みです。
「MEDLEY」は「医療について調べるならまずは『MEDLEY』」といったように、医療の分野ではグーグルを越えるような存在になることを目指しています。
社名と同じ名前がついている、まさに会社の魂でありシンボルであると思っています。
遠隔診療の可能性
2016年の2月にサービスインした、遠隔診療ソリューション「CLINICS」も非常に大きな可能性を感じているサービスです。
「CLINICS」はPCやスマホを用いて、予約からビデオチャットによる診療、決済までがワンストップで可能となる遠隔診療のシステムですが、この遠隔診療は医師と患者のコミュニケーションのあり方に多様性をもたらせる、画期的な変化です。
もちろん、全ての診療がオンラインになることはありません。ただ、この遠隔診療によりライトな医療との付き合い方も増えてくると思っています。
昔は「痛い」「つらい」「けがをした」などの理由で病院に行っていましたが、現在では症状のない病気や、予防の意味合いが強い医療も広がっています。「病気」のタイプが広がっているのだから、「診療」のスタイルが広がってもいいだろう。そう思っています。
例えば病院に通いやすくなれば、重い病気になる前に医者とコミュニケーションを取って早期の治療に結びつく患者が増えるのではないでしょうか。
プロピッカーとして
医療はこれまでレガシーな領域であり、その原因は「情報の非対称性」と「多様性・選択性の乏しさ」があると思っています。これらの課題を解消するような、そして患者さんのためはもちろん、医療従事者や国にとっても必要なサービスをこれからも創っていきたいと思っています。
情報の非対称性の原因の1つに、医師からの情報発信不足があると思っています。最近では発信される医療従事者が増えてきましたが、私もNewsPicksでプロピッカーとして情報発信の機会をいただけたことはとてもうれしく思っています。
医療にはまだまだ解決しないといけない重要な問題はたくさんありますが、一つ一つのニュースに派手さはないので、誰かが声を上げないとどうしても埋もれがちになります。
ただNewsPicksのピッカーさんにはそんな医療分野のニュースにも、自らの現場経験やファクトを出し、思いを持ってコメントをしていけば、ちゃんと受け入れていただけるのではないかと思っています。
時には厳しいこと、暗いことを言わないといけない場合もあると思います。しかし批判を恐れずに、自分が発信すべきと思う内容をしっかりとコメントしていきたいと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
(構成:上田裕)