製造業界の「鎖国状態」を解放する、日本の新ユニコーン候補
GMO-VP | NewsPicks Brand Design
2016/11/28
キーエンスに13年間在籍した後、製造業界に特化した画期的なプラットフォームの整備を進めるべく「アペルザ」を創業した石原誠氏。目指すは、高度経済成長期のような製造業の隆盛だ。GMO VenturePartners(以下、GMO VP)は、そのビジョンと事業の将来性に着目し、単独で1.5億円の投資を行った。アペルザが目指す未来のビジョンについて、石原氏、GMO VPの村松竜氏、宮坂友大氏の3人に話を聞いた。
GDPの約2割を占める基幹産業を改革
──まずはGMO VPが、投資先としてアペルザをどう評価したのか教えてください。
宮坂:私たちはスタートアップを分析する際、大きく3つの軸で評価します。1つ目は「市場」。できるだけ大きく、かつイノベーションの余地がある(非効率性が大きいなど)ことが理想です。
2つ目は「収益モデル」。毎月固定の売り上げが見込まれるストック型、新規客や新たな購買が発生したときに生じるトランザクション型に分類できますが、まずこの2つのバランスを見ます。それに加えて、収益の多様性・拡張性も注視します。
3つ目は「マネジメントチーム」です。参入分野の事業に対する知見の深さや経験値があるか、あるいはイノベーションを発生させるエッセンスがあるか、その可能性を探ります。
アペルザは3軸の全てにおいて非常に高い評価でした。まず市場規模でいえば、製造業界は国内GDPの約2割を占め、国内企業の6社に1社が製造業関連、就業人口の10人に1人が製造業に携わっている巨大産業です。
収益モデルにおいても、ストックに加えて製品が売れるたびに課金されるビジネスモデルを組み合わせているため、アップサイドが期待できる。非常に収益性の高いプラットフォームになる可能性があると思います。
左からGMO-VPの村松氏、宮坂氏、アペルザの石原氏。3者がはじめて顔を合わせた際、ほぼ即決で投資判断が決まったという。
村松:最大のポイントはマネジメントチームです。石原さんは前職のキーエンスで10年以上、製造業界の旧態依然とした構造を体験し、課題を知り尽くしている人物。アペルザのビジネスは、製造業を熟知している人物でしか作り得ない、従来の構造を根本から改革するものでした。
これまでGMO VPが投資した先で時価総額1000億円を超えた会社は5社ありますが、アペルザは6社目になる可能性が高い、と確信しています。
製造業が「鎖国状態」な3つの原因
──日本の製造業界の課題とは、具体的には?
石原:よく知られているように、日本の製造業の技術力は極めて高い。しかし、情報技術分野での改革がかなり遅れていて、オープン化が当たり前のIT業界などと比べると、ほとんど「鎖国状態」なのが現状です。その結果、業界が持つ本来のポテンシャルが生かされていません。
具体的には、「情報流通」「コミュニケーション」「取引のあり方」という3つの問題が、業界の成長を妨げる大きな壁になっていると私は考えています。
石原誠(いしはら・まこと) 新卒でキーエンスに入社後、2001年より社内ベンチャープロジェクトとして「iPROS」の立ち上げに参画。執行役員としてサービス開発、メディア運営、経営企画を担当。退職後、EduTech系スタートアップの設立を経て、株式会社クルーズを創業。2016年7月のFAナビ及びオートメ新聞との経営統合を機に、アペルザの代表取締役社長に就任する。
そのなかで、われわれは「部品・設備の購買フロー」に着目しました。従来、技術者は新しい製品開発を行う際に必要となる部品・設備を、業者の展示会に足を運んだり、取扱店が配るカタログなどを参考にしながら比較検討していました。
しかし、製造業者が使うアイテムは、文字通り天文学的な数があります。例えば、ある大手商社が扱っている商品のバリエーションだけでも、800垓(1兆の800億倍)という数に及びます。
そして、購買に至るまでのサプライチェーンは極めて複雑です。商社、卸問屋、販売代理店などが複雑に絡み合い、1つのアイテムを買うまでに4つの流通業者が絡んでいるケースも珍しくない。これでは、技術者は自分にとってベストな製品を見つけることができません。
こうした古い業界構造はもはや限界が来ているのですが、長年の慣習によって変えることができないまま聖域化してしまった。それがイノベーションの妨げになっているのです。
製造業版の「価格.com」的サービス
石原:この課題を解決するべく、製造業の部品・設備に特化したBtoBの購買プラットフォームを構築したのがアペルザです。膨大な数の製品の詳細情報をオープンに提供しているほか、今後はサイト上で製品を直接購買できる機能を提供していく予定です。
さらに製品の組み合わせや使い勝手といった、現場で実際に行われている技術者同士のコミュニケーションに通じる内容を、口コミとして掲載していきます。
アペルザを見れば、これまでのような苦労なく、技術者にとってベストな製品が素早く購入できる。そんな世界観を実現したいと考えています。家電やAV機器の比較サイト「価格.com」の製造業版と考えればイメージしやすいはずです。
アペルザの最後発サービスにして、社名(ラテン語で“オープン”を意味する)を冠した「Aperza(https://aperza.jp/)」。
