スタンフォードの世界的知性が語る「トランプ後の世界」

2016/11/27
2016年11月8日に行われたアメリカ大統領選。その1週間後、NewsPicks編集部は、アメリカ取材歴30年の国際ジャーナリスト・大野和基氏とともに、緊急の現地取材を行った。向かった先はカリフォルニア州のスタンフォード大学。国際政治分野で常に未来を見通してきた、2人の「世界的知性」に話を聞くためだ。
特集の予告編では、大野氏が取材に対する問題意識を語る。
7月にトランプ勝利を確信
2016年7月、私は開高一希というペンネームで『アメリカはなぜトランプを選んだか』という書籍を出版した。
同書ではこれまでのトランプ発言を細かく拾い上げ、彼の人間性や政策面を検証していった。企画段階では『ドナルド・トランプ、かく語りき』というタイトルだったが、取材を進めていくうちに「トランプが勝つ」と確信した私は、上記のタイトルでの刊行に踏み切った。
大統領選の翌週、スタンフォード大学へと足を運んだ。
なぜ私は、トランプが勝つと確信したのか。それは、日本では報じられていない、現地の声をつかんでいたからである。
私は1980年代、アメリカでジャーナリストとしての活動を始め、以来30年以上、アメリカ社会や政治をウォッチしてきた。特に今回の選挙戦は異例の経過をたどったが、取材を進めるにつれ、報道されている以上にヒラリー・クリントンは嫌われ、トランプの発言は正しい、と感じるようになった。
オバマ大統領への失望
トランプの支持者層は主に2グループに分かれる。
1つは、白人の労働者層、もう1つは、実は「隠れトランプ」と呼ばれる白人のエリート層だ。
まずは前者について分析してみよう。白人の労働者層は「我々は搾取されている」という意識を持ち、日本人が思っている以上に、オバマ大統領に対する反感が強い。
「理想は掲げるが、何も変わらなかった」。オバマ大統領の8年間に失望する有権者は多い(写真:ロイター/アフロ)
なぜなら、オバマ大統領の8年間は、グローバル化が進行し、アメリカの仕事が次々に海外に流出していった8年間だったからだ。その間、アメリカの経済格差は広がり、合法・違法問わず、安い労働力である移民が大量に流入した。
その中でオバマ大統領は、グローバリズムを推進しこそすれ、国内生産の海外流出については、まったく手を打たなかった。こうした無策が白人労働者階級の怒りを呼び「ヒラリーならオバマ時代と変わらない。いや、もっと悪くなるはずだ」という意識につながった。
今「もっと悪くなるはずだ」と書いたのには理由がある。
これも日本ではほとんど報道されていないが、実はヒラリー・クリントンは、経歴的に「真っ黒」の人物だからである。大統領選でヒラリーの露出が増えるにつれ、彼女の悪事も露見していく、そうした確信が私にはあった。
本特集の第1回では、クリントンの悪事の中身と、トランプ勝利を確信した理由について詳しく触れたい。
第1回「ヒラリーの黒歴史。白人エリートにさえ嫌われた必然」はこちら(写真:ロイター/アフロ)
民主主義は揺らいでいるのか
第2回以降のテーマは、「では今後、トランプ後のアメリカでは、内政や外交はどのように進展していくのか」である。
それを知るためにはまた、現場に足を運び、識者や一般の人びとの声に真摯に耳を傾けなければならない。
そこで大統領選の翌週、2016年11月16日から17日にかけ、私はNewsPicks編集部とともにスタンフォード大学に出向き、2人の「世界的知性」に見解を聞いた。
1人目は、『歴史の終わり』などの著書で知られる、国際政治学者のフランシス・フクヤマ氏だ。
フランシス・フクヤマ氏
フクヤマ氏とは2007年から、かれこれ10年来の付き合いだ。
世界中で「民主主義のバグ」ともいえるポピュリズムが吹き荒れ、トランプ現象もその文脈の中で捉えられるなか(私は、必ずしもそうとは思っていないが)、この状況を読み解ける人物として、彼の顔が頭に浮かんだ。
共産主義に対する民主主義の勝利を宣言し、「歴史は終わった」と宣言したフクヤマ氏。その見解は、民主主義の価値を何よりも信じる、彼らしいものだった。
2人目は、経済史・金融史を専門とする歴史学者のニーアル・ファーガソン氏だ。
彼とは初対面だったが、当初30分のインタビュー予定が1時間を超えるなど、議論は白熱したものになった。
ニーアル・ファーガソン氏
彼も私と同じく、2016年6月時点で「トランプ当選の確率は、世間が思っている以上に高い」とするコラムを発表。本インタビューでも、「世論調査の結果を当てにするなど、ブレグジットの教訓を忘れたのか」「ほとんどのプロコメンテーターの意見は疑わしい(suspicious)」などと、舌鋒鋭くメディアを批判した。
インタビュー全般についても、彼の専門である歴史的な観点からトランプ現象を読み解く、大変興味深い内容になった。
そんな2人は、ある意味、日本のメディアではあまり報じられていない観点から話をする。しかしそこからは、アメリカ政治・社会のリアルな姿が垣間見える。
ぜひとも、「トランプ当選」に戸惑い、歓声を上げるアメリカの生の声を感じ取っていただきたい。
(文:大野和基、撮影:野村高文、バナーデザイン:福田滉平、バナー写真:AP/アフロ)