宮坂:われわれが特に注目しているのは、製造業界の市場規模に対する「ネット化率の低さ」です。いまだに約束手形など、対面の決済が当たり前に行われている。商社や販売店はホームページを持っているところも少なく、当然、オンライン決済を導入している事業者はほとんど見られません。
村松:私自身、20年近くeコマースに携わっていますが、これだけ巨大なマーケットを有しながら、これほどIT化への取り組みが遅れている業界を他に知りません。しかし、それだけ伸び代があるということです。
宮坂友大(みやさか・ともひろ) ネット総合金融グループ・インターネット銀行の設立に参画、2008年よりGMO VenturePartnersに参画。US・アジア全域に投資するネット分野に特化したファンドを設立・運用。現在の運用総額は約100億円、複数の投資先の経営支援にも従事。
製造/IT両業界の知見が不可欠
──ところで石原さんは、なぜ現在のサービスを手がけようと思われたのでしょう。
石原:私はもともと、ファクトリーオートメーション用のセンサーや測定機器などを扱うキーエンスで、コンサルティングセールスをしていました。
当時は毎日、朝から晩まで技術者の人たちと会うのが仕事でしたから、現場に存在する問題を、肌身を通じて感じていました。それが先に紹介した3つの問題です。
そこでアペルザの前身とも言える「iPROS(イプロス)」というサービスを、2001年に社内ベンチャーとして立ち上げました。サービスは瞬く間に浸透し、私が携わっていた14年間でアジア8カ国4万社に広まって、数十億円規模のビジネスになりました。
イプロスがデータベースに特化していたのに対し、アペルザは「プラットフォーム」として、全方位的なサービス提供を考えています。つまりイプロスの頃以上に、大きな課題解決に挑戦しています。
重要なのがメディアとしての機能です。現在、われわれはユーザー参加型の「ものづくりニュース」、IoTなどの情報に特化したキュレーションサイト「Industry 4.0 Central」、さらに業界紙として40年以上の歴史を誇る「オートメーション新聞」を統合し、運営しています。
そして、製品のカタログや技術資料をメーカー横断で提供する「Cluez(クルーズ)」と、比較サイトの「Aperza(アペルザ)」が重なり、1つのプラットフォームで情報の取得、比較・検討、購買をワンストップで実現する場を提供していきます。
アペルザの各サービスは製造業における実際の購買フローに対応する形で設計されている。
宮坂:石原さんはキーエンス時代の経験に加えて、近似の事業である「イプロス」を成功させた実績がある。さらに、直前にはモバイルアプリ開発の会社を立ち上げ、2014年度のApp Storeベストアプリを獲得。製造・IT業界両方でバランスのよいキャリアを誇る人物は、そうはいません。
またCOOの田中大介さんは、IBMで製造業向けコンサルティングを経験、その後独立して事業を伸ばされた実績がある。メディア事業からは、老舗業界紙の「オートメーション新聞」の編集長として40年以上にわたって業界を見てきた藤井裕雄さんも参画されています。
さらにCTOには、楽天でアジアのヘッドクオーターの立ち上げから、海外開発チーム150人規模をマネージし活躍してきた塩谷将史さんという優秀な方が就任しました。
石原さんのビジョンやビジネスの将来性に引き付けられ、これだけのメンバーが集結したこと自体が驚異的だと言えます。
当面のライバルは中国の「アリババ」
──アペルザのサービスが広まると、日本の製造業界はどう変わっていくのでしょう?
石原:今後、2つの変化が起きるはずです。1つ目は、サプライチェーンを含めた産業構造がシンプルになる。その結果、より効率的な取引プロセスと、質の高い製品開発環境が実現します。
2つ目は、データ活用の本格化による更なるボーダーレス化です。今以上に、日本の技術を海外メーカーが求めやすくなる。これも大きい市場になると考えています。
村松:世界の技術者たちは、常に革新的な製品を作ろうと、高精度な製品や技術力を持つ企業を国を問わず探しています。残念なことですが、今その役割を担っているのは、中国のシリコンバレーと言われる深圳です。
石原:技術力においては、中国より日本の方が上。しかし、中国にはBtoBオンラインマーケットに強い「阿里巴巴(アリババ)」があり、それが中国製造業のグローバル化における“発射台”になりました。
アペルザは日本の製造業の発射台になることを目指していますから、当面のライバルはアリババだと考えています。
日本の製造業に再び隆盛を
宮坂:われわれGMO VPは、「時価総額1000億円を目指せるベンチャー」を創出したいというスタンスで投資を行っています。ただ一方で、アペルザに投資をしたのは、インベスターとしての立場からだけではありません。
村松:GMO VPの理念は、「経営者と同じ目線に立ち、事業を成長させる」こと。製造業が再び隆盛することは、日本全体の発展にとって極めて重要な意味を持ちます。その未来図をアペルザと一緒に切り開いていきたいと考えています。
石原:投資後のサポートやグローバル展開への支援など、GMO VPは上場前から上場後まで長期的スパンで一緒に歩めるパートナーだと考えています。今回の増資を追い風にして、やるべき打ち手を最速で実現していきます。
(編集:呉琢磨、構成:杉山忠義、撮影:岡村大輔)
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